小説「光の物語」第77話 〜冬陽 4〜
アルメリーアは故郷から届いた大きな包みを前にため息をついていた。
形からして中身はおそらく絵だろう。母が描いた・・・。
思わずふたたび大きなため息がもれる。
「姫様、ご覧にならないので・・・?」
ばあやが傍から遠慮がちに尋ねる。
「そうね、見ないわけにもいかないわよね・・・」
アルメリーアは答え、包みを解くようにと合図した。
現れたのは故郷の城を描いた風景画だった。
母がいつもいたサロンから庭に出る大きな窓と、その先に見える庭の景色だ。
このサロンもこの窓も、アルメリーアにとっては嫌な思い出でしかないが・・・母のことだ、きっと覚えてもいないのだろう。
それとも覚えていてわざと・・・?だとしても驚くにはあたらない。
「ま、まあ・・・懐かしゅうございますね・・・」
ばあやが何か言わねばと口にする。
アルメリーアは無言のまま絵を見据え、心にうずまく感情をなだめた。
「届いたのは絵だけ?手紙は・・・?」
「王妃様からはございません。国王陛下からのお手紙がこちらに・・・」
うやうやしく渡された手紙を開く。
中身はいつもと同じ、彼女の身を案じる簡潔な文面だった。
そして故郷での出来事をいくつか。
リーヴェニア国王である父は変わらず忙しい毎日を過ごしているようだ。
「お二人ともお元気なようね」
手紙をたたみながら小さくつぶやく。
「それはよろしゅうございました」ばあやがそっと答える。「お返事は・・・?」
「そうね・・・また明日にでも」アルメリーアは気の乗らない様子で答えた。
「絵はいかがなさいます?どこかにお飾りになりますか・・・?」
アルメリーアはふたたびその絵に目を向けた。
この絵を飾る?
そして見るたびこの景色を思い出す・・・?
「どこかにしまってちょうだい」
アルメリーアは背を向けながら答えた。
「どこか、目につかないところに」
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