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DESIGN : 紙 座談会

以前のフォント座談会に続き、OUWNメンバーが「紙」について話します。今回も事前に石黒が質問を用意しました。デザイナーの中村・榎本が考えた答えとは…?

Q1. 紙を他のものに例えるとしたら

Q1. 紙の手触り、質感というものは、他の例に例えるならばどこの要素に置き換えられるものか?その要素がどのように相手に届くものか。他の例とも比べて考えてみる

ー フォントの時より深い質問になっていますね。この質問は事前に渡されていたんですか?

榎本 : 今朝です。(笑)

石黒 : さっき思いついたから…(笑)
紙について普通に話してもつまらないかと思って、別のものに例えられたら面白いかなって。例として、飲食店の中で例えるなら?ということを伝えました。

榎本 :  紙をレストランで例えるとしたら、器やカトラリーなど食器類かなって思いました。飲食店で言うと料理の部分がパンフレットの内容、名刺だったら名前とかそういうもの。それに付随して器を選ぶので、紙はその部分にあたるのかなと思います。
グラフィックは平面だけど紙が加わることで立体的になる。食事も食器を持って食べる時の重量感や素材のざらつき感を感じることで料理の印象が変わりますよね。そういうものが相まって、内容をより濃く伝えるための役割なのかなって思います。

中村 : 私は、味の決め手というかスパイスの要素になるものかなって思ってます。作ったビジュアルが結構重い感じだとしても、薄い紙や柔らかさのある紙を使ったら印象が変わって軽さが出たりする。無機質なビジュアルも紙に素材感を感じるものを使ったら一気に味が出たりもするし、紙選びで第一印象が決まるんじゃないかなって思います。
普段の制作の時いろんな紙で検証するんですけど、紙によって見え方が全然違うなって実感しますね。

石黒 : 紙違いで出力してみると、かなり印象が違うよね。
この間、江戸時代の絵師の人にインスパイアされてグラフィックを作りました。これは後々展示をしようと思ってるんですが… 、このデザインを何種類かの紙で刷ったんです。白系の和紙、ヴァンヌーボ、生成りの和紙(別種類)で印刷してみました。刷る前は和紙がいいかなって話していたけど、ヴァンヌーボは鮮やかな発色でフラットに見えるから、広告として瞬間的な速度を求める時はヴァンヌーボが良いかもってなりました。

中村 : 紙によってかなり印象が変わったので、やっぱり最後の決め手感かなって思いましたね。

石黒 : 逆に立ち止まってじっくり見るような場合、展示会場に飾るものとしては和紙の方が雰囲気あるのかなって。用途によって変わりますね。そうやって考えると、スパイスって例えるのも分かるなぁ。

ー 紙によって何通りも印象が変わりそうですね。石黒さんの考えはどうですか?

石黒 : スパイスって考え方はなかったけど、食器っていう答えはなんとなく思ってました。紙という存在を食器に例えるとしたら、洋食器と和食器のちょうど間に属するものかなと思います。洋食器の特徴としてはカトラリーを使うから基本的には触らないし、プロダクトとして同じものが大量に製造される。そういった意味で洋食器は広告、中でも交通広告に近いのかなって思った。逆に和食器は触れることが前提で、茶道では茶碗を触ったり、じっくり見て感じるような文化もあるよね。
紙は触るものだけど、そこまで触って愛でて…っていうものでもないから、ちょうど両者の間くらいのスタンスなのかなって思いました。

石黒 : OUWNではよくデザインをレストランや料理に例えることが多いんですが、今回より深く考えてみて、表層的には料理と似てるところはたくさんあるけれど、濃度は決定的に違うなと。
ちょっと説明すると… 茶色いお皿に料理をのせても透過しないけど、茶紙にインクを刷ったら絶対透過して濁ってしまう。そもそも料理は光を通して見るRGBの世界で発色も素晴らしく、サイネージを見ているようなもの。印刷はCMYKだから、鮮やかさで言えばやっぱり負けちゃう。Indigo印刷など発色の良い新しい技術は多くありますが、それでも現段階の印刷技術ではなかなか料理と同じレベルの発色や濃度にはならないなって。デザインと料理の違いを発見できて新たな気づきでした。

※ Indigo印刷:最大7色のインクを使用することができ、無版のオンデマンド印刷機でありながらオフセット印刷に限りなく近い印刷表現が可能。

榎本 : 生活の中でも紙について意識して見てみると、服を買ったときについているタグもそれぞれ違いが出てて面白いなって思いました。クロコっぽいエンボスがついた紙だったり、真っ白な厚い紙に型押しをしていたり。タグまでこだわってるとより世界観が確立されて、印象にも残りますね。

石黒 : タグとかは結構見るよね。必ず触るものだし、服に付属してるものだからそれこそスパイス的な要素だよね。器になったりスパイスになったり、いろんな楽しさがあるんだなって改めて思いました。

Q2. アラベール、ロベールという紙について

石黒 : Q2は、あえて紙の名前を出して比較してもらいました。紙を触ったり調べたりしなくちゃいけないから、良い経験にもなるかなと思って。
最近2人に名刺を渡したんですが、OUWNの名刺はアラベールなんですよね。それもあってちょうどいいかなと。

OUWNの名刺

石黒 : アラベールロベールは一般的にファンシーペーパーと呼ばれるもので、風合いのある紙。人肌のような優しいイメージがあるものです。発色もある程度出るし、世の中で使われてる場面も多いと思います。
OUWNの名刺はアラベールのオータムリーブ。紙厚は110kgとかかな。設立のときからずっと変わらずこれです。

ー なぜこの紙を選んだんですか?

石黒 : 正直仕事のときにはあまり使わない紙なんです。OUWNやPeople and Thought、自分が作るデザインだとインパクトや強さが大事だったりもするので、インクがしっかりのるようなヴァンヌーボとか、パキッと色が出る紙を使うことが多い。アラベールはスミを100のせたとしても95くらいの印象になるから、少し優しい印象になるんですよね。
それこそ用途の話になるんですが、名刺って必ず人が手に取るものだから、インパクトよりも雰囲気を感じるくらいがいいのかなって。色紙も普段の仕事ではほぼ使わないけど、真っ白じゃない目に優しい色って名刺として使うにはいいんじゃないかなと思いました。

ー 名刺こそ紙が大事ですよね。

石黒 : 名刺は個性を出すために金箔や銀箔を使う人も多いけど、あえて銅箔にしたんだよね。全体的に柔らかい色にして、初めましての相手に渡すものだから…優しいって思われたくて?(笑)
アラベールも色がいくつかあるけど、どれも主張しすぎない優しい色。この色展開も珍しいなって思う。セージグリーンとかも良い色で、他の会社の名刺をデザインしたときに使ったことがあります。

アラベールの色展開、セージグリーン

ー ロベールについてはどうですか?

石黒 : ロベールは、アラベールをより優しくした印象があります。西洋では手紙とかによく使われてた紙で、手触りがいい。
アラベールもロベールもOUWNの仕事で使うことはほぼないんだけど、手で触ることが前提である装丁などの紙媒体を作ってる会社ではよく使う紙なのかなって思います。

中村 : アラベールとロベール、肌っぽい色合いと馴染み感がありますよね。柔らかくて優しい印象だなって思いました。

榎本 : 改めて2つの紙をちゃんと触ってみて、2つとも第一印象は手触りが優しいなって思いました。特にアラベールは、ほわほわしてて、ほわっと系だな〜って。

石黒 : すごいアホくさくなってるけど大丈夫?(笑)

榎本 : (笑)

中村 : 柔らかーい感じですよね(笑)

榎本 : ロベールの厚い紙を触ったときに、この前行った飲食店を思い出しました。メニューが手のひらサイズで2つ折りだったんですけど、紙の手触りも相まって好印象で。これから美味しそうなものが出てくるんだろうなって感じるような、 家に帰ってからも良いお店だったなって思う雰囲気の良さがありました。

石黒 : やっぱりそういう手触り1つも大事だよね。主張をしすぎるわけじゃなく、印象に残す感じ。

ー さっきの名刺の話と同じですよね。

榎本 : そうなんですよね。さりげなくていいなって思いました。

石黒 : アラベールとかロベールのような手触りが柔らかい紙は、やっぱり冊子的なものに使いたい。さっき話してた和のグラフィックの展示の際には、冊子を作ってボックスに入れようかと思ってるんですが、薄い紙もいいなと思いつつ、ボックスの中で揺れた時にグシャグシャにならないように斤量があるものがいいな。人肌感があって斤量があって…って考えると、アラベールやロベールが合ってる気がします。

(ここで石黒が、アラベールとロベールの同じ斤量の紙を差し出す)

石黒 : 目をつぶってどっちの紙か当ててください(笑)

中村・榎本 : えっ、怖い怖い!!(笑)

ー 逆に石黒さんからやりましょう!

石黒 : うわ。その流れか〜… いいよ。
あ、でもこれは分かるね。右がアラベール、左がロベール。(正解)

中村 : 格付けチェックみたいですね。デザイナーの遊び…(笑)

中村、榎本も2つの紙を見ないで触る。石黒、2枚同時ではなくそれぞれ触らせる方式。スパルタ。

石黒 : どちらの紙も受ける印象は近いよね。ちなみにロベールの方が高級です!

(盛り上がって時間がだいぶ経過したため、割愛(笑))

Q3. 気になる紙・好きな紙

中村 : 私はハトロン紙ユポです。ハトロン紙は薄くて、ツルツルした面とザラザラした面の二面性があるのが好きです。ユポはあんまり使ったことがないんですけど、しっとりした質感が印象的で好きだなぁって。

ユポ

石黒 : ユポはあんまり使える機会がないけど使ってみたいよね。ユポが好きならNTスフールとかも好きかも。インクのせづらくて印刷は大変だけど…

中村 : 確かに。NTスフールもしっとりしてて高級感を感じます。
気になってる紙だとい織りです。綿密な紙で、キャンバスっぽい雰囲気。カラーバリエーションも豊富で、何か作品とかで使えないかなって思ってます。この紙を使うことで結構印象が変わりそうだなって。

石黒 : 自分はキュリアス マターが好きだな。NOTEBOOKのパッケージに使ってる青い紙。これは思い出深いからっていうのもあるけど、ドイツの紙で当時は日本になかった。発色も良いし好きですね。

キュリアス マター

榎本 : 私はサガンですね。質感があって、カラバリも良い。繊細な印刷を上にのせたら面白そうだなって思いました。
気になってたのはレイドプリンティングで、半紙っぽい風合いが良いなと思いました。

サガン

石黒 : レイドプリンティングは2014年に販売終了してるみたいだから、今は在庫限りって感じだね。
自分も薄い紙は結構好きで、これも廃盤してるものだけどキャピタルラップって紙が好き。片面に艶があって片面ザラザラで、薄い紙だけど透け感も程よくていい感じ。透けた部分の紙とのバランスも良いんだよね。発色はそんなに良くないんだけど、この紙が好きだから印刷所に取り置きしてもらってて、よく使ってます。一般的には包装紙として使われてるかな。
似てるところで言うと純白ロール紙(白銀)が近いかも。でもこれはちょっと透けた部分に紙のムラが出るし、やや透けが強いんだよね。そこが良さでもあるから難しいところではあるんだけど…
あとは特菱アートとかも好きだな… 話がどんどん広がっていく(笑)

ー 今回は実際に紙見本を見て話してたので、楽しかったですね。

榎本 : すごい勉強になりました。紙の名前を提示してもらうことで比較してみたり、他の紙についても知ることができて、良い機会になったなぁって。仕事で紙を選ぶときの考え方も参考になりました。

石黒 : なんか急にすごい、ちゃんとまとめてきた。ほわほわしてるとか言ってたのに(笑)。

榎本 : いや、アラベールはほわほわしてたので(笑)!!

石黒 : 紙を色々見たり触ったりするのも面白いよね。
次回はフォントと紙をふまえての話なのか、全く別の新しいテーマなのか… また次回も楽しみです。

Creative Studio OUWN
ATSUSHI ISHIGURO / @ai_ouwn
ERIKO NAKAMURA / @hello_eriko
AYUMI ENOMOTO / @bbrs___

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聞き手 ・ 執筆 : 星成美

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