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「映像屋がフォトスタジオを立ち上げるということ 1/3」

2021年1月末、僕は1人武蔵野の面影を残す近所の森の中でそっと椅子に座っていた。これまでの1年余りの間に自分の会社で起こったことをずっと考えていたのだ。まさに「激動」と呼ぶにふさわしい会社のターニングポイントだった。ふとスマホのニュースに目をやると、国会で第三次補正予算案が通過したと報じていた。どうやらその予算の目玉は中小企業向けの大規模な補助金制度だという。1.1兆という巨額の救済事業「事業再構築補助金」の導入が決まったのだ。制度に対する断片的な情報しか集まらない状況だったが、直感的にこれはチャンスかもしれないと思った。

僕らがいるウェディング業界はもろにコロナ禍の影響を受け、この1年ほぼ壊滅的な状態に陥っていた。会社の売上は70%以上減少し、それに伴い今まで表面化してこなかった数々の問題点が炙り出され、チームの在り方を再定義しなくてはいけないような事態にまで追い込まれていたと思う。先の見えないこの状況を打破するには未知の市場に参入し、新しい業態で少しつづノウハウと経験を積んで収益の多角化を進め、ウェディング業界一辺倒から脱却していくというロードマップを描くことができなければ、この会社の未来はないと感じていたのだ。

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そういうわけで毎日のように森へ出かけ、椅子に座ってはひたすら考え続ける日々を送った。会社に対するありとあらゆることをだ。何故なら、生き残るためには無い知恵を絞らなければならないと直感で理解しているから。思いつくことを片っ端からノートに書き綴り、考えを整理し、ネットでエビデンスを収集しては検証していくという作業を毎日ひたすら繰り返した。

プライオリティとすべきは最小限の投資で最大限の効果を生み出す方法を探し出すこと。今自分が持っている資産、キャッシュ、会社の口座の残高、法律や条例、市場規模や業界の特徴、既存の技術とノウハウ、人材と将来の予測。持てるすべてを結集して、これからいったい何ができるのだろうか。そんなことを森の中でひたすらに考えまくる日々を過ごした。

そうだ、フォトスタジオやろう

どうしてフォトスタジオをやろうと思ったかについてはまた別の機会に譲るとして、同じイメージング産業ではあるが僕らにとってはまったく未知の世界である写真館業界に進出することにした。それも地方で。東京を拠点に活動してきた僕らにとってはまさに外国に進出するのと大差はない。まあ、明治以前は本当に別の国(自治区に近いのか)だったわけだから、東京でのやり方がそのまま地方でも通用するとは思っていない。フォトスタジオを運営するノウハウも実績もなく、現地での人脈も信用もない。共通しているのは機材(カメラ)が同じなだけ。まさにゼロからのスタートなのだが、一つだけルールを作った。もし現地在住のグッとくる写真を撮るフォトグラファーを見つけ出して仲間にすることができなければ、この話はなしにしようと思っていた。

案ずるより産むがやすし。現地の魅力的な人材はすぐに見つかり、最小単位のチームを作ることが出来た。これでこの計画は実現に向けて大きく舵を切ることになる。以降は本格的なリサーチを行って事業計画書を書きながら構想を練り上げていくという作業に入る。そして相変わらず毎日のように椅子を持っては森に出かけ、誰もいない緑の静寂の中で一人思考を巡らせまくったのだ。

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自分の仕事は「考え続ける事」

結局それ以上でもそれ以下でもないと思った。傍から見たら、森の中で小さい椅子に座ってぼーっとしているように見えただろう。しかし、余計な雑音から遮断された森の奥深くに身を置くと、恐ろしいくらい頭がシャープになり、考えることに集中できた。思考を整理し、ノートに書き出して言語化し、欲しい情報をスマホで検索し、インフォメーションをインテリジェンスに変換していく作業を延々と繰り返す。

そして気が付いたのだ。資金繰りに奔走したり、営業に行ったり、企画立案したり、先陣を切って現場で案件の施工にあたったり。どれも大事な仕事ではあるのだけど、本当にやらなければいけない経営者の仕事は「考える事」、いや、「考え続ける事」だと確信した。手や足を動かすのも大事なんだけど、頭で考える事がとにかく大切。体は動いてないんだけど、頭の内部で動き回ってる。体を動かし続けるのは辛いけど、考え続けるのも相当つらい。でも考えるのをやめるときは、会社を辞める時以外ない。

ということで、家でもオフィスでもコワーキングスペースでもなく、森の中が僕の仕事場になった。1冊のノートとスマホとスープの入ったスノーピークのペットボトル、そしてお気に入りのヘリノックスのチェアゼロを持って毎日森の中へ「考えに行く」という1.5拠点生活が始まったのだ。


新しく立ち上げるフォトスタジオのインスタグラムです。

https://www.instagram.com/ounce.and.then/

僕たちのYouTubeチャンネルです。興味のある方は是非ご覧ください。


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