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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第31話

第31話 眠れる泉の男たち

ーー前回ーー

ーーーーーー



"チャプン・・・"


「・・・ん・・」
琥樹こたつは、微かに感じる不快感と身体に染み渡る妙な温かさを感じながら目を覚ました。

(・・・あれ・・・?・・・俺・・何してたんだっけ・・・?)
意識は曖昧で、直前の記憶を思い出すのも気怠さを感じる。

(・・・えっと・・)
ふと、腕を動かそうとしたとき——

"チャプンッ"
(・・・あれ?・・?)

"ッパチ!"
「え・・・ぇえ?!?水、え、いや、温かい?!え!??」
琥樹こたつは完全に意識を取り戻すと、何やら温かい水の中にいた。何がどうなっているのか、混乱しながら立ち上がると——

「え、しかも何これ!すっぽんぽん・・・・・・じゃん!!ちょっと!誰が脱がした・・の・・・」
素っ裸でいることに、恥ずかしさと混乱に陥る琥樹こたつ
どうしてこうなったのか、記憶を絞り出す。

(そうだ・・・マダムに追われてたら、洋一さんのコウモリで墜落して・・・えっと・・・)

"パチャン!"
「あ!洋一さんは・・・」
洋一の存在を思い出し、辺りを見回す。しかし、どうも黒い霧・・・が辺りを覆っており、遠くの様子が見えずらい。まるで、真っ暗闇の中をさまよっているようだ。

「え、ちょ、洋一さん?どこ?どこにいるのー?!!」
怯えながら、黒い霧が周囲を覆う中を歩いていく琥樹こたつ
温かい水が続き、水でもたつく足を何とか前に出す。

「もう!何なんだよ!ここ!!ぅう・・・でもなんか・・・、自然と身体が軽い・・・・・・・・?気のせいかな。セカンドの力も戻ってる気が・・・。」
琥樹こたつが一人ぶつくさ話していると——

"ぐにっ"
「うわ!!何!!今何か踏んだ!やだ!何!!!」
水中で歩く琥樹こたつの足に、何か・・が当たった。
琥樹こたつの目の前に何かがあるようだ。ただ黒い霧が濃く見えない。

「・・・うぅ・・・この霧、風でどうにかなるかな・・・」
泣きべそをかきながら、琥樹こたつは琥珀色のイヤリングを触る。

「セカンド、風の解放・・・」
慎重に小声でつぶやくと、琥樹こたつの手に扇子型の武器が現れた。琥樹こたつのセカンドとしての武器だ。
そして周りを気にしながらその扇子を広げ、小さくあおいでみた。

"シュュュュウ"
(——お!)
あおいだ所が一瞬、霧が晴れた。琥樹こたつは少し表情を明るくさせると、もう少し強く扇いでみた。
近くの黒い霧が晴れ、周りが見えてくると、目の前には水に浸かって気を失っている洋一がいた。同じく素っ裸だ。

「洋一さん!」
気を失う洋一に駆け寄り、肩を揺らして起こそうとするも——

"グーッ、グーッ・・・"
盛大にいびきをかき寝ている。
そんな洋一に、琥樹こたつは再び肩を揺らした。
「そんな気持ちよさそうに寝てないで!!起きて!!なんかおかしいよ!!洋一さん!!」
「・・・んが!!・・・んん・・・?なんや?」
「洋一さん!!」

やっと洋一が起きた。
が・・・
「なんやここ・・・温かくて気持ちええなぁ・・・もっと寝たいわ・・・」

また寝ようとする洋一に、琥樹こたつは必死に肩を揺らす。
「だめ!!寝ちゃダメ!!起きて!!俺を1人にしないで!!俺一人じゃ何もできない!!」

洋一もそうだが、琥樹こたつも段々とまた眠くなっていることに気づいた。このまま寝てはいけないと、どこか琥樹こたつの直感が全身で叫んでいる。
(あぁ・・この眠気・・・なんだろう・・・この温かい水?それともこの黒い霧?あ・・・やばい・・・眠くなってきた・・・)

瞼が落ちてきた琥樹こたつは、必死に耐えながら再び扇子を力強く握った。
"グッ!"
(だめ!!寝たら最期な感覚しかない!!もう!すっぽんぽんじゃ外にも出れないし、とりあえずここら辺の霧を・・)

そして再び扇子を扇いで霧をはらう。さっきよりも広範囲の霧が晴れると、琥樹こたつは驚き目を見開いた。

「・・・んが!!あれ、また寝てもうた。ふぁぁぁあ!」
霧が晴れたからか、洋一がやっと意識を戻すと、目の前に琥樹こたつが突っ立っていた。

「ん?なんや琥樹こたつ。あんさん、素っ裸やないか・・・って俺もか!?!ぇえ?なんやこれ!」
驚く洋一に、琥樹こたつは突っ立ったまま口を開いた。

「すっぽんぽんなの、俺たちだけじゃない・・・・・・・・・みたい・・・」
琥樹こたつが向ける視線の方向に、洋一が目を向けると——

「え、なんやこれ?!!素っ裸の男ばっかやないかい!!!
そこには、琥樹こたつと洋一のように、素っ裸にされた男性たちが水の中に浸かって意識を失っていた。

「それにしても、この温かい水、心地ええな。太陽の泉もこんなんかな?はよ入りたいわ~。」
「ちょっと!そんなこと言ってないで!!絶対俺たち変態に攫われたんだよ!!男を裸にする変態!!やだ!これから何されるの!!」

温水の心地よさに浸っている洋一に、琥樹こたつは両手で自分を抱きしめ叫んだ。
「そうゆーてもなぁ。どーすっかな。・・・考えるの、面倒やなぁ。」
「考えるのが戦術班あんたらの仕事でしょ!!!」

ぐずる琥樹こたつに、面倒になっていく洋一。
「ぁあ、ほら!また黒い霧がでてきた!!」

琥樹こたつは扇子で仰ぎ、なるべく黒い霧が充満しないようにした。
「ちょっ!寒いわ~、扇がんといて~。」
「じゃないとまた眠っちゃうんだよ!!!一人でくつろがないでよ!!」
「ん?眠くなる原因、この黒い霧・・・なんか?」
「いや、わからないけど・・・・この霧を風で散らしたら目が冴えて、洋一さんも起きたからそうかなって・・・。」
「・・・ふむ。なんや、ならもうちょい大きな風だせるか?ここ一帯のこの霧をすっ飛ばすような!」
「え、まぁ、できなくはないけど。なんかセカンドの力も戻ったんだよね。」
「なんや、ならはよやりい。」
「・・・でも、この黒い霧とると嫌な予感・・・・がするんだよな・・・。」
「嫌な予感て、霧が晴れたらまたマダムに囲まれてたーとかか?ははっ!心配し過ぎやー、大丈夫やて!まずは眠気の原因をパァーッと吹き飛ばすで!!」
「うぅ・・・わ・・・分かったよ・・・。なんかなぁ・・・。」

洋一が両手を大きく広げて意気揚々と言うも、琥樹こたつはいやいや扇子型の武器を広げた。

「第二血響、飄風の乱!」
琥樹こたつの扇子からいくつもの風が飛び出し、あたりの黒い霧を跳ね除けていく。

”サァァァァアアアア——”
「ぉお!どんどん辺りが見えてくるでー!」
「ぅう・・・大丈夫かな・・・」
黒い霧がとれていくと、辺りも明るく視界が晴れていく。期待する洋一と不安いっぱいの琥樹こたつ
すると・・・




"キィィィィィイン"



「え」
辺りにあらわれたのは・・・

「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!!ほらいたーーーーーー!!!」
「あら、マダムや。」
琥樹こたつたちを囲う無数のマダムたちが目の前に現れた。
先程の数体ほどではない。十数といるようだ。

”ガシッ!”
「お?」
琥樹こたつは驚きのあまり、洋一の手首をつかみ猛ダッシュし始める。

"ダダダダダダダダダダダダっ!!"

「ちょ、寒いやん!てかこの感じ、二度目やな。」
「だから言ったじゃん!!嫌な予感するって!!」

"キィィィィイン"
「ひやぁぁぁあ!!き、来たーーー!!」
大量の涙を流しながら、またスピードを上げる琥樹こたつ
先程まで温かい水の中に居たせいか身体はホカホカだが、やはり外の気温は寒い。しかし今の琥樹こたつにはシャムスの寒さよりも、目の前のマダムから逃れることが勝っていた。
掴まれるがままだった洋一だが、ふと先程までいた大きな水溜まり場を見て、琥樹こたつを止めた。

「ちょっ、あ、あかん!琥樹こたつ!!とまんかい!!!」
"ガンッ!!"
止まらない琥樹こたつの足に、洋一は自身の足を引っ掛けた。

「うぎゃ!!」
"ズドドドドドドド!"
思いっきり転ぶ琥樹こたつと洋一。

「冷っっっっっっっった!!!な、何すんの!!」
二人ともシャムスの雪に素っ裸の状態でつっこんだ。
琥樹こたつは急いで顔をあげ、同じく雪に顔を突っ込んだ洋一に叫んだ。

「しょうがへんやろ、おえ・・・雪が口に入ってもうた・・・ってこんなことしてる場合やない!ほら!水溜まり場あそこにいた気い失ってる全裸のおっさんたち!!マダムに襲われそうなんや!!」
洋一が先程までいた場所を指さすと、マダムたちが気を失っている男たちに襲い掛かろうとしていた。

「うわ!!ってかあのおじさんたち誰!!?でも、俺たちだけであの量のマダム、対処できないよ!!」
そう言う琥樹こたつに、洋一は急いで辺りを見回し、何か使えないか考えた。そして、大きな水溜まり場周辺のとあるもの・・・・・に目線を向けニヤリと口角を上げた。

「にひっ、いい事思いついたで、琥樹こたつ。」
「え、何?」
"グイッ"
座り込む琥樹こたつを引っ張り立ち上がらせる洋一。

「ほら、立ちいや!」
そのまま琥樹こたつを連れて走り出す。

「え、え、どうするの?!え?」
困惑する琥樹こたつに、洋一は走りながら言った。

「とりあえず、少しの間琥樹こたつはマダムと戦っといてや!」
「え、あ・・・ああああああの量と??!無理だよ!無理!死んじゃう!!」
駄々をこねる琥樹こたつも、洋一は無視して突っ走る。

「大丈夫やて、俺があの素っ裸のおっさんたちを脇っちょに避難させてる間だけでええんや。その間、マダムをあの水溜まり場左奥の・・・あそこ、木がいっぱいある所・・・・・・・・・に誘導するように攻撃してくれたらええ。その後はどうにかしてやるわ!」
「どうにかって、どうやって!?」

"キィィィィィイン"

すると水溜まり場がもうすぐ目の前に近づき、マダムたちに前から後ろから囲まれた。
「あー、もう時間ないわ!大丈夫やて!俺信じてみ?後悔させへんで~。」

そう言うなり、洋一は水溜まり場中央にいる襲われそうな人々の方へ走っていった。
「ちょっ!!洋一さん!!!あー、もう!・・・第二血響、飄風の乱!!!」

”シュンシュンッ!!”
泣きそうになりながらも、人々を襲おうとしているマダムに向かって攻撃を振りかざす琥樹こたつ

"キィィィィィイン"
すると、そこにいたマダムたちが一斉に琥樹こたつの方に顔を向けた。

「ぎゃ!こっち見たぁぁぁああ!!」
琥樹こたつは洋一に言われた通り、水溜まり場左側の木々が生い茂る方に走り出した。

"キィィィィィイン!"
マダムたちは、攻撃をしてくる琥樹こたつに向かってくる。

"ヒュンッ!ヒュンッ!"
「うわぁぁあ!こっち来るなぁぁぁぁああ!!」
どんどん近づいてくる大量マダムたちに攻撃しながら走る琥樹こたつ

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ・・・!!」
何とか水溜まり場の左側奥に、マダムを誘導できた琥樹こたつ

"キィィィィィイン"
「・・・あ・・」
見事にマダムの注意を引き、琥樹こたつの周りには十数匹のマダムが集まった。
逃げ場のない琥樹こたつ。コウモリの翼さえあれば空中に逃げられるが、すっぽんぽんの琥樹こたつに唯一あるのは、右手に掴む扇子型の武器。
ここで再び巨大な竜巻をだしてマダムを一網打尽にしてもいいが、そんなことをしてはやっと戻ったセカンドの力がまた尽きてしまう。

"キィィィィィイン!"
そうこう悩んでいる間にも、大量のマダムは容赦なく襲ってくる。

「ひぃ!!」
大量のマダムを見るのも怖く、琥樹こたつは目をつぶって扇子を振り回し始めた。

"キン!!カキン!!"
「やだやだ!!うわーー!洋一さーーーん!!!」

すると——

琥樹こたつ!!!」
どこかからか洋一の声が聞こえてきた。

「こっちやこっち!!!!」
琥樹こたつはマダムの攻撃をなんとか避けながら、頭上から聞こえる洋一の声に上を見上げた。

「うわ!!何してるの?!」
洋一が少し先の木の上にいた。

琥樹こたつ!!えーっと・・・俺のいるこの木とあっちの木と・・・そっちの木、3本!!!あんさんの風でぶった斬りなはれ!!!」

"キン!!キン!カキン!"
「え、木?!」
「そや!はよう!あんさんそのままやとマダムに食われんで!!」
「え、あ、えっと・・・」
「はよう!!!」
いきなりの洋一の指示に驚くも、とりあえず琥樹こたつは扇子を構えた。

「第二血響、飄風の乱!!」
"シュン!シュン!シュン!"
そして、洋一のいる木と洋一の指した左の二つの木に風の刃を向ける。

"スパッ!・・・ズズズズズズズッ!!!"
思っていた通り、そのまま倒れ始める木々。
琥樹こたつの切った3本の木は、絶妙な角度で交差しながら倒れていく。
洋一の計算通りか、倒れていくのは琥樹こたつが誘導した大量のマダムたちの方へ見事に一直線だ。
——ということは・・・

「え」
琥樹こたつは前からも後ろからも倒れてくる大木に顔を真っ青にした。

琥樹こたつ!!下敷きにならないよう、うまく避けーや!!」
洋一が倒れてくる木に、自身の体重をかけながら琥樹こたつに叫ぶ。

「え、ちょっと、ぇぇぇぇぇぇぇぇええ?!!」
慌てて避けようとするも、今から逃げても遅い。倒れてくる木々はもう目の前だ。
焦る琥樹こたつは、思わずその場でしゃがみ込んだ。
そして——

"ズドーーーーーン!!!!!!!!"

木々が雪の地面に巨大な音を立て落ちる。と同時に間髪を入れず洋一が叫んだ。
琥樹こたつ!!!立ちーや!!!攻撃や!!」

しゃがみ込んだ琥樹こたつは、なんとか木々の隙間にはまり下敷きにならずにすんだ。
安心しているのも束の間、洋一の声に立ち上がると——

"キィィィィィイン"
「うわ・・・!」
先程まで琥樹こたつを囲んでいたマダムたちが、見事に木々の下敷きになっていた。木々の重みから、全く抜け出せそうのないマダムたち。

琥樹こたつは状況を理解したのか、咄嗟に扇子を構え——
「第二血響、飄風の乱!!!!」

下敷きになっているマダムたちに一斉に攻撃を加えた。

"キィィィィィイン!!"
マダムたちは、断末魔と共に琥樹こたつの攻撃で鳴き声が止み、しばらくして静かになった。

「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
倒れた木の上で息絶え絶えに、生きているマダムがいないか目を見張る琥樹こたつ

"トン!"
そんな琥樹こたつの肩に、洋一が手をおいた。
「一件落着や~!な、上手くいったやろ?」

意気揚々とする洋一に——
「・・・ちょっと・・・殺すきかぁぁぁぁあ!!!あと少しで俺も大木の下敷きだったよ!!やめてよ!!!」

洋一の肩を握って、怒りを込めて洋一を揺さぶる琥樹こたつ
「大丈夫やて~、琥樹こたつなら避けると思うてたわ~。まぁ・・・マダムは動きは速いが身体はめっっさ軽い・・・・・・・・・からな。あんな大木の下敷きになったら簡単には抜け出せへんかなと思っとったけど、思った通りやったな!!」
「いや、意図的じゃなくて偶然避けられたんだよ!!偶!然!!あとちょっと間違ってたら俺も下敷きになって死んでたよ!!!洋一さんだって、俺がそんなに器用じゃないって知ってるでしょ!!!!!」
「・・・・まぁまぁ、とりあえず裸のおっさんたちも水溜まり場の脇っちょに移動させて助かったし、良かったな、あははっ!」

水溜まり場中央にいた人々は、洋一によりマダムたちを集めた場所と離れた端の方に集められていた。
「笑って誤魔化さないでよ!!」
「まぁま・・・」

洋一が宥めようとした時——



"グィン!"


一瞬だった。
目の前にいた洋一が、いきなり消えた・・・・・・・




「え」
突然の出来事に驚く琥樹こたつ
驚き辺りをキョロキョロと見渡す琥樹こたつだったが、背後から声が聞こえてきた。




「へぇ・・・君、風使いのセカンドか。同じじゃん。」

「え・・・なんで・・・」
その聞きなれた声に即座に振り向くと、そこにはイタルアサーカス団の那智・・・・・・・・・・・・が、洋一の首を掴んで立っていた。


ーー次回ーー

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