透明なカメレオン

読んだ本の感想と自分の中にあったもの

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tótem(夏の終わりに願うこと)を観て

一番最初に映されたのは「Bitter End」の文字。 「この映画を観てもスッキリしないよ」って言われるのは初めてで、それは文化の違いなのか監督の工夫か分からないが面白いなと思った。 大地を照らす"太陽"という意味を持つ名の少女ソルと、手にはタトゥー、鼻にはピアスという見るからにな母。二人はドライブ中橋を通る時に目を瞑ってお互いお願いごとをしようということになり、母は「秘密」といいソルは「パパが死なないように」と願う。 この日は父の誕生日でパーティのため、ガンで療養してい

    • 「その扉をたたく音」-瀬尾まいこ

      主人公の宮路は「ミュージシャンとして生きていく」と口では言うが、相応の努力もしないし、補う才能もない。そのくせ裕福な親の仕送りに頼り、バイトすらせずフラフラして生きていてるのに人に対して偉そうな奴。僕が一番嫌いなタイプの人間だ。読み進めるごとに腹がキリキリしてくるくらいイライラした。それにも関わらず、不思議と「もうこいつと関わりたくない」と本を閉じることはなかった。 福祉施設でボランティアとして、ギターの演奏をして、客の好みも全く考えず、洋楽や新しい曲、さらにはオリジナルソ

      • 「ミッシェル・フォロン展」-東京ステーションギャラリー

        彼は言った。 「わたしはいつも空を自由に飛んで、風や空と話してみたいと思っているのです」 ひとりぼっちで大きな街を前にした時、たとえどんなに綺麗でも、ワクワクしても、どこか寂しさを感じたり、怖気付いてしまうことがある。 たとえば隣にもう1人いたらどうだろうか。 遠くに浮ぶ白い船が希望に見えた。 手前に映る山々がむしろボヤけているのが不思議であった。 わたしに指図してくる矢印は幾つあるのだろうか。 欲望、恐怖、好奇心、保身、規律、慣習、経験、思考、感情etc.... 今

        • 『国立西洋美術館』を訪れて

          国立西洋美術館は建物自体が世界遺産。「無限成長美術館」というコンセプトの元進化を続けている。見た目では分からないほど広大な館内は、丸一日楽しめる。 西洋美術館の左には考える人、右には地獄の門が待ち構える。この地獄の門の中央上部には考える人が鎮座している。 「絵画は四角」という型を打ち破った作品。周囲を囲む額縁も含め芸術。 深い青に目を奪われた。そして聖女の肌の色や後光と青とのコントラストがかっこいい。 穏やかな色をした空の下、何の恐れもなく、自由に川で遊ぶ彼らはとても

        tótem(夏の終わりに願うこと)を観て

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        記事

          ポーラ美術館

          新緑のカーテンをくぐるとガラス張りの空間。エスカレーターを降りると受付の人が迎えてくれて丁寧に案内をしてくれた。"人にこだわる"ことで世界観ができあがる。 見る角度を変えると目が追ってきて、鼻の向きも変わる。 中央下の二人の男がはっきりしてみえる。近づいてみるとわずかに輪郭が白くなっていた。 一見写真かと思うほどリアルだった。それも白と黒の二色の世界なのに。日が差しているのに、冷たく、時間が止まっているようだった。一番好きな絵。 川に淡くなって映る空。 グレー、黄色、

          『箱根ガラスの森美術館』へ

          箱根ガラスの森美術館へ訪問。 「香りの装い」という香水瓶をテーマにした企画展があり、入場チケットから匂い付きととても工夫が素敵。 ホロライブのらでんさんの解説を聴きながら、王侯貴族から庶民の手に渡った香水瓶の歴史を辿る。 網目上の細かい細工があるもの 表面に絵画のような装飾があるもの 3種類の香水が入れられる高機能なもの 日本文学が取り入れられたもの 様々な香水瓶があったけど、私は金色の縁に囲まれた深い青瓶から高貴さが伝わってきて好きだった。 池にアヒルも浮かぶ庭園

          『箱根ガラスの森美術館』へ

          『The First SLAM DUNK』を観て

          観たいな〜と思いつつ、「原作読んでからしよう」とうかうかしてたら公開終了。…とがっかりしてたところ、近くの映画館でアンコール公演が決まり駆け込んだ。 今回の映画は、原作では脇役であったであろう宮城リョータが主役。幼少期に父と、同じくバスケをしていた兄を立て続けに亡くし、周囲や自身の「兄の代わりになる」という期待の大きさを背負い切れずやさぐれる。 それでも、高校進学後も先輩に反抗しつつも、バスケは続けていた。 リョータは練習後に絡まれた先輩から目をつけられ呼び出された時、

          『The First SLAM DUNK』を観て

          夏へのトンネル、さよならの出口を観て

          YouTubeやSNSで女子高生が教室でいじめっ子を殴りかかるシーンをよく見かけ、心が少しすっとした。 改めて何のアニメなんだろと調べてみたらすぐに見つかった。『夏へのトンネル、さよならの出口』 主人公カオルは、内気で少し影のある少年。彼の通う高校に東京から転校生のあんずが来た。その転校生は、周りとは一切打ち解けようとせず、クラスのリーダー格の女子に初日から目をつけられるも「喧嘩売ってんの」と顔面にグーパンをぶち込んだ。勝手に想像していた「いじめられっ子の下克上」とはだい

          夏へのトンネル、さよならの出口を観て

          『ルックバック』を観て。

          なぜだかずっとチェンソーマンは避けていた。 絵柄のせいなのか、母の強すぎた勧めのせいなのか。 褒められると「でも、まだ本気ではない」と素直に受け取れず、期待されると「実は誰にも言ってないけど…」と虚言を吐く。 藤野の痛々しい言動が、とてもリアルで心の底がソワソワする。 その過剰な自信は、小学校という"小さな世界"で完結してるからうまれる。「世界の中心は私だ」とか「主人公は私だ」といった具合に。 そんな藤野に半ば狂信的に憧れる京本は、皮肉なことにその憧れから生まれた熱意から

          『ルックバック』を観て。

          キビへ。

          令和6年6月26日17時頃、キビが息を引き取ったらしい。 12歳と10ヶ月。 長生きしたと思う。 だけど、まだ家に帰ればキビがちょっと嫌な顔しながら、「お前には負けない」と張り合ってくる気がする。 うちの庭に急に現れて、初めて家に入った時、薄汚れていて、痩せていて、サルのような顔をしていた。タンスの下に隠れてしまうくらい、とっても小さかったので、その時は「ミニ太」と呼んでいた。 けれども、とっても食欲旺盛であっという間に育ての親のチビ太の大きさを越してしまい、「ミニ太

          子供は子供

          「子供はお腹が空くから悪いことをする。」 ばっちゃんはそう言った。 事件をおこし、一年少年院にいた彼は決して悪人には見えなかった。 家族に暴力をふるって家に居られなくなった少女はとても寂しそうだった。 親から愛されない。 ご飯が食べられない。 辛い時、寂しい時、不安な時、お腹がすいた時、子供たちはばっちゃんを頼りにする。 ばっちゃんの愛は確かに届いている。 けど、子供は当たり前に幸せであって欲しい。 僕はちょっとでもいいからそんな世界の力になりたい。

          男性の薬指には白い包帯が巻かれていた。 くるりと回しそれを外し、彼は言った。「結婚した時に妻がくれたんだ。」 ぎらっと光る似合わぬ金色は、とても美しかった。

          男性の薬指には白い包帯が巻かれていた。 くるりと回しそれを外し、彼は言った。「結婚した時に妻がくれたんだ。」 ぎらっと光る似合わぬ金色は、とても美しかった。

          ウマ娘-新時代の扉-を観て

          本当は今日行くかめちゃめちゃ迷った。 元々盛岡にTシャツを取りに行って、ついでに髪を切って、さらについでに映画を観ようと思ってた。けど、Tシャツ屋は定休日だし、美容院は上映開始の直前しか空いてない。うんうん迷った挙句、盛岡に行くのは諦めて、家の近くの美容院に行った後自転車で北上の映画館に行くと決めた。 そんな決断を褒めてくれたかのように、久しぶりに平日休みの日に綺麗に晴れた。さらに気温はそこまで上がらず、自転車で行くにはちょうど良かった。 ウマ娘は、たまたまニコニコ動画で

          ウマ娘-新時代の扉-を観て

          今は決めない

          「20代」とか「同世代のアイツ」とか適当に生きてると色んなプレッシャーが刺してくる。 3月に体調を崩して1ヶ月半仕事を休職した今を「チャンス」と無理やり思い込ませようとしていた。「きっとどこかにやりたい仕事がある。この私にしかできないことが。そして今がそれに出会うためのチャンスなんだ。」 一方で「こんな私を採ってくれる会社はあるの?」「その転職先が今よりキツくない保証があるの?」「そもそもやりたいこと分かんないよ」って本音はずっと苦しんでいた。 今日、大学時代一番好きだ

          檻の中のタカは幸せか

          動物園に来るといつも考えてしまう。 「ここにいるのと、自然で暮らすのはどちらが幸せか」 キリッとして木の上に立つタカの姿はタカとしてのプライドを感じる。彼には本来何百メートルも好きなだけ飛んでいける翼がある。でも檻の中では、その力が思う存分活かされる瞬間はない。 しかし、逆に言えばその「空を飛ぶ力」は獲物を狩るための手段で、ここにいる限り飢えることはなく、翼を持つ必要はないのかもしれない。 一方、すぐ近くでサルたちが檻の中を自由に駆け回っていた。まるで公園を走り回る子供

          檻の中のタカは幸せか

          4月26日

          「告白しよう」ってセリフとタイミングまで決めて会ったのに結局改札前で呼び止めて震えながら「付き合わない?」しか言えなかった。 彼女の反応は「少し考えさせて欲しい」 これはダメだ。脈ナシだ。帰りの電車の中で「変に抱え込まずスパッと返事してもらって大丈夫だよ!」なんて優しさぶった負け惜しみのメッセージを送った。 昨日「返事がしたいから明日電話できない?」と彼女から連絡があった。振られると分かりきっていると人は全くドキドキとしないのか。「わざわざ電話で返事くれる丁寧さに感謝です