見出し画像

【旅レポ】英国道中膝栗毛 ロンドン・ロンドン・ロンドン その②

その①はコチラ ↓

前回までのあらすじ;ロンドンで合流するはずだった友人が来れなくなり、一人ヒースロー空港に取り残されたお湯。アイスランドへの乗継便の出発時刻が迫る中、コンセントのアダプターがないことに気がつく。果たしてスマホの充電はどうなるのか!?

 アイスランドのコンセントはタイプCという、差込口が丸型の形状をしているものであり、日本から持ってきた電気製品は専用のアダプターがないと使用できません。

 専用のアダプターは事前に日本で購入したものを旅行カバンの中に入れていたのですが、その旅行カバンは北京での乗り継ぎに失敗し、到着するのが2日後ということが判明しました。

 このまま単身アイスランドへ飛んで、仮に向こうのWi-Fiやモバイル回線に接続できたとしても、スマホの充電が切れてしまえば詰みです。現地での調べ物ができないことはおろか、離れ離れになっているマツジュンとも連絡が取れなくなります。それは流石に起こってはならない事態でした。

 「いや、待て。空港内には多数売店がある。仮にもここは国際線のターミナルだ。どこかの売店で売っていてもおかしくはない」

 僕はうつ病のくせにポジティブに考えることにしました。ロビーにあった店舗一覧の地図に端から端まで血走った目を走らせ、家電が売っていそうな店にアタリをつけます。

 しかし、イギリスの店など知っているはずもないので、どこが何を売っている店なのかわかりません。困り果ててしばらくうろうろしていると、偶然にもアジア系の女性職員がそこを通りかかったので、藁にもすがる思いで声をかけました。

 「すみません、国際規格のコンセントのアダプターを売っているお店は近くにありますか」

 「あれ、日本人の方ですか。日本語で大丈夫ですよ」

 なんとその方は日本人のインフォメーション・スタッフの方で、日本語でやりとりすることができました。

 「アイスランドに行く予定なのですが、諸事情あってアダプターがないのです。どこかで売っていませんか」

 「それであればW・H・スミスに行けばあると思いますよ、お気をつけていってらっしゃいませ」

 僕はその懇切丁寧な接客応対に感動し、深々とお辞儀をして、彼女が教えてくれた店に行きました。彼女の言う通り、そこには数ある国際規格のアダプターが所狭しと並んでしました。

 「これならいけそうだ」と思い、タイプCのアダプターを探しました。しかし、なかなか見当たりません。どのメーカーのものもタイプCは売り切れているのです。「まずいぞ」在庫切れを想定していなかった僕は焦ります。店内をぐるぐる回り、なんとか「たぶんアイスランドでも使えるだろう」というかたちのものを探し当てました。

 しかし値札を見て仰天します。その価格、なんと24.99ポンド(当時の換算レートで約3,600円)。日本で購入したアダプターが500円くらいだったので、いくら空港価格と言えど、あまりに法外な値段に思えました。

 「皆どれだけ空港でアダプターを買っているというのだ! もっと事前に準備して旅行に望むべきだろう!」と自分のことは棚に上げて腹が立ちましたが、背に腹は変えられません。他の安価なアダプターは売り切れてしまっているのです。懐は多少痛手を被りますが、それを購入するしか道は残されていませんでした。

 僕は泣く泣く商品を手に取り、セルフレジへ進みました。為替の手数料が安価だと聞いていたので、現地での決済は楽天プレミアムカードに決めていました。バーコードを読み取り、カードをスラッシュします。

 しかし、レジには何の反応もありません。「スラッシュの方法が悪かったのかな」と思い、もう一度トライしますが、結果は同じでした。

 「もしかして、急に海外で決済したから不正利用と思われてカードを止められたのか!?」

 後にわかることですが、レジとカードの相性が悪く使えなかっただけとのことでしたが、時間も迫る中でスムーズに決済できなかった焦りで「使えねえな! このカード!」と僕は憤りました。慌ててサブの財布を取り出し、海外で決済しても問題なさそうなカードを探します。結局、T&Eカードであるところのアメリカン・エキスプレス・グリーン・カードを使うことにしました。旅行に強いと言われているアメックスなら国内発行のものであっても海外で問題なく決済できるだろうと考えたからです。

 予想は当たり、アメックス・グリーンでは無事に決済することができました。楽天プレミアムカードは使用停止になっているかも知れないことを考えて、もうお役御免です。僕は今後、アメックスで決済していくことに決めました。(券面が全世界共通なので、お店で見せればカードで決済することをスムーズにわかってもらえるだろう、という安心感もありました。また、後述しますがロンドンの地下鉄やバスでオイスターカード(ロンドン地下鉄のSuicaのようなもの)として利用でき、改札でアメックスをタッチするだけで勝手に決済してくれる仕様になっていたので、そこも後々便利だろうという考えもありました。)

 これで一安心です。僕は購入したばかりのアダプターをリュックにしまい、出発ゲートへ向かいました。

 アイスランド行きの飛行機の中では、それまでの疲れがどっと押し寄せてきて、爆睡してしまいました。

 気がつけば深夜のアイスランドに到着していました。乗客はけっこういたように思いますが、入国審査もさほど時間はかからず、到着ロビーでは人もまばらでした。

↓ アイスランド名物 ブルーラグーンのお出迎え看板

画像1

画像2

↑ キャリーケースピックアップコーナーのお出迎えパフィンちゃん 

 今回は旅行カバンをピックアプする必要もないので、さらっとゲートを抜け、空港のWi-Fiに接続してTwitterを見つつ、宿泊予定のホテルの位置を確認しました。空港から徒歩圏内のホテルを予約していたのは僥倖でした。これでケプラヴィーク国際空港からレイキャビクへ移動し、市内のホテルを探して…ということになっていたら、僕の心はへし折れていたでしょう。

 もう疲労困憊状態でした。

 エアポート・ホテル・オーロラ・スターというホテル名を確認し、空港を出ます。当然ですが、あたりはもう真っ暗で人通りも少なく、初めて訪れる異国の地を一人でうろつくのは非常に恐怖でした。

 ホテルまでの道に歩行者用の道路が見つけられず、仕方なく気をつけて車道を歩いて向かいました。深夜なので交通量がほぼゼロだったのでなんとか辿り着くことができましたが、日中の車が行き交いする時間帯だと、どういう風にアクセスすればよいのでしょうか…。

 ホテルの受付で

 「2名で予約していたお湯という者ですが、1人来られなくなりました

 「あっ、ふーん・・・(察し)

 という屈辱的なやり取りをし、シンドラー社製のエレベーターに乗って部屋に向かいました。受付のお姉さんには、キャリーケースも持たない軽装な男がアジアから来たものだなと思われたことでしょう。

 さて、部屋についてからが一仕事です。

 アイスランドの現地時間では24時から25時というところでしたが、上海では午前7時から8時という時間です。すなわち、今後の動向をマツジュンと話し合って決めるには、これからLINEで会議をしなければならないのです。

 ひとまずホテルについた旨をマツジュンにメッセージし、とりあえずシャワーを浴びさせてくれと言い、もう前にいつ浴びたかも覚えていない入浴を果たしました。

 実は27日午前10時発の関西国際空港からの便に乗るために、僕は26日の晩に埼玉県の大宮から夜行バスに乗って大阪に向かっていたのでした。我ながらアフォの極みと言えます。(いま考えると、夜行バスが何らかのトラブルで遅延した場合、日本初の飛行機にすら乗れていなかった可能性もありました。よくぞ予定通りアイスランドに到着したものだと思います。)

 なので、26日の夜22時頃からずっと移動していた計算になります。アイスランドと日本時間の時差は9時間なので、アイスランドの27日24時というと日本の28日午前9時。埼玉の自宅を出発してから、実に35時間以上は経過していました。

 移動の疲れと時差ボケでいまにも眠りたいはずでしたが、予期せぬ状況下にあるためか、興奮でまったく眠たくありません。

 シャワーを浴びて多少さっぱりした僕は、バスローブに着替えて上海のホテルで朝を迎えているであろうマツジュンにコールをしました。

 久しぶりにマツジュンの声を聞くと、ホッとしました。マツジュンは謝り倒して来ましたが、別に彼のせいではないので僕はまったく気にしていませんでした。

 それよりも彼の現状とこれからの動向が気になりました。詳細を聞いていると、以下のことが明らかになりました。

 「上海で軍事パレードがあって、本来飛ぶはずの便が消滅した」

 「そのため、27日中にロンドンに着くことができなかった」

 「また、マツジュンが使用していたエアラインは遅延が多いことで有名で、次のロンドン行きの便も時間通りに飛ぶかどうかわからない」

 「よって、ロンドンでアイスランドへの乗り継ぎもうまくいくかどうか確証が持てない」

 「そんな状況でアイスランド行きのチケットを事前決済するのはリスキーなので出来ない(当日便は5万円ほどかかってしまう)」

 「というわけで、アイスランド行きのチケットはロンドンに着いてから取る(それもきちんと予約できるかどうかはわからない)」

 「うまくいけば28日深夜にアイスランドに到着できるが、無理なら29日中の到着になるだろう」

 ということでした。

 僕は頭を抱えました。当初の予定ではアイスランド観光は12月27日の深夜到着、28日から市内を回ったりオーロラや自然ツアーに参加し、30日の午後の便でロンドンへ戻り、それからロンドン観光を楽しむ、という手はずになっていました。

 しかし彼の現況を鑑みるに、最悪マツジュンは29日にアイスランドに到着し、30日の便でロンドンへ帰らなくてはならないことになります。

 また、僕は彼が訪れるまでの2日間、初めて訪れた異国の地でWi-Fiもなく市内観光やツアーに参加しなくてはなりません。ためしにモバイル回線もつないでみましたが、3Gしか拾ってくれなかったのも不安しかありませんでした。市内でどれくらいネットに接続できるのか、わかったものではありません。

 旅行カバンもないので着替えも三脚もありません。

 さらに、アイスランドは冬の期間の日照時間がとても短く、11時に夜明けを迎え、15時には日没を迎えるという状況でした。すなわち、一日の殆どを一人で夜歩きしなければならない羽目になるのです。

 冷静に考えて、うつで思考力の低下した状態で、上記のシチュエーションを一人で過ごせる自信がまったくありませんでした。

 侃侃諤諤の議論を経て、時刻はもう午前2時を回っていました。埼玉の自宅を出発してから36時間以上が経過していました。もう時間的にも体力的にも、決断を下すべき時間にあります。

 総合的に考えて、僕はある提案をします。

 「アイスランド観光は諦めて、君をロンドンへ迎えに行くよ

 流石にマツジュンが28日中にロンドンに着けるであろうことはほぼ確定していましたし、合流できればWi-Fiも使えます。思考力の低下した男が一人で夜道をほっつき歩かなくてもよくなります。また、翌日夕方にヒースローに到着する僕の旅行カバンもロンドンでピックアップできます。

 選択としては、もはやこれ以上のものはないように思われました。ベストとは言えませんが、現状ベターな選択肢です。

 アイスランドで経験できた筈の数々のアクティビティに未練はありました。しかし、それらを犠牲にし、代わりにアイスランドで過ごすはずだった時間をのんびりロンドン観光に充てることにし、ヒースロー空港で落ち合うことにしました。

 これが、僕が滞在11時間でアイスランドを去ることになった一連の流れです。

 僕は当日のアイスランド発ロンドン行きのチケットを予約し、ベッドに潜り、出発時間までしばしの眠りにつくことにしました。時刻は現地時間の午前3時。

 我ながらよくやった! と言いたくなる働きぶりでした。

 しかし、その時僕は忘れていたのです。遅延していた旅行カバンを、2日後にアイスランドのホテルに届けてもらうよう、ヒースローの職員にお願いしていたことを・・・。(続く)

↓ 次の話


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?