見出し画像

僕はおまえが、すきゾ!(32)

油科さんと僕は公園のベンチに座り、サブウェイで朝、買ったベーコンエッグサンドを食べていた。
僕は、多分油科さんの事など少しも考える事無く、つまらなそうにしていたんだろう。
そんな僕に対しても、嫌がる顔も見せずに、僕と並んでベーコンエッグサンドを食べていた。
「僕の一押しの映画はスタートレックなんだ」
僕はそれを自慢げに、言った。
「スタートレック?」
「知らないの?スターウォーズと並んであんなに有名なSF超大作なのに」
油科さんはごめんなさいと言って、今度観てみますねと言った。
「僕の好きなキャラクターはね、ジェネレーションズのデータなんだ。データはね、アンドロイドでね、人間の感情を理解しようとして、チップを頭の中に埋め込むんだ」
へー、と彼女は僕の話に淡々と頷いた。
「アンドロイドのデータは、人間の心を少しでも知ろうとして、色んな事をするんだけども、どれもトンチンカンなんだよね」
「へー、それって武田さんみたいですね」
「それ、僕の事、馬鹿にしてる?」
「じゃあ、これは?」と彼女は言って、僕にいきなりキスをした。
僕はいきなりの衝撃に、油科さんを突き飛ばした。
倒れた油科さんを見て、僕は急に恐ろしくなって、油科さんを置いて、その場を駆け出した。
何が僕にそうさせたんだろう、僕は唇を何度も拭いながら、走った。
僕は後ろを振り向かなかった。そして今起こった出来事を汚点のように感じた。
キスってどんなものだろう、昔からそんな事を映画のラブシーンを見ながら、ずっと考えていた。
それは僕のファーストキスだった。僕は何の為に唇を拭っているのだろう。
実際のキスなんて、なんてブザマでカッコ悪いんだろうと、僕はいつの間にか泣いていた。
泣きながら走っていた。
油科さんとのキスに、僕は無理やりキスを奪われた事で、心の何処から来るとも分からない悔しさを感じていた。
キスってもっとロマンチックなものなのだと、僕はいつも夢見ていた。
それなのに……それなのに。
親に怒られた時ぐらいしか、涙を流さないが、どうしてこんな事で泣くのかさえも分からず、走っていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?