季節のはじまり

気ままな暮らしを始めて、もうすぐ二か月が経とうとしている。

いや、正確には、「さらに」と言った方がいいだろうか。

少しは稼がないとなぁとぽつぽつ仕事を始めてからは半月。

いまだ週の半分はブラブラしている。

話題の店に連れ立っていく友人もなく、

流行りの服で自分を飾り立てようという欲もなく、

繰り返し着るためのお気に入りの服を洗濯し、

眠くなれば朝夕構わず好きなだけ眠り、

たまの労働の後に安い居酒屋なんかで一杯飲めれば幸せという

なんとも省エネな生活。

だからこそろくに働かずに生きていられるのだが、

私のように生来怠惰な人間には、夢にまで見た生活であり、

癖になってしまっていけない。

大人になって、一日中寝ていたのなんていつぶりだろう。


数年前までは私にももっと生気があり、

もっと一生懸命に、がむしゃらに、働いたり、勉強したり、悩んだり、

その報酬として、恋したり、オシャレして、飲みに行ったりしていた。

今思えば、よくあんなにすべてのことに一生懸命になれたなと思う。

最近会った年上の人が言っていた。

悩むのにも体力がいると。

若い時に悩むのは、悩む体力があるからで、

年を経るにつれそれも難しくなってくるので、諦めや許すことを覚えるのだと。

妙に納得してしまって、悩むのにも体力がいるのか、と何度も繰り返した。

その理論から言えば、私はしっかり歳をとったことになる。


夕暮れ、通りを冷たい風が吹き抜けた。

ふと理由もなくさみしさが頬をかすめ、甘い切なさが胸をよぎる。

薄い長袖のシャツに袖を通す。

窓際で本を読む。

さて、物思いの季節を始めようか。

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