走馬灯


自転車でならどこまでも行けると信じていた。
 二人乗りの後ろはいつもあの子で
冷たい風に攫われないようペダルを漕ぎ続けた。
四時半の黄昏、放課後
目的地は何処だった?忘れてしまったな
「大人になったらさ、」
あの子はいつもこの話をしていた
何歳(いくつ)になったら、ではなく“大人”と抽象的に話していたのは、まだまだ自分達には関係の無い遠い未来の話だと考えていたのかな

田んぼ沿いの道、辺り一面の緑が今にも橙色に包み込まれてしまいそうな景色とあの子の話が私の頭に溶け込んでいく。
あの話の続きは何だっけ?思い出せないな
橙色はいつの間にか青色が混ざり藍色に変わり、目の前が徐々に暗くなる。

「大人になってもこの景色を忘れたくないな」

そうだった、遠のく意識の中あの子の声が私の頭に響き渡る。あの話の続き、いつの間にか大人になってしまった私の記憶。
暗闇に覆われた視界に暖かな色が広がる
後ろにはあの子がいて、冷たい風に攫われないようペダルを漕ぎ続けた。
どこまでも行けると信じていたんだ、私達なら。
「走馬灯って知ってる?」
​───知ってるよ、記憶が甦るんでしょ
「私はね、」
最期に思い出すのはここがいいな

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