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「緊急事態宣言」は5月6日で終わらなさそうな件(1)「8割おじさん」

▼2020年4月7日に安倍晋三総理は「緊急事態宣言」を発表した。

新型コロナウイルスの感染が都市部で急速に拡大している事態を受けて、安倍総理大臣は、政府の対策本部で、東京など7都府県を対象に、法律に基づく「緊急事態宣言」を行いました。宣言の効力は来月6日までで、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡が対象となります。〉(NHK、2020年4月7日)

■「2週間後に転換点」のはずだった

▼全国一斉ではなく、7つの都府県に限った。そのことが次々に問題と混乱を生んでいる。それはそれとして、この緊急事態宣言の意味について、2020年4月8日付の産経新聞がわかりやすく報道していた。

〈2週間後に転換点/緊急事態宣言/「じっとしていれば必ず効果」〉

〈政府の専門家会議メンバーで、東北大の押谷仁教授(ウイルス学)は「緊急事態宣言の効果が見えるまでには2週間ぐらいかかる。それまで増加していくのは、ある程度覚悟しなければいけない。これから2週間の自粛が有効だったことが、4週間後には見えてくる」と話す。

 北海道大の西浦博教授(理論疫学)の分析では、人との接触を8割減らせば、一時的に感染者が急増するが、10日~2週間後にピークを迎える。その後一気に減少に転じ、2週間後が収束局面を迎える転換点となる。〉

〈押谷氏は、オーバーシュートで医療崩壊を起こしたイタリアやスペインなどが都市封鎖により、感染拡大のピークを過ぎつつあることに希望を見いだす。

 「このウイルスを制御する方法を学んできている。完全になくすのは困難だが、今後の流行を小さい波にすることは十分に可能だ。今回のような外出自粛を何度も繰り返し、国民が疲弊(ひへい)するようにしてはいけない」〉

■「鉄壁の信頼」があった

▼いまは4月16日。緊急事態宣言から1週間が過ぎた。状況は、厳しそうだ。つまり、緊急事態宣言は5月6日で終わらない可能性が高くなりつつある。

そう思う根拠は、いまや「8割おじさん」のニックネームで親しまれるようになってきた西浦博氏の発言の変遷である。

「3密」(密閉した空間、密集する場所、密接する場面を避ける)も、人との接触を「8割減らす」も、西浦氏がデータ分析をもとに導き出した日本を救うための作戦だ。

▼2020年4月11日のNHKスペシャル「新型コロナウイルス最前線の攻防」で、西浦氏は「8割減らす」作戦を進言するにあたって、次のように考えていたことを話している。

「それには日本人に対する鉄壁の信頼がありました。『皆さんこういうリスクがあるんですよ』としっかりとコミュニケーションして、それが伝わって皆で長期間持続可能な行動してもらえるようになれば、大規模流行を起こさずにすむだろう」

このコメントは4月11日よりも前に収録されている。

■「とうてい届かなそうだ」

▼しかし西浦氏は、4月10日にインタビューが行われ、NHKスペシャルと同じ4月11日の昼に配信されたバズフィードの記事で、次のように話している。

「皆でお互いに注意し合って接触を減らせるかどうかが、この流行を止められるかにかかっているのですけれども、僕は厳しい印象を持っています」

「今回の流行では日本でヨーロッパのようなことが起きると、医療が崩壊するレベルまで重症患者が増えます。院内感染もものすごい数が起きる恐れが、目の前まで迫っています。

(中略)これぐらい死亡リスクがあるということをみなさんに伝えて、どう向き合うかつきつけることを早急にやらなければ。

今のみなさんの意識のままでは8割減には、とうてい届かなそうだなというのが率直な実感です。

自分がどうしたいというレベルをはるかに超えている状態です。これまでの3密という考え方で、日本人に対する信頼を寄せ自発的に行動を変えてもらうということでは防げない。

第2波がやんだ後に備えて、もっと色々な手を打っていかなければなりません。スマホの位置情報などの活用についても、今のうちに議論を始めたいと思っています。

▼8割減に届かなければ、2週間我慢して、次の2週間で結果が出る、ということにはならない。実際、8割には届いていないから、結果は出ないだろう。

▼ここで西浦氏が「これぐらい死亡リスクがあるということをみなさんに伝えて、どう向き合うかつきつける」と話したことは、

「Risk Informed Decision(リスク・インフォームド・ディシジョン)」

(リスクを説明した上での決断)

と呼ばれる。西浦氏いわく「今までの厚労省の被害想定や流行シナリオは、父権主義的なものでした。厚労省がなんでもいうことを聞く学者に、都合のいいものを作らせて出していた」。

押谷仁氏率いるクラスター対策班の人々は、この父権主義的なものとも戦いながら、新型コロナウイルスと戦っているのだろう。

■何もしなければ40万人死亡

▼西浦氏は、この「リスク・インフォームド・ディシジョン」を4月15日に実行した。2020年4月15日付の読売新聞夕刊から。

〈国内の重篤85万人推計/新型コロナ対策しなければ/試算の北大教授、「接触減」訴え〉

〈新型コロナウイルスの感染が拡大する中、厚生労働省のクラスター(感染集団)対策班の一員である西浦博・北海道大教授(理論疫学)は15日、外出自粛などの対策を全く取らなかった場合、重篤な患者が国内で約85万人に上り、このうち約半数の40万人程度が死亡する恐れがあるとの試算を明らかにした。

 西浦教授らは、1人の感染者が2・5人に感染させるという欧州並みの割合を想定して推計した。その結果、国内で人工呼吸器が必要になるなどの重篤な患者は15~64歳で約20万人、65歳以上は約65万人になることがわかった。

 試算は最悪の事態を想定したものだ。対策が取られている現状には当てはまらないが、新型ウイルスのリスクを広く知ってもらうために公表したとしている。

 政府は、緊急事態を1か月程度で終えるため、人と人との接触を「最低7割、極力8割減らす」ことを目標に掲げている。8割の根拠を示す試算もした西浦教授は、まだ達成できていないとみており、「今は積極的に接触を避けなければならない段階だ。通常出勤が続いているのは異常で、心配している」と話している。〉

▼この記事で太字にした「今は積極的に接触を避けなければならない段階だ。通常出勤が続いているのは異常で、心配している」という一言が重要だ。

当初、西浦氏が持っていた日本人に対する鉄壁の信頼は、崩れかけているのかもしれない。しかし、決してそうは言わない。彼は、こちらのコミュニケーション能力不足なのだ、という姿勢を崩さない。

▼次号以降は、

・「夜の街クラスター」

・押谷氏が「武器」として挙げた「想像力」「地域力」

などについてメモする。

(2020年4月16日)


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