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【詩・春が苦しい人へ】咲かなくたっていいんだし

町でうわさの並木通りは、甘い淡いピンクのカーペット
いちご味の消しゴムと目的化するスケジュール帳
きっと死体も埋まってる

なにかをはじめなきゃ。歩きださなきゃ。
ひらひらの請求書たち ぼくは何を返せるだろう?
まだなにももらっていないのに

ぴかぴかの炊飯器とティファールにちっぽけな自分の顔が映ってる
毎日変わる部屋の大きさ 茶碗がさっそく割れてしまった
戻せないんだって 泣いてしまった

あの夜の自分に言いたいのは春の過ちは世界のおわりじゃないってこと
桜は新年度なんてことば知らない
「今しかない」にまどわされるな 
自分の季節に咲けばいいし 咲かなくたっていいんだし

町でうわさの並木通りは、今年も薄紅色のじゅうたん
シナモン味の革靴と目的がつくるけものみち
きっと死体も気づいてる

「なにか」ははじまらない。すでに歩いてる。
ひらひらは広告チラシ ぼくのリズムとは違う法則
まだなにももらっていないから

炊飯器とティファールに水を入れる 砕けた自分の顔が静かに戻る
今日もお部屋はせせこましいな ひとりなのに茶碗はふたつだ
ちょっと寂しくて 笑ってしまった

あの夜の自分に言いたいのは春の夢よりも尊いものがあるってこと
桜は可能性も絶望もお構いなし
「もったいない」にまどわされるな 
自分の季節に咲けばいいし 咲かなくたっていいんだし



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