幻肢痛ファントムペイン

幻肢痛:ファントムペインとは? 決して幻でない痛みを知る。

■青木さんが行う当事者研究が、実に興味深い

骨肉腫と向き合い、人工関節よりも切断という選択肢を選んだ青木彬さん

2019年12月3日から、幻肢痛の当事者研究と称して自らの幻肢痛との付き合い方をnoteにて記録しています。幻肢痛のパターンや発生場所、知覚についてとても詳しく記録されています。

幻肢痛=ファントムペインについては知っていましたが、実際の体験談は非常に興味深いものです。あるはずのない痛み。でも確実に存在する痛みに当事者が向き合っていく姿を、素直に応援したいと思い、サポートさせていただきました。

今回の記事は、科学の世界で判明している幻肢痛の実際と選択される治療法などについてご紹介していきます。この記事によって、少しでも幻肢痛に興味を持ってもらうヒトが増え、さまざまな研究や治療法の構築に役立ち、当事者の方に対するすべてのサポートが増えることを望んでいます。


■幻肢痛=ファントムペインとは・・・??

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私は幸運にも、幻肢痛を経験することは今のところない。青木さんの記す当事者研究とは違い、主観的な経験をシェアすることはできない。したがって、あくまで学術論文から得た”知識”を提供するだけに留まってしまうことを先にお詫びさせていただきたい。

幻肢痛はファントムペイン(Phantom pain, Phantom limb pain)と呼ばれる痛みを示す医学用語である。ケガや病気により四肢を切断したにもかかわらず、存在しない手足に痛みを感じるため、”ファントム=幻”の痛みという名前が付けられている。


■患者に発生する痛みは確実に存在する。決して幻ではない。

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四肢を切断した60~80%の患者は幻肢痛を経験する。かなりの高確率である。1984年の調査(*1)によると、幻肢痛の発生は高確率であるのにも関わらず、治療を受けている人が17%しかいないことが示されている。当時は今よりも幻肢痛への理解がなく、有効な治療法も確保されていなかったため、治療が進んでいなかったのがその原因と考えられる。しかし、現代においても幻肢痛に確実に効く!といえる治療法が確立されているわけではない。


■幻肢痛による痛みの特徴

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アメリカには疾患のほか、戦争などの原因によって170万人の四肢喪失者が生活しており、毎年18.5万人ずつ増加している。(*2)

青木さんはサラッと書いているが、幻肢痛による痛みは軽いものではない。継続痛は長く続くため、精神的にも肉体的にもかなり強いストレスがかかるはず。本当によく頑張っていらっしゃると感服。少しでも早く改善することを願っている。

・継続痛は痛みを10で表したときに平均5.3の痛み
・瞬間的な痛みはもっと強い
・切断から8日後→ 6か月後 → 2年後の幻肢痛の発生率は
 それぞれ72% → 65% → 59%と低下していく傾向にある 
(*3)

この1985年に行われた調査が示す通り、幻肢痛は時がたつにつれて減少していくが、長期的に継続する場合も多い。長く継続する痛みは精神的な負担にもなることが容易に想像され、軽く見てはいけない。

痛みは天気や気圧、温度変化により増幅することが多い。排便や排尿、性的活動によっても悪化する可能性がある

さらに、戦争経験者においては戦争の記憶やトラウマが強い増悪要因となる。このように、幻肢痛の強さは不安やうつ状態などの精神活動に左右されることが報告されているが、その原因ははっきりとはわかっていない。


■幻肢痛に対して行われる治療

青木さんが自分で試されている方法が[無いものの存在]_03:幻肢痛の当事者研究にて記されている。

①:ノリツッコミ
②:痛みのある空間を手ですくって捨てる

この2つの方法を試されているようなのだが、ほとんど効果がないとのこと。とはいえ、心理学的な効果はバカにできるものではなく、うつ状態などを回避するための方法としては非常に有効である可能性がある

noteから読み取れる情報としては、神経障害性疼痛に使われるリリカ(プレガバリン)という薬を処方されている様子である。


■幻肢痛で行われる薬物療法

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この項に関しては、あくまで疼痛管理に熟達した医師が行う療法を信頼して治療を受けるべきなので、詳しく書くのはやめようと思う。

しかし、

・一般的に使われる痛み止め(NSAIDs)
・青木さんが使っているリリカなどの神経障害性疼痛治療薬
・モルヒネを始めとする麻薬性鎮痛薬
 (痛みに使う場合は薬物依存にならない)
・神経に作用するため抗うつ薬(三環系,SRI,SNRI)
・神経の過剰な興奮を抑える抗けいれん薬

などが使われることが一般的となっている。どれかが確実に効くわけではなく、副作用の出かたも異なる。症状に合わせて種類や量を調節するため根気のいる治療であることを知ってほしい。

もし、治療を受ける方がこの記事を読んでくれているなら、医師を信頼し治療を受けることこそが最も強力な治療法であることを信じてほしい。幻肢痛はメンタルの影響を受けやすい痛みであるということを忘れずに。


■幻肢痛で行われる経皮的電気神経刺激
(Transcutaneou Electrical Nerve Stimulation:TENS)

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肌に電極を付けて1秒間に10~100回(1-100Hz)で刺激する方法。

痛みを感じる末梢神経の繊維を電気で刺激することで飽和させ、痛みの感知レベルを高くすることで現在起こっている痛みを軽減する方法。

効果を大規模に測定した研究は存在しないものの、小規模試験においては幻肢痛を軽減する効果が示されているため、治療に用いる医師も多く存在する。


■幻肢痛で試されるミラーセラピー

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https://rehabili-shigoto.com/magazine/archives/4918 より引用

ミラーセラピーとは、

・鏡で仕切りを作る
・鏡に手や足をうつす
・手足がうつった鏡を見ながら手を動かす

これを行うことで脳がなくなった手足の存在を再認識し、痛みの誤った認知が正され、痛みが改善するという方法。幻肢痛に限らず、脳梗塞後のリハビリなど麻痺状態の改善にも使われることがある。

*足でやるのは非常に困難なのが申し訳ない・・・

手を見るだけでも効果があるが、通常はゆっくりと指を動かしたり、グーパー運動を続けるよう指導されることが多い。ミラーセラピーは1日1回~1週間に2回程度実施されることが多く、1回のセラピーは15分~30分で終了する。

幻肢痛に対するミラーセラピーの効果は、2016年に行われた過去20件の研究をまとめたシステマティックレビュー(*4に詳しい。

このレビューからは、まだまだ研究が盛んとはいえない幻肢痛のため、大規模研究は存在しないことが分かる。しかし、小規模研究においてはミラーセラピーにより優位に痛みが改善する効果が示されている。今後のさらなる研究が期待される。

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VR技術やAR技術によりミラーセラピーの効果を強化するような治療法も考案されており、今後はさらに有効性が高い治療法が開発される可能性がある。(*5)


■その他の方法

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作業療法士や理学療法士と連携して、マッサージや温熱療法、超音波療法を試す場合もある。これらは一定の効果を示すため、医師の指示のもと積極的に利用することが推奨されている。

しかし、初期の結論に戻ってしまうものの、幻覚痛を確実に改善するスーパー治療法は存在しない。薬物療法+非薬物療法を使い痛みを軽減することで時間を稼ぐことが非常に重要と考えられる。時間がたつほどに幻覚痛の程度は弱まっていくことが示されている為である。

さらに、継続的な痛みは心理的なストレスとなってしまうことが容易に想像できる。実際、幻覚痛を持つ患者は低くない割合でうつ状態を発症してしまう。友人や家族などとの人間関係、社会とのつながりを断ってしまわないよう、社会的なフォローが必要なことは言うまでもない。



おしまい

このnoteは、世界中の論文を読み漁ることが趣味の私が、普段の生活や健康、美容などについて、根拠に基づいた意思決定をするための知識を提供していくnoteです。

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引用

1.Sherman, Richard A., Crystal J. Sherman, and Laura Parker. "Chronic phantom and stump pain among American veterans: results of a survey." Pain 18.1 (1984): 83-95.

2.Dillingham, Timothy R., Liliana E. Pezzin, and Ellen J. MacKenzie. "Limb amputation and limb deficiency: epidemiology and recent trends in the United States." Southern medical journal 95.8 (2002): 875-884.

3.Jensen, Troels S., et al. "Immediate and long-term phantom limb pain in amputees: incidence, clinical characteristics and relationship to pre-amputation limb pain." Pain 21.3 (1985): 267-278.

4.Barbin, Jessie, et al. "The effects of mirror therapy on pain and motor control of phantom limb in amputees: a systematic review." Annals of physical and rehabilitation medicine 59.4 (2016): 270-275.

5.Dunn, Justin, et al. "Virtual and augmented reality in the treatment of phantom limb pain: a literature review." NeuroRehabilitation 40.4 (2017): 595-601.

6.Black, Lance M., Robert K. Persons, and Barbara Jamieson. "What is the best way to manage phantom limb pain?." Clinical Inquiries, 2009 (MU) (2009).

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