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ハッシュタグだけじゃ始まらない――東アジアのフェミニズム・ムーブメント:まえがき(1)

3月18日刊行予定『ハッシュタグだけじゃ始まらない――東アジアのフェミニズム・ムーブメント』(編著:熱田敬子/金美珍/梁・永山聡子/張瑋容/曹曉彤)は、中国・韓国・台湾・香港の4地域で沸き起こっている現在進行形のフェミニズム運動を紹介する書籍です。ここではその一部を、数回に分けて先行公開していきます。

まえがき――ハッシュタグだけじゃ始まらない

熱田敬子

フェミニズムとは、闘いであり、社会の変革を求める運動だ。社会変革というものは、すぐには起きないし、簡単に賛同は得られない。長い、曲がりくねった道を歩きつづけなければならない。それでも、性差別的な社会で生きられないなら、フェミニズムするしかない。抵抗は自分の生き方と、生きる場所を創るから。

フェミニズムが、いま日本で「ブーム」になっているという。しかし、つい10年ほど前まで、日本ではフェミニズムへの激しい攻撃、ジェンダー・バックラッシュが起きていた。その日本社会の構造は、現在でもさほど変わってはいない。大事なのは、社会の大勢がどうであろうと、地道に運動を続けること。そのためには、「わきまえているほうが楽」と真綿で首を絞めるように力を奪う囁きや、露骨に暴力をふるってくる権力に対抗する、知恵と創造力が必要だ。

本書では、中国・韓国・台湾・香港で、力強く、創造的に、そして地道に続けられているフェミニズム・ムーブメントを紹介している。私たち編者の解説を収めるとともに、実際に各地域のアクティビストたちに寄稿・取材をお願いし、生の声で語ってもらった。

地域により、フェミニズムと国家や企業との関係、フェミニストの弾圧のされ方は様々だ。しかし、どんな状況にあっても、誰かが闘いつづけている。その方法を学ぶことは、日本にいる私たちを省みることになるだろう。

指先の運動は社会を変えるか

#MeTooの世界的な広がり以降、「ハッシュタグ」をSNSで広めることは、大きなムーブメントを起こすために不可欠だと思われている。実際、本書でも様々な活用例を紹介しているように、現在の社会運動にとってインターネットとSNSは重要な闘いのツールになっている。

たとえば、2019年の香港民主化運動においては、エアドロップによる不特定多数への「ビラ配り」、デモを弾圧する機動隊の位置を利用者のリアルタイム通報で表示する地図アプリ、匿名性の高いチャットグループでの見知らぬ者同士のプロジェクト協力など、様々なデジタルツールがフル活用された。それと同時に、ポストイットが貼られたレノン・ウォール、街角の落書き、集会なども重要なメディアであった。今や、運動はオンラインもオフラインも一体化して進めるものになっている。

だが、時折「Twitterでフェミニズムを勉強しています」とか、「フェミニズムを広げるためにSNSで呼びかけますね」と言われるたびに、私は複雑な気持ちになる。SNSは一つのツール、一つの闘いの場であり、運動の主役ではない。もしオンラインとオフラインを分け、「安全」に見えるオンラインにとどまろうとするなら、「リツイート」や「いいね」という指先だけの運動は、どれだけ効果があるのだろう。

本書に登場する中国の呂頻(26ページ)は、インターネット上の運動は、「外周がきわめて広く、中心がきわめて小さい。フォローする者は多く、関心を集めるトピックはとても少ない」と言う。MeTooの当事者を支える活動をしている肖美麗(29ページ)は、オンラインのみの運動は拡散力は強いが、テーマを深く追求するのは難しく、運動の理念と正反対の解釈で広められることもあると指摘している(*1)。程芸瑋(146ページ)は、デモや集会が規制される中国では、オンラインはオフラインと区別できない現実の空間だと言う。Covid-19の流行で、それは全世界的な状況になった。

韓国でn番部屋のデジタル性暴力に立ち向かったアン・ヒョンギョンらの闘い(61ページ)が示すように、オンラインの運動が効果を挙げ、持続性をもつためには、法・政策への働きかけ、被害者支援、教育活動などオフラインの地道な下支えが必要なのだ。

*1 肖美麗「Post#米兎(MeToo)のフェミニズム運動」(2020年)『マイノリティと社会運動の現在 連続公開研究会講演録』

なぜ東アジアなのか

本書では、5人の編者が、それぞれ研究や運動のフィールドにしてきた地域について紹介している。…………(続く)

→「まえがき(2)」はこちら

5人顔写真

編者 左から:
 熱田敬子(あつた・けいこ)
 金美珍(キム・ミジン)
 梁・永山聡子(ヤン・ながやま・さとこ・チョンジャ)
 張瑋容(ちょう・いよう)
 曹曉彤(チョウ・ヒュートン、ジェシカ )

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