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香港少女支援の10年(ハッシュタグだけじゃ始まらない)

3月18日刊行予定『ハッシュタグだけじゃ始まらない――東アジアのフェミニズム・ムーブメント』(編著:熱田敬子/金美珍/梁・永山聡子/張瑋容/曹曉彤)は、中国・韓国・台湾・香港の4地域で沸き起こっている現在進行形のフェミニズム運動を紹介する書籍です。ここではその一部を、数回に分けて先行公開していきます。

香港少女支援の10年

林寶儀(ボウイ・ラム/香港)

ティーンズ・キー(Teen's Key/青躍)の事務所は、香港で有名な非公認の風俗街・油麻地(ヤウマーティ)の砵蘭街(ポートランド・ストリート)にあります。

この通りを通って出勤するたび、一楼一鳳(*)やナイトクラブと、お寺、銀行、大型ショッピングセンターが混在していることに、あらためて驚きを感じます。プライベートモデルをしていた15歳の少女が殺され、捨てられていたのも、この街のゴミ捨て場でした。

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By UCLARodent at English Wikipedia, CC BY-SA 2.5

私たちは2011年から、この街でティーンズ・キーの活動を始めました。社会の周縁に追いやられた若い女性、セックスワーカー、予期せぬ妊娠をした人や、若い母親たち、さらに他の様々な理由で性と成長の健康と権利を脅かされている少女たちの支援をしています。

オンライン/オフライン双方で活動を展開し、ニーズを抱えた少女たちに積極的にコンタクトしています。エイズや性病の検査を提供し、危険にさらされている場合は警察への通報を助け、様々な技能訓練を提供して、彼女たちが十分な社会資源と、自らの可能性を手に入れられるよう支援しています。

この10年で私たちが支援したケースは1万件を超えました。そして私自身、非営利団体として、ジェンダー平等を推進し、エンパワメント支援をおこなう役割について、常に考えさせられてきました。

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近年、香港の社会のメインストリームは、多様性と社会的包摂をより重視するようになってきています。ことに、グローバルな♯MeToo運動とブラック・ライブズ・マター運動は、ジェンダー平等とエンパワメントという課題を、世間に再度意識させました。

少なからぬ寄付者、支援者たちが、模範的「成功」事例を市民に示すことを望んでいます。たとえば、私たちの支援を得てセックスワークをやめ、新たな人生を歩んだ少女の例や、母親学級に参加した若い母親が良い母親になったケースなどです。

しかし、セックスワークを続けている少女たちは、エンパワメントされていないのでしょうか? より良い母親になることが、若い母親たちの唯一の目標なのでしょうか? 「成功」事例を示すことは、社会のこうした若い女性たちへのラベリングを強めてしまうのでは?

私たちはこうした議論をくりかえしてきました。今でも、はっきりした答えは出ていません。しかし、私たちは一つ一つの具体的なケースの中で、常に警戒心をもって、反省と議論と試行をくりかえさなければならないし、少女たちの視点を仕事の中に取り入れなければならないのは、絶対に確かなことです。

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セックスワークをしている少女たちの経済自立プログラムをおこなった際、海外と香港の類似プログラムを参考に、貯蓄の習慣を身につけてもらうべく多大な時間をかけました。しかし結果は理想とはほど遠いものでした。

そのとき、ある少女が教えてくれたのです。「セックスワークに決まった収入はなくて、安定性なんてぜんぜんない。私たちは明日がない生活を送っているの」

彼女たちは貯蓄について知らないのではありません。彼女たちはとても聡明で、管理・運用の知識もすぐに理解できます。欠けていたのは、信頼と安全の感じられる環境、計画と実践の橋渡しをする支援だったのです。

少女たちと何度も対話をくりかえし、私たちはプロジェクトの方向性を定めていきました。同時に、「少女の参加」が重要だという思いは確信に変わりました。

この10年の活動の中で、私たちはインターセクショナルなフェミニズムについて考えさせられてきました。フェミニズムを語るなら、人種・民族、階級、社会正義、性指向等を無視することはできません。同様に、中産階級の女性たちがフェミニズムを語るとき、注目するのは女性のキャリアにおける抑圧でしょうけれど、セックスワーカーにとって重要なのは階級の不平等なのです。

今後も、私たちの活動は様々なチャレンジを続けていきます。しかし、周縁化された少女たちの声に注目し、耳を傾け、彼女たちと共に歩む方針は、いつも変わりません。

(訳:熱田敬子)

* 一楼一鳳(ヤッロウヤッフォン):香港で見られる、マンションなどの1室に1人のワーカーがいる形態のセックス・サービス。香港では2人以上のセックスワーカーが同じ場所で営業することが、管理売春として禁じられているため、この形態が多くなった。「鳳姐(フォンゼー)」と呼ばれるセックスワーカーには、大陸からの新移民の女性が多いとされる。

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林寶儀(ボウイ・ラム)
性産業で働く女性を含めた、危機的な状況にある若い女性たちのセクシュアル・リプロダクティブヘルスに取り組む支援団体ティーンズ・キー(Teen’s Key、青躍)の創設者。

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編者 左から:
 熱田敬子(あつた・けいこ)
 金美珍(キム・ミジン)
 梁・永山聡子(ヤン・ながやま・さとこ・チョンジャ)
 張瑋容(ちょう・いよう)
 曹曉彤(チョウ・ヒュートン、ジェシカ )

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