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アート日記帳。 日々の読書記録、展覧会記録など。 学部:日本美術史専攻→修士:現代ア…

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アート日記帳。 日々の読書記録、展覧会記録など。 学部:日本美術史専攻→修士:現代アート(M2)

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はじめに―現代アートとの出会い

今春、大学院に進学したことをきっかけにnoteを始めようと思っていたらすっかり夏になってしまった。遅ればせながら、文献講読や展覧会の記録、そしてアートライティングトレーニングの一環として書き留めていこうと思う。 せっかく初めての投稿なので、今回は大学院で現代アートを学ぶに至った経緯を記す。 美術に関心を持った幼少期~美術史学に出会った高校時代幼いころから両親に連れられて美術館に足を運ぶうちに、物心ついたころには美術への関心が強くなっていた。幼少期は好きな画家が定まらず、幼

    • 「うつわ」を超越した白磁―「黒田泰蔵」展

      梅雨が明けたばかりの猛暑日、大阪市立東洋陶磁美術館の「黒田泰蔵」展を訪れた。昨年11月の開幕を心待ちにしていたはずなのに、気づけば閉幕間近の7月。毎度のことではあるが、駆け込みになってしまった。汗だくの状態で美術館に入った。 黒田泰蔵は、輪郭線が薄くマットな質感が特徴の白磁作品で知られた作家だ。私が黒田作品に初めて出会ったのは、2015年の春、東京・六本木の森美術館で開催されていた「シンプルなかたち」展だ。黒田作品は数点しか出品されていなかったが、アーティストトークで黒田の

      • 「特別展 国宝鳥獣戯画のすべて」東京国立博物館

        緊急事態宣言発令前の週末、母と妹と一緒に鳥獣戯画展を見に行った。甲・乙・丙・丁の全4巻全場面が公開されるのは初めてのことだ。2017年、同じく東京国立博物館・平成館で開催された鳥獣戯画展は行列の長さを見て諦めてしまったのだが、行かなかったことを後悔していた。 今回はコロナ禍で人数をしぼった完全予約制であることから、特別展ではおなじみともいえる平成館前の長蛇の列は見られなかった。また、展示室内が混みあって作品が見えないといったこともなく、じっくり快適に鑑賞することができた。

        • ティム・インゴルド「ライフ・オブ・ラインズ―線の生態人類学」を読んで

          先日、ラボの読書会に合わせて本書を手に取った。本書は「ラインズ 線の文化史」に続くものだが、そちらは未読の状態で読み始めた。はじめの方はスラスラ読めたものの、途中で挫折してしまった。3部構成のうち、序文と「第一部 結び目をつくること」、そして訳者あとがきの他はほとんど流し読みである。 本書は、社会学的かつ生態学的な視野と野心をもって、線としての生(ライフ・オブ・ラインズ)について研究するものである。p19 筆者は小さな塊「ブロブ」について、そしてそれは融合することはできる

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          コロナ禍での生活を重ねる―椹木野衣「震美術論」を読んで

          京都市京セラ美術館の「平成美術展」をきっかけに、本書を手に取った。画面上ではわからないが、立派な装丁で分厚いのでかなり存在感がある。しばらく机の隅に積んでいたのだが、今年は震災から10年という節目でもある。東京に行く際に読み進めようと思い、大阪―東京間の往復で読み終えた。 本書は東日本大震災=「東の大震災」と阪神淡路大震災=「西の大震災」を中心に、日本における災害や営みの歴史から、西欧から輸入した「美術」は地震が多い島国で成立するのかを論じている。 私たちの日常の延長線上

          コロナ禍での生活を重ねる―椹木野衣「震美術論」を読んで

          なぜ私は勉強するのか―千葉雅也「勉強の哲学 来るべきバカのために」を読んで

          4月は修論のテーマが白紙になってしまったり、進学のために研究室訪問をしたりする中で色々と悩んでしまった。自分はなぜ勉強するのかわからなくなってしまったのだ。 私は定職に就いており、研究内容と業務内容は直接関係はない。さらに、以前は「学芸員になりたい」と強く思っていたが、あるとき、私がアートを勉強する目的は「学芸員になる」ことではないと気づいた。もちろん「学芸員になりたい」という気持ちが消えたわけではない。私の人生における目的を達成するための、手段のひとつだと考えるようになっ

          なぜ私は勉強するのか―千葉雅也「勉強の哲学 来るべきバカのために」を読んで

          ネズミのイメージ―「渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画」@東京藝術大学美術館

          先日、東京に行く用事があり、いくつかの展覧会を回った。中でも楽しみにしていたのは、東京藝術大学美術館で開催されている「渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画」展だ。 渡辺省亭は近年、再評価されている画家だ。私は2017年に銀座の加島美術で開催された展示を見て以来、すっかり省亭に魅了されてしまった。特に省亭の描くウサギやネズミが好きで、繊細に描きこまれているからだろうか、動物の温かみを感じる。省亭の印影をアレンジした表具も素敵で、じっくり眺めてしまう。 キャプションを見ていて気にな

          ネズミのイメージ―「渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画」@東京藝術大学美術館

          堂本印象《婦女喫茶図》に対峙する―「京の冬の旅」智積院 特別公開

          先週末、京都 東山七条の智積院を訪れた。ちょうど「京の冬の旅」開催時期で、幸運にも普段は非公開である堂本印象の襖絵を鑑賞できた。 毎年1月~3月ごろに開催されている「京の冬の旅」は、普段非公開の寺院に入ることができたり、宝物や障壁画を見ることができる。今年は年初に緊急事態宣言が発令されたため一時休止していたが、関西の緊急事態宣言解除に伴い、会期延長・再開された。私は、「冬の旅」に合わせて3月の週末のほとんどを京都で過ごし、多くの寺社や美術館を訪れた。 先週末は友人と京都国

          堂本印象《婦女喫茶図》に対峙する―「京の冬の旅」智積院 特別公開

          無調音楽の誕生と楽譜の存在ー「現代音楽史」を読んで

          沼野雄司「現代音楽史 闘争しつづける芸術のゆくえ」を読んだ。平成美術展でAI美芸研の作品を見てからというもの、現代音楽について関心が高まっていたので手にとってみた。 本書は、20世紀から21世紀初頭にかけてのクラシック音楽について論じている。 音楽については知見がないので、読んでもわからないことばかりかと思ったが、そうでもなかった。曲そのものの良し悪しというよりは、新しい価値の生成について論じている点で現代美術とつながったためだ。 例えば、「第1章 現代音楽の誕生」で語

          無調音楽の誕生と楽譜の存在ー「現代音楽史」を読んで

          少女まんがの描線表現の起源―「ミュシャから少女まんがへ」を読んで

          大塚英志「ミュシャから少女まんがへ 幻の画家・一条成美と明治のアール・ヌーヴォー」を読んだ。 ミュシャと漫画と聞いて最初にイメージしたのは、漫画のキャラクターがミュシャ風に描かれているイラストだ。例えば下記サイトに掲載されている山岸涼子の「夏の夜の夢」のイラストは、2019年に開催された「みんなのミュシャ展」でミュシャのオマージュ作品として展示されていたこともあり、真っ先に思い浮かんだ。 しかし、本書はそのようなオマージュ作品に言及するのではなく、現在まで続く少女まんがの

          少女まんがの描線表現の起源―「ミュシャから少女まんがへ」を読んで

          陶板レプリカで名画を鑑賞する価値とは?―大塚国際美術館

          先日、徳島県鳴門市の大塚国際美術館に行った。関東に長く住んでいたこともあって四国は未踏の地で、「どうせレプリカでしょ?」という気持ちからわざわざ足を運ぶほど興味を持てなかった。 しかし、先日友人と週末のお出かけ先を決めようとGoogleMapを眺めていたところ、「あれ?大塚国際美術館、大阪から日帰りで行けるじゃん!」となり、行ってみることにした。 結論から言うと「どうせレプリカでしょ?」と、陶板を軽視していたことを大変に申し訳なく思った。実物ではないとはいえ、美術史上で重

          陶板レプリカで名画を鑑賞する価値とは?―大塚国際美術館

          日本美術史と漫画・アニメの接続_研究進捗メモ

          年明け以来の更新となる。新年度になるということで、近況と研究の進捗をメモ代わりに記録しておこうと思う。 1月~3月は、主に文献調査と展覧会、博士課程の情報収集をした。文献調査は今までのペースを考えると、かなり前に進んだ気がする。この1年で松井みどりを読み、ドゥルーズを読み、ヘンリーダーガーに出会い…色々と彷徨った上で、結局キャラクター絵画に戻ってきた。(「戻ってきた」というほど分野を横断していない気もするが) 1月時点で修論の計画は「日本美術史とアニメ・漫画などのサブカル

          日本美術史と漫画・アニメの接続_研究進捗メモ

          2020年の振り返りと、2021年の意気込み

          年末年始の連休は、ついに明日が最終日だ。 コロナの影響で帰省はせず、昼夜逆転の寝正月を過ごした。連休中に読もうと思っていた本はたくさんあったが、休みに入った途端気が抜けてしまい全然頭に入らなかった。仕方がないのでアート系の映画やシンポジウムのアーカイブ動画を見て過ごした。本の内容は頭に入らなかったが動画で見た内容はきちんと覚えているので、垂れ流しているだけでも何もしないよりはよかった、ということにする。 2020年は関東から大阪に引越し、はじめての一人暮らしと環境が大きく

          2020年の振り返りと、2021年の意気込み

          美術検定2級を受験、そして進路を考える週末

          11月8日、はじめて美術検定を受験した。学部・修士と一貫して美術史や現代美術を勉強しているから大丈夫だろう、と正直甘く見ていた。 テキストは手元に用意していたものの勉強の時間が確保できず、しっかり中身を見たのは試験前日の昨日である。「やばい。」一通り目を通してそう思った。 取り急ぎ2級の問題集を全問解いたところ、正答率は65%。60%程度で合格のため、かなり危ない。18世紀以降はなんとかなりそうだと思い、古代・中世を集中的に詰め込んだ。 そして、8日、日曜日の午後。オン

          美術検定2級を受験、そして進路を考える週末

          私にとっての写真

          今夜の勉強会は「写真」がテーマだった。ディスカッションを経て自分にとっての写真とはなんだろう?とふと考えた。 私が所属するゼミでは、写真をテーマに研究しているメンバーが多い。今まで写真に芸術として真剣に向き合っている人に出会ったことがなかったのもあって、写真関係のディスカッションは毎回楽しく参加している。 私は一眼レフを持っているのと芸術に関心が深いからか、知人内での「カメラ会」なるものに声をかけられる機会は多い。いい写真が撮れそうな場所にみんなで出かけて写真を撮るという

          私にとっての写真

          美大は何のためにあるの?―会田誠「げいさい」を読んで

          会田誠「げいさい」を読んだ。夢中になって、一晩で読み終えてしまった。小説という形をとっているが、自叙伝のようなものなのだろうか?東京藝大を目指す浪人生の主人公目線で、回想シーンを交えながら多摩美の「芸祭」での一夜を描いている。 △このごろ本が増えてしまったのでKindle版や図書館を利用するようにしていたのだが、サイン本につられて書籍版を購入した。 この本を読み終えて、「日本における美術大学の役割は何だろう」と考えた。藝大の油画専攻を目指す主人公は、自分の表現を抑圧して美

          美大は何のためにあるの?―会田誠「げいさい」を読んで