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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第42話

第42話 猛獣OR人間?

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"キィィィィイン"

「ぎゃっ!!!!!!!」

やっと那智なち榛名はるな、暴走するシャムス軍副隊長のたけるを落ち着かせた琥樹こたつたちだったが、いつのまにか周囲を大量のマダムたちに囲まれていた。
いち早く気づいた琥樹こたつは、短い悲鳴と共に近くにいた洋一に瞬時に抱きつく。

「なんや、裸で抱きつくな・・・って、うそやん。マダムやん。」
洋一の言葉に周りにいたシャムス軍隊員たちも、ギョッとした表情をした。

「ほんま琥樹あんさんと一緒にいるとマダムがよーーーーさん集まってくるわ~。琥樹こたつは特に美味しそうに見えるんか?」
「ややややややややめてよ!俺をマダムの餌みたく言うの!!俺もう無理!!戦えない!!」

洋一にしがみついて泣き叫ぶ琥樹こたつ
「こら!はよ離れて戦うで!!!」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁあ!身体中痛いよぉーーー。シャムス軍もいるから守ってもらおうよーーー。」

泣きべそをかき、引っ付く琥樹こたつを引き剥がそうとする洋一。

「あ、やべ。」
すると奥で何やらシャムス軍隊員たちがざわつき始めた。

「・・・?どうしたんや?」
異変に気付いた洋一が、シャムス軍隊員たちに聞くと――

武器がない・・・・・・・・・ははっ。」
「・・・・・」

沈黙がその場に流れる。
そりゃそうだ。ここにいる人間は、皆んな素っ裸。武器も服と一緒に取られたのだろう。
不幸中の幸いか、琥樹こたつの琥珀色のイヤリングは取られなかったが・・・

「え・・・じゃああのマダムはどうす・・・」
”じーーーーーーーーー”
琥樹こたつが聞くと、シャムス軍隊員たちは目を潤ませ、琥樹こたつをじっと見つめ始める。
嫌な予感のする琥樹こたつ。シャムスに来て、もう何回この感覚を味わったのだろうか。

「・・・・え、む、むむむ無理だよ!!?!俺もうボロボロだし!体力も残ってないし!!セカンドの力もほぼ残ってないよ!!」
「そうか・・・」
シャムス軍の隊員たちは、落ち込んだ素振りを出すと、おもむろに静かに寝ている猛を抱え始めた。

「・・・じゃあ副隊長をマダムの中に入れてまた暴走させるしか・・・」
「ちょっと!!自分たちの副隊長に辛辣すぎでしょ!!!しかも暴走止められないんでしょ!!マダム以上に面倒だわ!!!」

先程の猛の暴れようを思い出し、起こそうとするシャムス軍隊員たちを琥樹こたつが必死に止めようとしていると・・・


"キィィィィイン"

「ぎぃやぁぁぁぁあ!!!」
容赦なくマダムが襲ってくる。

琥樹こたつ!!」
洋一が促すと、琥樹こたつは渋々左手に握っていた扇子型の武器を持った。

「ぅう・・・第二血響けっきょう、飄風の乱!」
身体中の痛みを噛みしめながら、武器を振るう琥樹こたつ

「おー!!」
"パチパチパチパチ"
そんな琥樹こたつの姿に、シャムス軍隊員たちが琥樹こたつの勇姿に拍手を送る。

「え、ちょっと、やめてよ、はずかしい、えへへ。」
日頃あまり褒めてもらえない琥樹こたつは満更でもない様子である。そんな琥樹こたつをどこか遠い目で見る洋一。

"キィィィィイン"
しかし、マダムはそんな数体ではない。
まだ周囲にいる数十のマダムたちが、琥樹こたつたちに襲い掛かる。

(――色々やっかいやな。ここの地形自体、周りが崖で囲まれてる場所や。なんでよりにもよって・・・・見事にマダムに囲われて逃げ場がない。しかもこんな量、琥樹こたつ一人で到底さばききれへん。シャムス軍が武器持ってないのは痛いな。)
暴走する猛を止めるため、太陽の泉から少し離れた山の奥にいる洋一たち。周囲は崖に囲まれた場所であり、唯一太陽の泉に向かう一本道も大量のマダムたちに囲まれてしまっている状態である。正に八方塞がりだ。
洋一が周囲の状況を見ながら、マダムと戦う琥樹こたつに聞いた。

琥樹こたつ!第一血響まではしなくてええから!俺たちを風の中に閉じ込められへんか?!」
「え、どゆこと?!」
「相変わらず察し悪いな。」
「洋一さんの指示が分かりづらいんだよ!!」
「第一血響あるやろ、あのおっきな竜巻起こすやつ!!あれの中心に俺たちがいられる空間があるといいってことや!風の壁を作って、この大量のマダムが入ってこないようにするんや!」
「え、そんなことやったことないよ!!できるかな・・・」
「多分できる!!お前なら大丈夫や!」
「洋一さんの大丈夫は大丈夫じゃない時が多いような・・・」
「つべこべ言っとらんではよやりぃや!!全員死んでまうで!!」
渋る琥樹こたつに、洋一が急かす。マダムたちも待っておらず、既に隊員たちへ攻撃が始まっていた。

「で・・・でも・・・そんな長時間保ってられる自信ないよ!本当にセカンドの力、ほぼほぼ使い切っちゃったの!!!」
「ええんや!!とりあえず、お前以外に今マダムに対抗できる力がない中で、どうにかせなあかんのや!!ひとしのぎでええから考える時間ほしいんや!!」
洋一の言葉に、琥樹こたつが唾を飲み込むと覚悟を決め扇子型の武器を構えた。

「や、やったことないから出来るかわかんないからね!!」
少々投げやり気味に琥樹こたつが言うと、洋一が手をグーにした。

「大丈夫や!なんとかなる!なんとかするで!!!!」
その洋一の言葉で琥樹こたつは構えた。

「第一血響・・・!」
「みんな!!集まって固まるんや!飛ばされんようになーーー!!」

洋一の呼びかけに、そこにいた全員が琥樹こたつの側に集まり、それぞれ手を取った。
(・・・なるべく中心を広く・・・中心を広く・・・)

琥樹こたつは頭の中で洋一に言われたような風の壁をイメージする。
そして――

セロの風巻しまき!!!
"ビュユュュュュュユユン!!"

「うお!!」
「ひゃ~!しっかり捕まるんやでー!!」
琥樹こたつを中心として、けたたましい風が吹き始める。
順調に琥樹こたつたちを中心として覆い、マダムたちの間に風の壁を円形に作っていた。

「よっしゃ!出来てるで琥樹こたつ!そのままや!」

マダムたちが風の中にいる琥樹こたつたちに近づこうとするも、近づけない洋一の思惑通りになった。
琥樹こたつはこの極寒の中素っ裸だが、大量の汗と涙を流しながら、なんとか保っている。
「は・・・早くして!!俺死んじゃう!!策は?」

琥樹こたつが聞くと・・・・

「あ、マダムの顔が入ってきてるで!」

洋一が琥樹こたつの目の前を指差すと、風の間をくぐり抜けてきたのか、マダムの顔がひょっこり覗かせた。
”キィィィィイイン”
「ぎゃ!!!ちょ!これどうにかしてーー!!!」

風の威力を抑えないよう、手が離せず混乱する琥樹こたつ

「うわ、そっちも。」
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
マダムが風の隙間からどんどん顔をのぞかせる。ただでさえ那智や榛名との戦いでボロボロで、この極寒の中動き回って凍傷も酷い琥樹こたつ。動いているのがおかしいくらいだ。

"ヒュン!!"
すると、洋一が顔をのぞかせるマダムにコウモリの翼から麻痺針まひばりを放った。

"キィィィィイン!"
相変わらず不快な鳴き声を放ちながら、麻痺針からの痺れで倒れるマダム。
「一先ずは・・・やけど、俺の翼もそんなに力が残ってへんからな・・・」

洋一が自身のコウモリの翼の残量を確認していると――
「ま・・・まずい!!」

シャムス軍隊員が叫んだ。
琥樹こたつと洋一が振り返ると、マダムが一体、上半身まで侵入してきていた。そのまま、鋭い鎌をシャムス軍隊員たちに向ける。

”ザッ!!!”
「うわぁ!!」
なんとかギリギリで避けるも、もう逃げ場がない。洋一はマダムを凝視しながら思考を巡らし始めた。
(やっぱり・・・あれしかないか・・・)
そして、コウモリの翼からそのマダムに再び麻痺針を刺す。

”ブスッ!!!”
”キィィィィイイン!!!”
洋一が放った麻痺針は間一髪でなんとか当たり、マダムの動きが鈍くなった隙に、シャムス軍隊員たちに叫んだ。

副隊長そのおっさん起こしいや!!!
「え」
全員驚いた表情で洋一を見る。

「ほら!!!!!死にたくないなら、はよしいや!!!!!」
「じょ・・・冗談・・・い、いやその、こんなに早く暴走した副隊長を起こしたことがなくて・・・また暴走するかも・・・」
「もうそれならそれでもええ!!琥樹こたつ!!おっさん暴走したら、風止めや。暴走せえへんかったら、もうちょい頑張ってや!!!!」
「え、本当に起こすの?!噓でしょ!!!?!!」

琥樹こたつも半信半疑の表情で洋一の方を振り向く。
誰もが驚いている最中、洋一は特徴的な八重歯を見せてニッと笑顔をむけた。

大丈夫!俺を信じてみい!後悔させへんで!!!!

どこから来るのか分からないほど自信を持つ洋一に、シャムス軍隊員たちは音を立てて唾を飲み込むと、気絶している猛を起こし始めた。

「副隊長!!」
「副隊長!!起きてください!!」
「ぐー・・・」
中々起きない猛を必死に起こし始めるシャムス軍隊員たち。
しかし、マダムは待ってくれない。

"キィィィィイン!"
上半身まで入ってきたマダム以外にも、数体入ってきた。
「ぎょうさんくるなぁ!!」

洋一は再びコウモリの翼を向け、麻痺針を放つ。しかし倒せるわけではない。あくまで一時的に動けなくする程度で、時間が経てば再び動き始める。
動けなくとも、モゾモゾと地面を這うように動くマダムたち。

「・・・・さあ、おっさんは人間か?!!!それとも猛獣か!?わっくわくやな!!!」
洋一が一人楽しそうに、侵入してくるマダムに麻痺針を撃ちながら、シャムス軍たちの呼びかけに気絶したままの猛をふと目にする。

「副隊長!!早く起きてください!!」
「じゃないとやばいんです!!副隊長!!」
「副隊長!!!」

しかし、中々起きない猛。
琥樹こたつの力もつきはじめ、風が弱まりマダムが入ってきやすくなっている。

"キィィィィイン"
「まじか!」

ついに一体のマダムが、琥樹こたつの竜巻の中に入ってきた。
洋一が麻痺針を向けるも、華麗にかわす。

「洋一さん!!」
遂に洋一の目の前まで迫ってきたマダムが刃を向ける。
その光景にシャムス軍隊員が叫んだ。





起きろ副隊長ーーー!!!!夕貴姉貴が来たぞーーーーーー!!!!!!!




その瞬間――





"ガキン!!!!!!"
「!」
「副隊長!!」

マダムに襲われそうになった洋一の目の前には、入ってきたマダムの刃を槍型の武器で受け止めるたけるの姿があった。

「第二血響!!!地獄業火じごくごうか!!!」

マダムの刃を受け止めた槍型の武器は炎を吹き出し、マダムを一瞬にして包みこむ。

"キィィィィイン"
不快な鳴き声を放ちながら離れ倒れゆくマダム。
しかしそんなマダムよりも、そこにいる全員が気になるのはこっちだ。



人間か、猛獣か、どっちだ?!!!!



みんな起き上がった猛を息をのみ見つめた。

すると・・・・


「・・・お・・・おおおおおい!!あ、ああああ夕貴姉貴はどこだ?!全員受け身の姿勢を・・・!!!」
そう言う猛に、シャムス軍隊員たちは瞳に涙を浮かべ一斉に猛に抱きつく。

”ガバッ!!!!!”
「副隊長ーーー!!!」
「よかっだーー!!」
「弱くても”まともな方・・・・・”でよかったー!!」
裸の男たちが抱き合うなんとも言えない光景だが、みんな一安心したようだ。しかし安心したのも束の間、すぐさま洋一が口を開いた。

「おっさん!!!あんた正気の方か?!」
「え、あ、誰・・・?」

戸惑う猛も――

「正気な方だ!!」
シャムス軍隊員たちが真っ先に答えた。

「じゃあ、一緒に戦うで!!」
「え?」
「もう琥樹こたつが限界なんや!!」

その言葉に猛は振り返ると、扇子型の武器を手に持ち、セカンドの力を絶えず放出し風を引き起こしている琥樹こたつの姿が目に入る。


「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」

既に立ってられず、膝を付き気力だけで耐えている状態になっていた。



ーー次回ーー

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