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DESIGN : NOTEBOOK #2

世界8ヶ国のデザインスタジオがそれぞれに技巧を凝らしてノートブックを作るアートプロジェクト「NOTEBOOK #2」。キュレーションを手がけるのはフランス・パリにて約50年間続く老舗印刷スタジオ・IMPRIMERIE DU MARAIS。各国につき1つのデザイン事務所が参加し、その1つにOUWNが選ばれ、「OUWNらしさ」が詰まったノートブックが出来上がりました。石黒藤田のこだわり溢れる1冊をご紹介します。

運命的な参加経緯

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ー 海外のプロジェクトですが、どのような経緯で始まったんですか?

石黒 : これは少し前の作品で、2015年〜2016年頃に取り組んでいたものになります。いきなりフランスの印刷所から、こういうプロジェクトがあるんだけど参加しないか?って連絡をもらいました。

藤田 : 本当に突然、メールが来たんだよね。

石黒 : そうそう。元はというと、今回の「NOTEBOOK #2」のクリエイティブディレクションを務めているドイツのデザイン会社・Deutsche & Japanerが、企画をしている印刷所のIMPRIMERIE DU MARAISにOUWNを紹介してくれたんです。プロジェクトに参加する8つのデザイン事務所を決める時に、日本にはこういう会社があるよってOUWNのことを話してくれて。

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石黒 : 更にその経緯を辿ると…、Deutsche & Japanerは、自分が昔行きたいと思っていたデザイン事務所なんです。MR_DESIGNに入る前、どこにも所属してない時期に、あわよくばそこで働けたらっていう気持ちでいきなりドイツに行ったんですよね。一度事務所を見せて欲しいってコンタクトを取って、当時はDeutsche & Japanerも今ほど大きくはなく、そうやっていきなり言ってくる人もいなかっただろうから、快く見せてくれました。日本からなんかおかしな人が来る、みたいな感覚だったと思います(笑)。
実際に事務所で色々見せてもらったら、やっぱりクオリティがすごく高くて、見るもの全て新鮮でした。結局その時は入り込むことはできなかったんですが、その時に訪問したことがきっかけでこの仕事の依頼が来たんですよね。

ー それって、会った何年か後に石黒さんの名前を調べたら、OUWNのサイトが出てきたってことですよね。

石黒 : そうだと思います。その後に自分はMR_DESIGNに入って、何年か経って独立して、OUWNができて。その時話したDeutsche & Japanerの人が自分のことを思い出して名前を調べたら、「頑張ってやってるじゃん」みたいになったんだと思います(笑)。それで連絡が来て、自分達からしたら受けない理由がなかった。

ー 運命的ですね…!
これは「#2」ですが、「#1」の存在は知っていたんですか?

石黒 : はい。「#1」に入ってる1冊のノートをDeutsche & Japanerがやっていたから作品のことは知ってて、「#1」を見て「めちゃくちゃかっこいいな」と思ってました。そしたらなんと、次の「#2」に参加できることになったという…!

藤田 : 「#2」をやらせてもらう前に「#1」の実物を送ってもらったんですが、かなり良かったです。

石黒 : 好きだったDeutsche & Japanerのディレクションのもとで、こんな面白いプロジェクトができるっていう、夢のような仕事でしたね。

日本らしさと、「OUWN」らしさ

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ー デザインのコンセプトはどうやって決めたんですか?

石黒 : フランスの印刷所は、自分たちのクリエイティブな印刷技術を見てもらいたいっていうところでプロジェクトを企画しているので、箔押しに模様があるマイクロエンボス加工だったり、印刷技術を存分に使ってほしい、というのが前提でした。その上でテーマとしては、「日本人らしさ」を感じるものだったり、普通のノートではないものを作りたいって思いました。

藤田 : 自分はWEBをやっているから、ノートの紙面上だけでは終わらないようにしたかった。なのでWEBに繋げられて日本人っぽさも感じられるもの…そこからQRコードに繋がりました。QRコードって日本の会社、デンソーウェーブってところが特許を持ってるんですよね。

石黒 : だからQRコードを使うってことが日本らしさでもあると思うし、日本って精密なものを作るイメージもあるからピッタリなんじゃないかなと。印刷方法もマイクロエンボス加工がマッチすると思って、それで大枠のコンセプトができていった感じですね。

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ー デザインモチーフをトランプにしたのはなぜですか?

石黒 : 当時は自分とティーチャー(藤田)の2人でOUWNをやっていたから、対になっているデザインとして、トランプっていうのはいいなと思いました。紙って平面的なものだけど、ノートを開いたらQRコードがあって、読み取ったら色々なものが出てきて広がっていく。トランプってたくさんのゲームを生み出せるから、そこともリンクしますよね。グラフィックは自分が作って、読み取った後のモーションをティーチャーが担当すれば、トランプゲームの創造性とか、2人の対になってる感じとかを表現できて、辻褄が合うと思いました。ノートのページ数も限られていたから、1〜13までで、いろんなモーションが出てくるっていうのは面白いしね。

藤田 : それぞれ数字のイメージとリンクするようなモーションにしていて、2だったら点と点が繋がって線になるとか、8はぐるぐる8の字に流れていくとか。

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石黒 : ノートのグラフィックが動き出すようなイメージですね。ノート表面は絵柄を箔だけで表現して、裏面はできるだけ精巧な版で、日本っぽい緻密で正確なイメージに。印刷会社の技術と自分たちの表現したいものがうまく合わさるようにしています。

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ー このノートで、初めて使った印刷技術などはありますか?

石黒 : 表紙のトランプ柄の箔押し部分で使ってるマイクロエンボスは初めてやりましたね。箔の上にエッチングで削ってるんですが、それもやったことがなかった。この仕事以降にもやっていないし、人生でこの時しかやってないです。

ー デザインする時に、他の会社はどんな感じで来るんだろうって気になりましたか?

石黒 : めちゃくちゃ気になりました(笑)。しかも自分たち以外は日本のデザイナーではないので、どんなものが来るのか想像できなかった。発想とかも分からないし、実際にできたものを見てみても、日本人にはない感覚だったりするから面白かったです。

ー 他の国で、このノートいいなって思うものはありますか?

藤田 : 電子部品みたいなデザインがいいなと思うので、メキシコのデザイン会社・Anagramaのものが好きです。あとは、スウェーデンのResearch and Developmentのノートもコンセプチュアルで面白いなって思いました。多分ですが地球の始まりを表現していて、中ページがスケジュール帳みたいになってるんですが1月1日にビッグバン、12月31日のところにホモ・サピエンスって書いてあるんです。

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写真左から : Bureau Mirko Borsche(ドイツ)、Studio Adriaan Mellegers(オランダ)、OUWN(日本)、Research and Development(スウェーデン)、Present Perfect(イギリス)、Partel Oliva(フランス)、Anagrama(メキシコ)、Homework(デンマーク)

石黒 : 自分はイギリスのPresent Perfectって会社が作った、氷山みたいなデザインが好きです。氷山の上の部分は箔で、見えない下の部分はエンボスになっていて印刷加工をうまく使ってるなと思いました。他の国の作品を見てみて、コンセプトの部分やアウトプットのアプローチの仕方っていうのは、こういうのもあるんだなって勉強になりました。

ー 読み取ってその先を見せるっていうことは、他のチームではやってないですね。そこがやっぱりOUWNらしさですよね。

石黒 : そうですね。みんな紙の中で完結してるから、そこはOUWNらしさでもあるし、面白さになっているのかなと。

藤田 : でも別に特別言ってないからね。読み込めるって気づいてない人もいるかも…。

石黒 : さすがに気づくでしょ。多分…(笑)

藤田 : その頃はまだiPhoneの普通カメラではQRコードが読み込めない時代で、今ほどQRコードが普及してなかったんですよね。今でこそ当たり前のものだけど、もしノートを持っていて読み込んでいない人がいれば、読み取ってみてほしいです(笑)。

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藤田 : このNOTEBOOK #2に関しては、実際全員無償で動いてるんですよ。このノートを自分たちで売った分の利益はもらえるけど… いくつかはもらったんですが、自分たちでも買って、それを少しだけOUWNでも売りました。

石黒 : 世界で200個くらいしか発行してなくて、OUWNでは20個くらい買ったのかな。原価でも普通に高いから、ほぼほぼ原価で売ってます。当時は代官山のTSUTAYAに置いてもらって、マニアックな人が買ってくれたと思います(笑)。今でこそ、別の機会で会った人とかに「あれ実は買ってるんですよ」って言われることが何回かあって、それはすごく嬉しいですね。今は数も減ってきちゃったので、何か特別な時に記念に売ろうかな、くらいです。

ー このボックスには鉛筆も入ってるんですよね。中に書くとしたら、何を書きますか?

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藤田 : 書くならもう1個買って、まず保存用を作りますね。もし書くとしたら、作品になるような何かかな…。 見れば分かると思うんですが、そもそも書く前提のノートって感じではないですし(笑)。

石黒 : 誰にも見られたくないポエムとか書く?(笑)

OUWNのノートのみをパッケージング

石黒 : 8冊が入ったボックスは本当に僅かなんですが、単体のノートはもう少し数があります。OUWNのノートだけを日本用でパッケージして、このボックスが出た1年後くらいに出しました。それは200冊くらいありましたね。

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ー 新たに日本版としてアップデートした部分はありますか?

石黒 : 中身は変えていないけど、より日本っぽさを出そうと思ってパッケージを木箱にしました。日の出のような意識だったりとか、箔を存分に使ったノートだからパッケージにも箔を使ったり。箱には焼印してもらってて、その上に白インクを刷ってます。

藤田 : 結構、版作ってるね。手が込んでる。

石黒 : うん、これはもう原価とかじゃなくてマイナスで売ってます(笑)。

「採算度外視」なモノ作り

石黒 : でもこの案件だったり、ドイツに行った時に出会った人を通じて、また別のデザイン会社の人が日本に来てくれたりとかして。一緒に飲んだりして繋がっていったりしてね。 OUWNも始まって8年くらいになりますが、その中でも印象に残ってる案件だし、OUWNらしいものだなって今でも思います。

ー また次を出せるとしたら、どんなものにしたいですか?

石黒 : これがまたノートだとして、1冊作ってほしいと言われたら…、やっぱりティーチャーとOUWNらしいものを作りたいなって思います。

藤田 : WEBとの連動はさせたいよね。

ー 2人の作品は、他にも作ったりしてますか?

石黒 : 作ってはいるんですが… お互い忙しいんだよね(笑)。1年に1回とかのペースでたまにやってはいるんだけど…、畑のやつとかやってたもんね。

藤田 : 事務所のテラスに畑があった時に、そこで温度や湿度を測って、測った情報をサーバーにためて、それをグラフィックに起こしてっていうのをやっていました。1〜2年前とかかな?そういう、実験的なものはやったりします。

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ー えっ!私も知らなかったですが… どこかで見れるものですか?

石黒 : いや、ただ作ってただけ(笑)。でも今は畑がなくなっちゃったからストップしてるんですが…。案件以外に、そういう世に出してないものを色々やってるんだよね。

ー それって、見せようとはならないんですか?

石黒・藤田 : まぁ、実験だからね…。

藤田 : もうちょっとクオリティあげないと、公開できるものではないですね。もっとレベル高いものが世にたくさん出てるから。

石黒 : ちゃんと精度を上げて、見せられるくらいまでにするのは最後まで作り込みが必要だから、そこまで行かせるのも難しかったりするんだよね。

ー こんなものができているのに…

石黒・藤田 : 世には出してない(笑)

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ー 自分の色を出す作品作りとクライアント案件で、考えることや感じることはどのように変わりますか?

石黒 : クライアント案件は、狙ったところに飛ばすとか、狙ったところに打つっていうような感覚だけど、そうじゃない作品作りでは別の頭が鍛えられる。フルスイングでどっかに飛んでくようなイメージですね。その時の内側の自分がどうなのか、とかも分かってくるし、新たな視点を持てる気がします。

藤田 : こういう作品を作る時は、やっぱり考え方が全然変わります。採算度外視っていうのかな。まずは大きく広げて、自分ができる・できないではなく、1番いいのはどういうものかって考える。ここまで考えられるけど、実際にやるとこうだから、その差を調整していくっていう感じです。できるようにアイデアを変えたりとか、発想後に方法を考えるかな。

石黒 : やっぱりそういうところで新しいアイデアが生まれるしね。いまだにこの作品が例に出て、こういう動きってできたりするのかな?とか話したりします。
NOTEBOOK #2は、次のアートブックフェアに出すんです。OUWNはバーチャルでの出展ですが、過去の作品とかポスターとか、最近新しくfumiと作ったものも出そうかと思っていて、いろんなものが少量ずつ出るイメージになると思います。なのでもし興味がある人は、ぜひ覗いてみてください!

TOKYO ART BOOK FAIR 【オンライン会場】
期間:2021年10月22日(金)〜10月31日(日)
会場:https://tokyoartbookfair.com/

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CL : Imprimerie du Marais / @imprimeriedumarais
CD : Deutsche and Japaner / @deutscheundjapaner
AD : Atsushi Ishiguro(OUWN) / @ai_ouwn
PG : Munechika Fujita(OUWN)

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聞き手 ・ 執筆 : 星成美 / @castlru



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