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それでもボクはサボってない

水曜日、15時37分。仕事を早退した僕は、海の上にいる。上司や後輩が働いている中、船に乗って島に向かっている。

人はこれを「サボり」と呼ぶかもしれない。

しかし待って欲しい。果たして本当に僕は会社をサボっているのか。

結論を下す前に、まずは言い分を聞いて欲しい。

遡ること5日前。

僕は再び、四国のおばあちゃんの家に来た。

ちょっとした事情で、当分の間は毎月の後半をこっちで過ごすことになった。図らずも、めちゃくちゃリモートワークの旨みを得ている感じになっている。無欲の勝利とはこのことだろう。

ここに来るまでの道のりは長かった。ジェットスターの往復チケットをオンラインで購入し、ポケットWi-Fiをオンラインで契約し、リモートワーク三種の神器(机椅子モニター)をオンラインで比較検討した上で、オンラインで購入する。実に大忙しの日々だった。

側から見れば寝っ転がってスマホをいじっているだけに見えただろう。人を見かけで判断してはいけない。

諸々手筈を整え、いざ出発。成田空港からの一時間半はあっという間だった。

ひと月ぶりに四国の地を踏みしめると、不思議と自然に込み上げてくる感情があった。


「社用パソコンの充電コード、持って来てないかもしれない」


嫌な予感というのは大抵当たるもので、案の定、充電コードは無かった。

HDMIケーブルは持ってきたのに、充電コードは持ってきていない。「頭隠して尻隠さず」ならぬ「HDMIケーブル持ってきて充電コード持ってこず」の状態だ。

君はなんでさ、このタイミングで気づくわけ?家出る直前にさ、最後に忘れ物ないかなって俺確認したよね?なんであの時に言わなかったの?充電コードがないってさ、そんなこと今さら言われて困るのはこっちなんだよ?そんなんでさ、どうやってこっちで電気を得るつもりだったの?

まあまあ。人間なんだからさ、誰にだってミスはあるじゃない。別にこの子もわざとやったわけじゃないんだし。充電コードを忘れたくて忘れる人なんて居ないよ。

そうは言うけどね、あなたこれで何回目なの?先月も飛行機のチケット間違えて買って、お金損してるんですよあなた。

まあまあ。あれはサイトの表示もちょっと分かりにくかったからしょうがないってことになったじゃないですか。

ポケットWi-Fi契約する時だってさ、一回間違えて変なプロバイダから注文したせいでまたあなたはお金損してるんですよ。

まあまあ。

それでさっき来る時も飛行機の手荷物オプション付けようとして、間違えて復路のオプション購入してるんですよあなた。

…。

もうちょっと注意しようよって俺何回も言ったよね?いくらなんでも確認がずさん過ぎませんかあなた。

…この子はもう、そういう人間なんだね。




ということで、要するに、社用パソコンの充電コードを忘れた。

それでもまだ希望は捨てていない。現代の便利システム、宅急便がある。

少し前までは飛脚と呼ばれるムキムキの男たちがダッシュで行ったり来たりするシステムだったらしいが、今はもう違う。

大型トラック運転手と呼ばれるムキムキの男たち(ムキムキの男じゃない人もいる)がすぐさま運んでくれる。

よかった。これで解決だ!

とはならなかった。翌日から台風が来た。四国の配送サービスがストップしたまま、3連休が終わった。

迎える火曜日、消費電力をチマチマ節約しながら働くチャレンジが始まった。ディスプレイの明るさは抑えて、起動するソフトウェアは最小限に。パソコンがビックリするといけないから、できるだけキーボードも優しくタッチする。

そんな努力の甲斐も虚しく、その日の夕方を待たずして電源はダウン。発送済みの充電コードはまだ届かない。

明くる水曜日、社用スマホで行けるとこまで行ってみたが、さすがに限界だった。どうしようもなくなったので、13時らへんで大人しく早退させていただくことにした。

早退の打刻を行った次の瞬間、家のチャイムが鳴り響く。充電コードが届いた。俺のシフト、確認してる?

そこからやっぱり働き直すこともできたのだが、すっかり早退の身体になっていた僕はそのままの勢いで早退し、勢いで港へと向かい、勢いで船のチケットを購入し、慣性の法則で今に至っているというわけだ。

人はこれを「サボり」と呼ぶのだろう。

確かに平日の日中から手ぶらで船に乗っている姿は、サボりを行っている人間のそれだ。

しかしこの男は実のところ、充電コードを忘れたが故に早退を余儀なくされただけなのだ。

会社の売上に繋がらない時間を最小限に抑えるために、仕方なく自らの有給を消化している。自己犠牲の精神に溢れた、漢の中の漢だ。

人を見かけで判断してはいけない。

僕は決してサボってはいない。

16時47分、そうこうしている内に島へと到着した。














イィィヤッッフゥゥゥゥゥ!!!!!!























最後まで読んでいただきありがとうございました!

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