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小説「光の物語」第59話 〜出奔 7〜

マティアスは部下たちにナターリエの捜索を命じた。
アルメリーアから聞いたナターリエの特徴を伝え、めぼしい場所へと彼らを向かわせる。
当のマティアスは、供を連れてゲオルグの任地へ向かう街道を探すことにした。
彼女がこの道を行っていた場合、知る者は少ない方が良かろうという配慮だった。
それにしてもヴェルーニャとの国境地帯は遠すぎる。まさかとは思うが・・・。


道々すれ違う者に尋ねるが、それらしい少女を見たという答えはない。
数時間がたち、あたりは次第に暗くなってきた。
まずいな、とマティアスは思った。
他の場所へ向かった部下からも発見の知らせはない。
夜になる前に見つからないと・・・。

その時、街道脇の茂みから少女の叫びと、笑い交じりの男の声が聞こえてきた。
「離して!」
「大人しくしろよ。怖がることないじゃないか」
「助けてやるって言ってんだからさ」
「いや、助けて・・・!」


マティアスは馬を駆って声の方へと向かった。
「そこで何をしている!」
木立の陰には、男二人に腕を取られて恐怖に顔をこわばらせた少女がいた。
淡いグレーのドレスとマントを身に着け、見開いた瞳は助けを求めてマティアスを見ている。


「彼女を放せ。王のお膝元で狼藉など許さんぞ」
男たちはしばし迷う様子を見せたが、マティアスが剣の柄に手をかけたのを見て少女から手を離した。
「旦那、誤解ですよ・・・俺たちはただ彼女を助けてやろうと・・・」
「そうですとも。道に迷った様子だったからさ」
口々に言いながら両手をあげて後ずさりする。
「そうか。今後は迷子を見つけたらまともな道を案内してやれ。茂みに引きずり込んだりせずにな」マティアスは二人を交互に見た。「今日のところは見逃してやる。ただし二度目はないぞ。失せろ!」
男たちは転がるようにその場を後にした。


マティアスは馬を降り、その場に立ち尽くす少女に近づいた。
アルメリーアに聞いた特徴に合致する。黒い髪に大きな黒い瞳、細身で背丈はマティアスの鎖骨のあたり・・・。


「ベーレンス家のナターリエ嬢?」
「は・・・はい・・・」蒼白な顔をし、がたがたと震えながら彼女は答える。
「私はヴュルツナー公爵家のマティアス。王子妃殿下の命であなたを探しに来ました。安心して・・・」
緊張の糸が切れたナターリエはふらりと意識を失った。
「おっと・・・」マティアスはとっさに彼女を支える。「今日はよく女性が倒れる日だ」
馬に乗せるため彼女を両腕に抱き上げた。


「どうなさいますか?マティアス様。王城へ・・・」
供の者の問いにマティアスは答えた。
「いや・・・」
あの母親のそばに戻しては休まる暇などないだろう。
「アーベル殿のところへ連れていこう。王立修道院へ・・・」


マティアスは腕の中のナターリエを見た。
木立の隙間からは日暮れ前の最後の陽が差し込んでくる。
光は彼女の横顔の輪郭を滑り、伏せたまつ毛の影をきめの細かい頬に落としていた。


出奔 8へつづく


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