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【旅レポ】英国道中膝栗毛 ロンドン・ロンドン・ロンドン その④

前回 ↓

前回までのあらすじ;担当者はメールを見ていなかったが、高額な料金と引き換えに国際電話をかけることによってなんとか荷物を手元に取り戻したお湯。あとはヒースローに着くマツジュンを待つだけのはずだったが…!?

 ヒースロー空港の到着ターミナルで僕は上海から飛び立ったはずのマツジュンを待っていました。ただ待つだけなのも時間がもったいないので、iPadを空港のWi-Fiに繋いで、ロンドンでの宿を探すことにします。アイスランドで泊まるはずだった宿にキャンセルの連絡を入れるのも忘れません。

 思い返せば、日本で年末のロンドンのホテルの予約をするのは一苦労でした。ロンドンの中心街を拠点としてホテルを取ろうとしたのですが、年末のハイシーズンということもあって安い宿がほとんど埋まってしまっており、経済的な宿泊計画を立てるのはかなり難しい作業でした。

 最後にはアメリカン・エキスプレスのトラベルデスクに手伝ってもらったりして、なんとか宿をおさえることができたという経緯があったので、当日宿泊所の予約ができるかどうかは、出たとこ勝負というところでした。

 取り急ぎ、アイスランドで泊まるはずだった12月28日(本日)、29日の宿を押さえなければなりません。ちなみに12月30日はヴィクトリアのホテルに、12月31日から帰国予定日である1月2日まではホテルアイビス・アールズコートという「映画けいおん!」の舞台にもなった宿に宿泊する予定でした。

 贅沢はあまり言ってられませんでしたが、なるべくアクセスがよくて安い宿はないかと調べていると、ラッセルスクエアというロンドン中心街に、なんと30㎡の広さで朝食付き、2段ベッド、専用シャワールーム付きで、なおかつ2泊で24,000円(一人あたり6,000円/泊)程度という破格の宿を発見することが出来ました。これをホテルRとします。

 「これは安い」僕は驚きました。驚くと同時に、「きっと僕らみたいに何らかの事情で急にキャンセルを入れなくてはならない人たちがいたのだろう」と、僕は幸運の女神の微笑みに感謝しました。

 ひとまずその宿をチェックし、他にも調べ物をしていると、携帯にメッセージが届きました。

 そう、ついにその時が来たのです。

 マツジュンからの着信でした

 「無事にヒースロー空港に着くことが出来た」

 ということだったので、僕は到着ロビーのカフェ側にあるベンチで待っている旨を伝えました。

 入国審査と荷物のピックアップがあるでしょうから、少し時間はかかるでしょうが、無事に彼がイギリス入り出来たというのは朗報でした。

 無理もないことですが、僕はこころなしか、そわそわしていました。そして数十分後、わらわらと出てくる入国者の中に、見覚えのある顔を確認し、ひとしおの安心感が押し寄せてきました。

 彼も僕の姿を発見し、苦笑いを浮かべながら近づいてきます。

 マツジュンです。

 マツジュンは到着が遅れたことを慇懃丁寧に侘びましたが、前回までの記述の通り、彼のせいではなかったので、僕は全く気にしていないことを伝えました。そして「ロンドンをゆっくり観光できる時間が出来て逆に良かったじゃないか」と言いました。1週間の旅程の中でアイスランドとイギリスを見て回るというのは、確かに詰め込み過ぎだとも考えていたので、それはほとんど本心でした。

 現地時間18時30分。本来合流する予定だった時間から実に24時間の時を経て、僕たちはアイスランドに出たり入ったりしたり、上海で軍事パレードに巻き込まれたりしながら、再会する事ができたのでした。

 さて、そこからの行動は迅速に行わなければなりません。まず、僕はマツジュンが到着するまでに探していたホテルRの案を提示し、ここで予約をとってしまっていいかコンセンサスを取ることにしました。宿も決まらなければロンドン市内に出ることも出来ないからです。

 僕のリサーチは優秀だったようで、ほぼ二つ返事でマツジュンからOKをもらうことができました。

 予約が埋まってしまわないうちに、僕は素早くチェックしていたページへ飛び、2泊分の予約と決済を完了しました。

 これで、イギリス滞在中に野宿をする心配はなくなったわけです。

 時刻は19時を迎えようとしていました。空港の写真を撮りたい気持ちもありましたが、もう外はすっかり暗くなっていますし、色々ありすぎて、流石にもうホテルでゆっくりしたい気持ちが勝っていました。マツジュンも移動で疲れている事でしょうから、僕らは地下鉄に乗ってラッセルスクエアへ向かうことにしました。

 マツジュンは駅で5ポンドのデポジットを支払い、オイスターを発行しました。僕はアメリカン・エキスプレス・グリーン・カードを持っていたので、カードを改札にタッチするだけで勝手に決済してくれます。なので、オイスターを発行する必要がありません。実にスマートに旅をすることが出来ました。

 「あくしろよ

 と、オイスターを発行するマツジュンを急かし、改札を抜けると、日本のそれとは違う趣きの風景が広がっていました。ベンチも違えば柱のデザインも違うし、列車のデザインも全然違います。何より、「うわあ、全部英語だ」と極めて低知能な感想を抱きました。

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 電車の中もポールがいっぱい立っていたりして、日本とぜんぜん違うな、と思いました。

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 ラセルスクエアに着いた僕らは旅行カバンをゴロゴロと引きずりながら見慣れない暗い街並みをうろうろとし、目的のホテルへと到着しました。

 最初に抱いたのは、「こ、これはホテルなのか?」という疑念でした。

 おそらく僕たちと同じく、海外から来たであろう多種多様な人種の若者たちがたむろしており、インターナショナルスクールという様相を呈していました。そして、そのカウンターの安っぽいこと。受付の金髪で眼光の鋭いお姉さんもやる気がなさそうで、なんだか怖そうだな、という印象を受けました。

 「本当にここであっているのかな」とiPadを確認しました。僕はそこで致命的な誤りに気が付きました。僕が「ホテル」だと思いこんで予約していたのは、「ホステル」だったのです。所謂、安宿でした。お金のない若者たちがたむろしているわけです。道理で安いはずだと納得がいきました。

 「まあ、安く泊まれるには違いないし、背に腹は代えられない」と自分を説得して、受付に進みます。

 名前を伝え、iPadの予約確認pdfを見せます。

 「それ、いらないから」

 「えっ」

 「名前だけでいいから。pdf見せなくていいから」

 「あっはい」

 めちゃくちゃ怖いです。これが英国流の旅行客への洗礼なのでしょうか。

 「朝食は朝6時半から9時ね。そっちのドアから入って。1食5ポンドで食べられるから」

 冷たい目のお姉さんがぶっきらぼうに言います。僕は聞き間違いじゃないかと思いました。たしか予約した時点では朝食込みのはずだったのでは? ここは毅然として聞き返したほうが、後々トラブルにならずに済むと僕は思いました。

 「わかりました、どうもありがとう」

 立派なことを思うのは誰でも出来ますが、実行するには勇気を伴います。お姉さんの冷たい眼光の圧力の前に、僕の心はへし折れていました。だめだ、確認するのはネットのページを確認してからでもいい、とりあえず部屋に入って体制を立て直そう、と僕は戦略的撤退を決断しました。

 エレベータがーついていないので重たい荷物をふうふう言いながら引っ張って狭い階段を登り、部屋へと到着します。

 そこには、信じがたい光景が広がっていました。

 ネットに記載の通り、二段ベッドが設置してあります。壁には飲食禁止の張り紙(水くらいは飲むでしょうに、誰が守るのでしょうか)。

 奥を確認すると、「これは詐欺じゃないのか」と思うくらいチャチなシャワールームがトイレと洗面台に併設してありました。が、まあしかしそれも専用のシャワールームには違いないので、嘘は言っていません。

 問題は、部屋の広さです。

 インターネットで確認したときには確かに30㎡と記載がありましたが、そこに広がっていたのはどう見ても10㎡程度の極狭な床でした。一人が旅行カバンを広げてしまえば、ほとんど足の踏み場がありません。

 おまけに、その部屋は窓をあけっぱなしにしていると、外で「ジョボジョボジョボ」と水が流れる音がしてしばらくすると、ウ○コのにおいが漂ってくるということが後に判明しました。おちおち安心して換気もできない有様です。

 僕とマツジュンは、聞いていた話とのあまりの乖離ぶりに顔を見合わせました。

 いい年こいたヘテロの男同士がずっと見つめ合っていても気持ちが悪いだけなので、とりあえずその部屋で一息つき、予約をしたインターネットのページを確認してみます。間違いなく「30㎡」「朝食付き」の記載がありました。

 僕は「聞いていた話と違う」と、旅行会社に怒りのメールを送りつけておきました。

 ただ憤っていても埒が明かないので、僕らは狭い床の上、代わりばんこで

旅行カバンを明けたり閉めたりして支度をし、夜の街に夕食を食べに繰り出すことにしました。

 年末年始時間で開いているかどうかわかりませんでしたが、近所にショッピングモール的な場所があったので、そこに行けば何かにありつけるだろうと踏んで、そこへ向かいます。

 12月のロンドンの夜は、寒いには違いありませんでしたが、身も凍るほどの寒さというわけでもありませんでした。

 クリスマスの名残なのか、年末用の飾り付けなのかはわかりませんでしたが、ところどころイルミネーションが施された夜道を楽しみながら、僕らは歩きました。

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 結局その晩は、「ナンドス」というチキン・チェーンで夕飯を済ませることにしました。ナンドスとは、イギリスには350店舗以上もあるメジャーな外食チェーンで、ペリペリチキンという南アフリカ発祥のチキン料理が楽しめる店です。

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 僕らはセットを注文し、その量の多さに「夕飯に食べるものではなかったな」と、胃もたれしたお腹と多少の後悔を抱えながらも、イギリスらしい夜を迎えられた満足感を抱きながら、帰途に付きました。お店はラストオーダー間際でしたが賑わっていましたし、味はスパイシーで、たいへん美味しかったです。

 帰路、僕は物珍しいものを発見しました。

 「見て、マツジュン。こんな季節なのに桜が咲いている」

 「本当だ。不思議なこともあるものだな」

 街路樹の一角に、鮮やかなピンク色の花が咲き乱れていました。12月のロンドンに、満開の桜というのは、場所的にも時期的にも不釣り合いな風情を感じられて、それまでの慌ただしさが一転、不思議な空気に包まれました。

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 それはまるで、イギリスに来た僕たちを暖かく迎え入れてくれているようでした、なんてロマンチックなことは微塵も思いませんでしたが、なかなか見ることが出来ないものを見ることが出来た満足感はありました。

 帰国して調べてみましたが、どうやらそれはアーモンドの木だったようなのですが、それでも面白いものを見ることが出来ました。

 途中で

・値札のところにあるべき商品がない

・並んでいる生鮮食品が一様にしなびている

・お客さんが会計を待つ列があまりにぐちゃぐちゃになるので、スーツを着たアフリカ系のおじさんが怒鳴りながら整列させる

という治安が世紀末のようなファーマシーに寄って、ミネラルウォーターを購入しました。ホステルの部屋には「飲食禁止」と書かれていましたが、夜間に水分補給するくらいは許してくれるでしょう。

 ホステルに着く直前に、マツジュンが言いました。

 「やっぱり、朝食の件は再確認したほうがいいよね」

 薄々気がついていましたが、やはりそれは避けられない運命のようです。出来ればあの眼圧の鋭いカウンターのお姉さんとは二度と関わり合いになりたくなかったですが、払わなくていい5ポンドを払って食べる朝食ほどまずい朝食もないように思いました。

 「仕方ない、もう一度対決するしかないか

 僕らは意を決して、ホステルのカウンターへ続く扉を開いたのでした。

 やっとロンドンへたどり着いたマツジュン。そして二人が開始したロンドンの道中は、その先行きを暗示するかのようにトラブル続きだった。次回、カウンターのお姉さん懐柔編。こうご期待。(続く)

次回 ↓


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