王神愁位伝 プロローグ 第14話
第14話 叫び
ー 前回 ー
ーーーーー
「この・・・下等種族共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!」
爛の物凄い雄たけびと共に一気に間合いを詰められた幸十は、首を捕まれ、そのまま地面から持ち上げられた。
流石の幸十も表情を苦しくし、爛の手を離そうとしても尋常ではない力で締め付けられ、全くびくともしない。
「幸十!!・・・爛!!やめて!!」
志都の呼びかけにも、一切見向きもしない爛。幸十の首を掴む腕にはいくつもの筋が入り、反対の腕の2倍ほどの大きさになっていた。
そして自身の持つ憎しみ全てをさらけ出すような形相で、苦しむ幸十を見た。
「てめぇ、どうやって入ったんだよ!!ここに!!!」
「っく・・・っふ・・」
首を絞めつけられ、答えられない幸十。
「この城はなぁ、全ての場所が俺の監視下なんだよ。何か変な動きがあればな、てめぇら下等種族のクソみたいな行動は全て察知できんだよ。なのによ・・・ここにはどうやって入ったんだよ!!?あぁぁあ?!!!」
より一層きつく首を絞める爛。
そろそろ幸十も意識の限界だった。爛の指は6本あり、握力もその分強い。この馬鹿力にかなうはずもない。
すると爛の周囲に、城中に張ってある植物のツルが集まってきた。
そして、何やら浮かび上がると、そこにはツルで作ったのか、緑色の鋭い大きな剣ができていた。
「爛?!何をするの?!」
志都は嫌な予感がすると、爛はクスっと笑った。
「姫さん。だから探るなって言ったんすよ。あんたに関わる人間はこうなるんだ。」
爛の瞳には、真っ黒い憎悪が浮かび上がっており、その表情には人間の痕跡など見つからない。何度見ても獣のような姿であった。緑色の剣を手に持つと、幸十に向かって刺そうとした。
「だめ!!!」
咄嗟に志都は、爛の脇にしがみつく。
”ビリっ!!!”
「・・っつ・・・!!?」
志都が爛にしがみつくと、何やら電流が走るような感覚が爛の身体を巡った。
そんなに強い電流ではなく一瞬の出来ごとであったが、驚いた爛は抱きつく志都から離れ、同時に幸十を衝撃で離してしまった。
「・・・っ・・ゲホっ・・・ゲホ!!」
解放された幸十はその場で咳き込み、志都が駆け寄った。
「幸十!!!!」
今は息を吸い込むことに一生懸命な幸十。
その横で、幸十を放した手を呆然と見つめる爛。
(・・・なんだ?今の・・・ビリっとした感覚。ここにセカンドはいないはず・・・)
爛はうずくまる幸十と支える志都に、異様なものを見るかのように視線を向けた。
(いや・・・あいつらは能力なんて持ってないクソどもだろ!!選ばれもしなかった奴らが・・・力もない奴らが・・・この俺に!!!!!!)
再び怒りが沸き上がる爛。
片方の手に持っていた緑色の剣を強く握りしめ、うずくまる幸十の方へ向かう。近づいてくる爛に気づいた志都は、幸十を守るように抱き寄せた。
「ら・・爛!だ・・・駄目よ!!そんな・・・人を傷つけちゃ・・」
”ド―――ン!!”
志都の言葉に、爛は緑色の剣を思いっきり床に刺した。
床は固く太い枝のようなものでできており、簡単に何かを刺せるようなものではない。しかし、物凄い音と共に、爛は剣を床に刺し貫いた。
また爛の腕は幸十の首を握りしめていた時と同様、2倍ほど太くなり、同時に様子も今まで以上に怒りに満ちていた。
「姫さん・・・人じゃなかったらいいのかよ。」
「え・・・?」
そしてそのまま幸十に近づくと、オレンジ色の髪を掴み、志都の腕から離した。
「幸十!」
「うっ・・・!!」
幸十の苦しそうな顔を見て、爛は不気味に笑った。
「っは!!人間のクズ共が!!てめぇらが生きているだけで胸糞悪いんだよ!下等種族どもがぁぁぁぁぁあああああ!!許さねぇ・・・許さねぇ・・・俺は絶対に許さねぇぇぇぇぇぇええええ!!!」
爛は何か強い憎しみをもって言うと、その勢いのまま幸十を緑の剣で再び刺そうとした。
あまりの爛の迫力に動けない志都。剣は幸十のお腹の目の前まで来た。
─もう刺される。
志都は、やめてと懇願しながら目を閉じた。
”グサ・・・”
『爛?』
誰かが呼びかける。その声で、その場の空気が一瞬にして変わった。
見ると、扉の前に何やらウサギの形をした不気味な人形が独りでに立っていた。
ウサギの人形は焦点の合わない不気味な瞳をこっちに向けていた。
『爛~、まだ~?』
そんな不気味な人形からは似つかない、拍子抜けする声が流れた。
その人形を見るなり、爛はいつもの冷静な表情に戻った。
「オルカ・・・さま・・?」
爛が拍子抜けした顔でつぶやくと、人形は爛の近くまでぎこちなく近づいた。
『遅いよ~。また暴走したの?奴隷は生きてる?死んじゃった~?』
剣がお腹に浅く突き刺さり血を流している幸十を見て、ウサギの人形は聞いた。
聞かれた爛は、幸十をじっと見て心臓が動いていることを確認した。
「まだ・・・」
『ギリギリセーフっ!じゃあ、こっち持ってきて~。そいつももういいでしょ?』
「・・・はい。」
爛が素直にうなずくと、人形は爛の肩に上り、短い腕で前を指した。
『はい、じゃあレッツらゴー!』
大量の血を流す幸十の頭を掴み、引きづりながら爛は人形と共に部屋を出て、階段を降りていった。
目の前の衝撃的な出来事に、爛たちが部屋を出た後も呆然としていた志都だったが、咄嗟に窓の外にいる乖理を思い出して窓を開けた。
すると、窓の下の所で怯えた表情で声を殺し、泣き腫らした乖理がいた。どうも中の声や音が聞こえていたようだ。
志都が優しく手を差し伸べると、気づいた乖理は手を掴み部屋に入り、勢いよく志都に迫った。
「あに・・兄貴・・・兄貴は!?!」
志都はどう答えたらいいのか分からず、苦しそうな表情をしていると、乖理は顔を横に振り大粒の涙を流し始めた。
「やだ・・いや・・嫌だぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
乖理は、部屋から階段へ向かって血のあとがついているの見て、階段の方へ追いかけようとした。
しかし、幸十を追いかけようとする乖理を志都は抱きしめ、必死に止めた。
「離せ!!離せ!!やだ・・やだ・・兄貴・・・兄貴!!やだよーーーーー!!行かないで!俺を一人にしないで・・・俺をおいてかないでよ―――――!!!あにぎぃぃぃぃぃぃぃいいい!!!」
泣きながら必死に叫び、志都の抱きしめる腕を振り払おうとする。志都は何も言えず堪えきれない涙を流し、必死に乖理を抱きしめた。
「あにぎぃぃぃぃぃぃぃい!!やだ・・おいて・・・置いてかないでぇぇぇぇぇぇぇええ!!一人は・・・一人は嫌だよーーーーー!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!」
乖理がここに来て何とかやってこれたのは、幸十の存在が何よりも大きかった。
表情も変わらず、口数も少ない幸十ではあったものの、爛や狼たちに怒られる時、いつも幸十が乖理を守ってくれていた。
生きる希望を無惨にむしり取るこの場所で、乖理にとって幸十は唯一無二の生きる希望となっていた。
小さな身体から、全ての力をかき集め発する懇願の叫び。
すると、乖理の叫びと一緒に外からも大きな叫び声が響いた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」
おびただしい叫び声の主は、幸十であった。
幸十は気絶寸前の最後の力を振り絞り、大きな叫び声を上げた。驚く爛達だったが、それは幸十の最後のあがきだと呆れていた。
同じく幸十の叫びに驚く志都だったが、幸十の叫び声に乖理の叫び声がかき消されていることに気づいた。
「さ・・・幸十・・ご・・・ごめんなさい・・・」
幸十がヒナギクの塔へ連れてかれる中で、残された乖理と志都は、ただただうずくまって泣くことしか出来なかった。
ーー次回ーー
ーーーーーー
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?