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400万人が「渡辺棋聖」対「藤井聡太」の第3局を視聴した件

▼きのうは素晴らしい将棋を見ることができた。

将棋の棋聖戦第3局は渡辺明棋聖が藤井聡太七段に一矢報いた。第4局は、わずか1週間後の7月16日。きのうの第3局の印象が鮮明なうちに行われる。

最終戦までもつれこんでも、7月21日。今月中に決着がつく。

対局のペースが早い。否応なしに盛り上がる番勝負だ。産経新聞の人は喜んでいるだろう。産経新聞記事から。

【ヒューリック杯棋聖戦】第3局 渡辺棋聖が1勝返す〉(2020.7.9 19:17)

〈将棋の高校生棋士、藤井聡太七段(17)が渡辺明棋聖(36)=棋王・王将=に挑戦している将棋のタイトル戦「第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負」(産経新聞社主催)の第3局が9日午前9時から、東京都千代田区の都市センターホテルで指され、午後7時12分、142手で後手の渡辺棋聖が勝ち、対戦成績を1勝2敗とした。持ち時間は各4時間で、残り時間は渡辺棋聖13分、藤井七段1分。第4局は16日、大阪市福島区の関西将棋会館で行われる。

 第3局は先手の藤井七段が得意の角換わりを選択。両者とも指し手が速く、午前中は76手まで進んだ。午後に入り、渡辺棋聖が徐々に攻勢に転じて、シリーズ初勝利を挙げた。〉

▼第3局は一言でいうと、「渡辺棋聖の作戦勝ち」だった。どうも90手目くらいまで、研究どおりの展開だったようだ。

筆者は対局前、藤井聡太氏のほうが分がいいと思っていた。藤井氏が先手番だったからだ。プロの対局の場合、先手番のほうが少し勝率が高い。

しかも藤井氏は、「角換(かくが)わり腰掛(こしか)け銀」という、最も得意とする最強の戦法を選んだ。しかし、まさにその成り行きを、渡辺氏は緻密な研究で迎え撃った。

おそらく昨日の一局は、新しい定跡(じょうせき)に加えられるだろう。

▼4時間の持ち時間の使い方でも、藤井聡太氏は劣勢に立たされ、1分将棋に追い込まれた。

▼これで俄然(がぜん)、面白くなってきた。

▼対局の中身は、知りたい人はとっくに知っているし、知らない人は興味がないだろうから、措(お)いておく。

この棋聖戦第3局で生まれた興味深いニュースについて。毎日新聞の記事から。

棋聖戦生配信、視聴数400万突破 藤井聡太七段タイトル挑戦 AbemaTV〉(毎日新聞2020年7月9日 17時31分)

〈藤井聡太七段(17)が将棋の最年少タイトル獲得記録をかけて渡辺明棋聖(36)に挑戦している将棋の第91期棋聖戦5番勝負第3局が9日、インターネットテレビ局「Abema(アベマ)TV」の将棋チャンネルで生配信されている。午後5時40分現在で同チャンネルの視聴数が400万を超え、異例の人気ぶりを示している。

AbemaTVの視聴数はチャンネルへの生配信開始からのアクセス数の総計を示したもので、同日午後の民放のニュースで「最年少タイトルなるか」など藤井七段のニュースが放送されたこともあり、急上昇している。AbemaTVの生配信はパソコンやスマホなどでみることができる。〉

▼将棋の対局を、世界中の400万人もの人々が、リアルタイムで視聴できる時代がきたとは、ほんとうに便利になったものだ。筆者も大いに楽しんだ。

羽生善治氏の7冠独占の時との決定的な違いが、ここにある。ファンと棋士との距離、親近感が、まったく違うのである。

もちろん、インターネットの発達によって恩恵を受けているのは将棋の世界に限ったことではないし、他の分野では、この「メディアの激変」ゆえの悲惨な話も起きているのだが、将棋に関しては、今のところひどい話はあまり聞かない。

▼しかもインターネットによって、将棋の楽しみ方が「広がっている」だけでなく、「深まっている」といえる。

たとえば、将棋連盟の有料アプリだと、対局の途中で、「指し継ぎ」ができる。

どういうことかというと、たとえばある局面で、記者による解説文の中に、これからの攻防のいろいろな予想手が載っていた場合、その手順を、そのまま、スマホの将棋盤上であれこれ検討できるのである。初めてこの機能を知った時は感動したものだ。

筆者の場合、現実の将棋盤に駒を並べるのが一番よくて、実際に手を動かしてあれこれ考えないと脳に定着しないのだが、何しろ、アプリでの指し継ぎ機能は、便利なこと、このうえない。

具体的に、棋聖戦の第3局でいうと、109手目(8五同桂)の解説文に、10手近く先までの予想が書いてある。これを、その棋譜を読むだけでなく、「指し継ぎ」で実際に駒を動かして自由に検討できるわけだ。候補手から枝分かれさせて、あれこれ考えるのも楽しい。

▼それにしても、400万人もの人々が棋聖戦を見ていたとは、驚きだ。ネットの生中継と、将棋や囲碁の対局というものとは、相性がいい。

棋士たちも、ネット中継される対局にせよ、ネット中継の解説にせよ、誰も経験したことのないことを経験している最中だ。

▼生まれて間もないインターネットの世界は今、「長すぎる思春期」の最中だが、将棋の業界においては、幸せな思春期を過ごしているといえる。

その思春期の幸福感の象徴が、新型コロナウイルスの影響でマスク姿の藤井聡太氏であり、忍者のような布マスクが話題になった渡辺明氏である。

(2020年7月10日)

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