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「黒影紳士」season2-8幕〜その叫んだ世界に君がいる〜 🎩第四章 心の世界に君がいる

――第四章 心の世界に君がいる――

「黒影……黒影……」
 サダノブの耳に何かが聞こえて来た。
 誰の心も読んでいないのに。未だ黒影は中間地点当たりにいる。周りには誰も居ない筈なのに。
 懐中時計をもう一度見ると、
「黒影……」
 と、また声がした。時夢来だっ!時夢来の魂が話しているんだ!サダノブはやっと其の事に気付いた。そうだ時夢来は、過去予知夢を見て過去にも少し干渉出来たと言う、黒影の友人が黒影の為に作った物だ。
「黒影にゲームをさせるな……」
 時夢来の意識がそう言ったのがサダノブにも分かった。
 ……人じゃなくても、俺は今心じゃない何かを読んでいるのか?サダノブは此れを洞察力と観察力で考えろと黒影は言いたかったのではないかと思った。
 確かに、先輩の夢に干渉出来たり、心を読むだけだと思っていた此の使い道の無い体質が、最近何だか自分でも分からない。……心じゃない何かに干渉しているのかも知れない。此の時夢来の様に。

 ……分からない時は下を見ろ……

 ん?下だって?……何で先輩はそんな事を……。
 サダノブは下を必死に探した。何か、何かある筈何だ。先輩を助ける為の何か。……何で黒影先輩は其れを何だか言ってくれないんだ。何で教えてくれないんだ!何時もなら……
 えっ……?此れは……影?サダノブが地面に映った自分の影が黒影の影になっている事に気付いた。
 ……何だ此れは……幻でも見ているのか?此れが先輩の言う古い友人……自分の影だったのか。
 全てを火事で焼き尽くされ失った黒影先輩は、何で其れでも強く生きていられるのか……やっぱり全然俺とは違うと思っていた。
 ……そうだ、事件の間にも時々自分の影で遊んでいた。……其れしか無かったんだ。
 でも、其の影が今……俺の足元にある。不思議な気分だ。……挨拶した方が良いのかな?と、良く分からない事を考えたりもする。見ているうちに影が徐々に形を変えていく。
「白雪……さん……?」
 何か聞こえる。
 ……解決してくれるなら。私の恐怖も被害者の恐怖も、少しだけ報われるのよ……
また影が黒影の影に戻る。
 ……じゃあ、存分に後悔させてやらないと僕の気も収まらない。必ず……今度は逃したりはしない。

 ……二人の会話だろうか。
 何方にしても黒影先輩には迷いなんかとっくに無かったって事だ。
 確実にダミーを捕まえに来ている。

 今……僕は何を読んだんだ?先輩は心を読むと思っているのは勘違いと言っていた。記憶……過去……会話……心……夢……まさかっ!
 先輩が俺に教えなかった理由がやっと分かった!
 教えるんじゃ無い、気付かせたかったんだ。とっくに俺の本当の能力に気付いて……っ!

 サダノブは全てに気付いて時夢来の懐中時計に言った。
「大丈夫、先輩は俺が守る!否、先輩は其れを待っていたんだ。有難う!」
 そう言って黒影の姿を急いで探す。
 ゆっくりだが、かなり近く迄来ていた。
 先に担ぎ上げられた、未だ生きている人物をサダノブはプールサイドに上げて横にさせると、黒影に手を伸ばしこう言った。
「……先輩!俺、やっと気付きました!遅くてすみません!」
 と。黒影は手を掴んで言った。
「お陰で苦手な肉体労働が増えた。早く片付けろ」
 そう言ったのに安堵の表情を浮かべている。
 黒影は足が痺れているのか、膝に手をつき、ゆっくり立ち上がるとダミーを凄まじい殺気で睨んだ。瞳の奥に赤い揺らぎを閉じ込めて。
 小さい声で、
「風柳さん、救急車を一台待機。気付かれない様に。白雪を連れて、風柳さんも此方の屋内プール前にて待機願います」
 と、黒影は指示を出した。
「もう疲れたのか?折角正解したんだ。さぁ、さっさと次を選べよ」
 と、ダミーは笑い乍ら言った。
「……黒影先輩は此のゲームをもうしない」
 答えたのはサダノブの方だった。
「何だよお前!ゲーム不参加の弱犬の癖に今更口を出すなっ!」
 ダミーは邪魔されて不機嫌そうに言う。
「ああ、そうか。紹介が未だだったね。うちの事務員だよ。ただ、弱犬に見えて本当はケルベロス級に暴れ犬なものでね……本当に躾が大変なんだよ」
 と、黒影は笑ってダミーに紹介した。ダミーが其の言葉に再びサダノブを見た時、別人の様な殺気を放った目をギラつかす何かが狙っていた。其の目を見るだけで、見透かされている様で凍り付きそうな感覚に陥る。
「たかが、事務員だと?巫山戯るなっ!」
 ダミーは冷や汗を掻いている。まるで死神に狙われている様な感じがするからだ。
「サダノブ……喰い尽くすんなら全員分、ダミーにそっくり返してやれ」
 と、黒影は不思議な指示を出したが、サダノブには理解出来た。
「さっき、ダミー……お前は此のコレクション達を出す時にカウントしたな……56.57.58.59……そうだ、59人目だ。俺は全部読んだ。そして、先輩が最後の一人を運ぶ帰りに電圧を上げようとも考えた。……だから此のゲームは無効だ。華々しく60人目にボロボロになった先輩を迎える手筈だったんだよな?」
 と、サダノブはダミーに言った。
「だったら何だ。此れはゲームだ。駆け引きだっ!お前が出しゃばったところで、他の遺体はどうする?!無視して逃げられるのか?黒影……あんたならそんな事、出来ないよなぁ。さぁ、此方に来いよ、其れで今のは無かった事にしてやる。ゲームの続き……しようじゃないか」
 黒影は少し動揺している。
「行っちゃ駄目です!時夢来が悲しむ、白雪さんが悲しむ!だから俺は先輩を意地でも此のゲームに参加させないっ!」
 サダノブの其の言葉に黒影は動揺を止めた。
「おいっ!……ダミー!お前に言いたいのはなあ、そー言う事じゃ無いんだよ。お前が殺した人間をカウントしたって事なんだよ。それになぁ!俺の先輩に勝手に馴れ馴れしく話し掛けてんじゃねぇよ!」
 と、ブチ切れる。
 ……サダノブ、其れはヤンキーが言う台詞だ……と思い乍ら黒影もケルベロスは放っておいた方が良いと熟知していたので、黙って其の儘聞いている。
「僕が殺した奴をカウントしたからって何なんだ。しかも、何で其れを知っている?」
 ダミーが聞いた。
「お前にとっては殺した数でしかないのかも知れない。だが、殺された方はちゃんと名前があってお前を其々憎んでる。そんな事も分からねぇのか!」
 と、サダノブが言うのだが、ダミーは大笑いし乍ら言う。
「人形だろうと遺体だろうと、僕のシナリオの芸術にされるだけ感謝してるよ。普通に老いて死ぬより、よっぽどドラマチックな最後を遂げるのだから」
 と。
「本当にそんな事、思ってんのか?」
 サダノブの瞳のギラ付きが増す。其の瞬間を待っていたかの様に黒影が、
「サダノブ!僕の影を踏めっ!」
 そう言った。サダノブがギラ付く目で黒影の影を見ると、真っ赤な炎が燃え盛っている。
「此れは、白雪と僕の分だ」
 其れを聞いて頷くと、サダノブはダミーに言った。
「心って何処にあるか知ってるか?……脳だよ……全部くれてやる!59人と先輩と白雪さんの恨みに後悔するんだな――っ!」
 サダノブがそう言うと、ダミーの足元を黒影の影がまるで生きた蛇の様な素早い速度で伸び捕らえた。ダミーの目の前に黒影の影から更に伸びた白雪の影が現れ頭に触れる。
「懺悔の時間よ」
 白雪の影はそう言うと、黒影の影にスーッと戻って行く。黒影の影も其れを確認すると、黒影の足元に戻った。

 次の瞬間、ダミーは頭を抱えて転がり、悲鳴と呻めきを上げて苦しみ出す。自分で仕掛けたプールの電流の通った水を必死で渡り、黒影の足を掴もうとする。
「助けてくれ!……助けてくれ!……もう、謝る、殺しもしない!此の頭の中の殺した奴らの声を止めてくれっ!」
 と、命乞いの様な事を言い出す。
 黒影は一歩下がり、じっとダミーを見ていた。
「……止めろ……僕はお前を救えない」
 其れを見てサダノブはまたダミーにブチ切れている。
「俺の先輩に許可なく汚い手で触んじゃねぇーよ!馴れ馴れしいって言っただろうがっ!」
 と、蹴り飛ばす。
「……サダノブ、だから其の言葉使いは……」
 と、黒影がおどおどし乍らサダノブを止めようとした時だった。
「ヒィーーーッ!」
 と、断末魔の様な擦れた叫び声を上げたかと思うと、ダミーは自分の首を自分で締め始める。
「何をやっているんだ、ダミー!」
 黒影は慌ててダミーの首から、ダミーの手を剥がそうとする。
「サダノブ!何とかならないのか?!」
 と、黒影は言ったがサダノブは目も合さず、
「脳は、体に指令を出すんです。其れは俺じゃない。殺された誰かがそう望んでしている。だから止められないです」
 と、言った。黒影は其の言葉に想定していた以上になってしまったと、慌てて、
「風柳さん、至急応援!ダミーが自殺を図っています。此の儘では生捕りが出来なくなる!」
 風柳に中に入るように言った。風柳は黒影とダミーを見て、盗聴器を使っていたので直ぐに状況を把握し、ダミーにタオルを咥えさせ、手に手錠を掛けた。
「此れ……何時、終わるんだ?」
 と、未だ足をばたつかせて暴れ苦しむダミーを見て、黒影はサダノブに聞いた。
「さぁ……許しを得る迄でしょうね」
 と、サダノブもダミーを見て静かに答えた。

「……此れで良かった……のか?」
 黒影が言った。
「そう言って、またあの花の綺麗な丘に埋葬しますか?」
 サダノブは聞いた。
「……知っていたのか……」
 黒影はサダノブに微笑んでそう言う。
「誤魔化さないで下さいよ。そうやって悲しいのに笑って。此奴でも、あんな綺麗な場所に入る権利、あるんですかね?」
 サダノブの言葉に黒影は少し考える。
「……分からないが、在っても良いんじゃないか。サダノブが、今日自分が人の心を読むんじゃなくて、本当は人の脳に干渉すると気付いた事が、辛いと思わないでいられる様に。……悪かったな。知らない方が幸せだったかも知れない」
 と、黒影はあの丘を思い浮かべて言った。
「何で気付いたんですか?やっぱり夢、ですかね?」
 と、サダノブが聞く。
「ああ。サダノブが夢に干渉出来るようになった時、嬉しさもあったが同時に恐ろしいとも思った。予知夢を見ている時、お前は凍らせる事が出来ても、僕は何の手段も持っていない。もし、此処で殺されたらと一瞬でも思ってしまった。……でも、サダノブは自分で弱点を言ったのだよ。入って来たあの扉からはサダノブの夢だと言った。だから、ああ……あの扉の先に逃げれば良いんだって。其処はサダノブの脳だろうね」
 と、黒影は答える。
「なんか、入る気満々じゃないですかっ!プライベートですよ、プライベートっ!」
 と、サダノブはあたふたして言った。
「そうだったな。如何せ穂さんの事ばっかり考えているだろうから、僕には全く興味無いから安心しろ」
 と、黒影は楽しそうに笑った。
 ――――――

 その後ダミーは無事送検されたが、今もまともに話せる状態じゃない様だ。其れでも沢山の証拠と過去の罪の重さ、罪の多さから極刑を言い渡される。ダミーがもし死刑執行前に話せるようになったら何と言うだろうか。

 ――――――――
「先輩ー!俺も運びますよー!」
 サダノブが丘の上から走って来る。
「此処迄ズカズカ入って来るなっ!僕にだってプライバシーはあるんだぞ」
 と、黒影は棺桶を担ぎながら丘を歩く。
「其れはだって……」
 サダノブが言葉を詰まらせる。
「ダミーのだからか?」
 黒影は言った。
 サダノブは頷く。
「……だったら余計に止めておけ。後悔するな。もっと沢山の死を産んだんだ。此処では死も罪も悲しみも真実も平等だ。連鎖を産まない為に弔う場所だ。ただの墓参りとは違う。サダノブがもし後悔し乍ら、此れを埋蔵しても、憎みながら埋葬しても、此処に弔う意味がなくなる。そう言うものが忘れられなくても、復讐に繋がったりしない様に願うだけの場所だ」
 と、黒影は断る。
「じゃあ……せめて、少し……此処の景色、拝んでいても良いですか?」
 と、サダノブが言うので黒影は、
「勝手にしろ」
 と、言うだけだった。
 サダノブは丘の高めの所で座り、穏やかな景色を見ていた。
 軈て黒影は埋葬を終え、戻る前にサダノブの所に寄った。
「終わったぞ」
 と、声を掛けに来たようだ。
「白雪さんに、此処の話……聞きました。存在してるんですね、こんな天国みたいな場所」
「今は如何なっているか分からんぞ。美しいのは記憶の中だけかもな」
 と、黒影は言う。
「俺の親父と母ちゃんの事件も、此処に眠っているんですか?」
「ああ」
「さっき墓参りじゃないって言われたけど、此処にいると落ち着くんですよね。だから、墓参りがてらに偶に来ても良いですかね」
 と、サダノブは言った。
「……其れで落ち着く気持ちがあるのならな」
 と、黒影は答える。
「こんな所で、憎んだり……悲しんだり……出来ませんよ」
 そう言ってサダノブは丘を降りて行った。
 黒影は「真実」の墓に今日も祈る。
 如何かあの闇を照らし賜えと。

 ――――――――――――――

「キャー!サダノブさん、可愛いー!」
 白雪に薄水色と白の猫(犬?)ヘッドホンを付けられたサダノブを見て、穂が萌え萌えで抱き付いていた。
「ほら、やっぱり喜んでくれると思ったのよ」
 と、白雪は満足気である。
「態々穂さんまで呼んだのかい、白雪」
 そう言い乍ら黒影まで腹を抱えて笑っている。
「お手っ!」
 穂が急に言ったので、サダノブは不覚にもお手をしてしまう。
「キャー、お手してくれたー!」
 穂は燥いで喜ぶ。
「せんぱぁーい!俺の泣け無しのプライドが、今豆腐の様に崩れた音がしたんですけどぉー。何とかして下さいよぉー!」
 と、サダノブは黒影に泣き付くが、
「元からそんな物あったのか、ポチ」
 と、言うなり未だ大爆笑している。
「ほらほら、今日は折角のデートでしょ。仲良く行ってらっしゃーい!」
 と、白雪は二人を玄関まで押して見送る。
「聞いてよ、黒影!サダノブあのまんまデート行ったわよっ」
 と、白雪は笑い乍ら玄関から戻って来た。
「あの二人らしいな」
 そう言って黒影は微笑む。
「……で?」
 と、白雪は黒影の顔を覗き込んだ。
「……で?」
 パソコンを開き乍ら、黒影は何かと聞き返す。
「もうっ!私達のデートは何時なのー!」
 と、白雪は黒影の背中に獅み付いて言った。
「……うーむ、仕事が落ち着いたらだなっ」
 と、黒影は答えた。
「何時も仕事ばっかりー!」
 と、白雪はぽこぽこ軽く黒影の頭を叩いていじけているのだが、
「こらこら……」
 と、言う黒影のパソコンに映る顔は、今日も笑顔であった。

 ――season 2-8幕のみ取り敢えず完――
勿論、黒影紳士は未だ未だ続くのである

⚠️お願いと注意⚠️
この幕付近に読者様が通られた後、著者へ攻撃的になる、不思議な心理状態になる事が数件起きています。
読むペースにもよりますが、少しでも寝不足や疲労感を感じる際は休憩をしっかりとって、お読み下さい。また、不快等感じましたら、直ちに読書を止め、休むか必要があれば病院へ受診して下さい。
著者はサダノブ、ダミー戦が精神的疲労に、他の幕より立て続けだからではないかと考えております。
✨【喫茶店☕︎純喫茶黒影☕️にて】✨

↓和める音楽とInstagram版純喫茶黒影↓



🔸次の↓season2-9 第一章へ↓

お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。