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子供に手を抜かない本

 信条と言うとオーバーですが、生活する上で「必ずこうしよう」と決めているものがいくつかあります。その中のひとつに「子供に手を抜かない」というものがあります。

 こう書くと、子供相手でも相撲を取る時に容赦ないはたき込みをかましたり、ちょっとした喧嘩で弁護士を連れてきたり、みんながドン引くえげつない下ネタを連発したりするように見えかねませんが、もちろんそういう意味ではありません。大人としてやっちゃダメなラインは守りつつ、「子供だから」と舐めた態度を取らないということです。

 と申しますのも、大人のそういう舐めた態度に納得いかない過去があったからで、そのたびに「自分はやらないようにしよう」と思っていたんです。子供向けの本やアニメを作っている人の中でも、面白いものを作っている方はしばしば「相手は子供だからと舐めてるとバレる」という風なことをおっしゃっているのを何度か見聞きしました。誰が言っていたのかはスッカリ忘れてしまいましたが、でも私が「やっぱりそういう姿勢って大事だよな」と思ったのは少なくとも事実です。

 ところで、加古里子かこさとしさんの作品に「海」という絵本があります。

 発売は1969年で、現在に至るまで販売され続けている息の長い本です。

 内容は浅瀬から深海まで様々な海についてひたすら紹介する形で、何しろ絵本ですから文章はシンプル、ページの隅から隅まで絵が描かれた本となっています。その絵がポイントでございまして、生き物から地形、船などの人工構造物など、海に関する様々なものが名前や大きさと共に描かれている。ただ、その量が膨大で、種類が非常に多彩なんです。ジンベエザメからプランクトンまで、絵の隅々に描き込まれている。当然、一読では全てを読み尽くせず、何度読んでも新たな発見ができるようになっています。

 子供の頃の私はこの「海」に夢中になりまして、ボロボロになるまで繰り返し読みました。本当にボロボロになったので、母がもう1冊買ったほどです。その本をきっかけに私は生物に興味を持ち、結局、大学もそっち方面の学部に入り、今でもそっち方面の本を読むようになっています。そういう意味では、私の人生に大きく影響を与えた本です。

 何年か前に帰省した時、そのボロボロになった「海」を改めて読んだんです。もうすっかり大人になりまして、そっち方面について多少は知ったつもりではございましたが、いま読んでも「これは何だろう」と思う絵が次々と出てくるんです。

 ただ、当時には使えなかったインターネットが今はございます。検索すれば正体が分かるだろうと思ったら、関連情報が何も出てこないんです。似たような単語でもヒットしない。マニアックすぎて言及してる人がいないのか、絵本にだけ存在する架空の物体なのか、それさえも判別できない。作風や内容から考えて架空の物体は考えにくいですが、だとするとどれだけマニアックなものを絵本に描き込んでいるのか。

 すごい本だとは思っていましたが、まだすごさがよく分かっていなかったようです。「子供に手を抜かない」という決め事も、幼い頃に「海」を読んだことが影響しているのかもしれません。

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