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ありのままで居る とは #わたしとPIECES

 わたしは昨年NPO法人PIECESが行うcitizenship for childrenという子どもの孤立を防ぎ、人と人とのあいだに優しい間を紡ぐための市民性醸成プログラムに参加した。前職は障害福祉の分野で、現在は生活困窮世帯の中高生を支援する仕事をしている。音楽療法士と保育士、教員の資格を持っている。仕事で具体的に何をしているのかというと、精神疾患がある子と音楽療法のセッションをしたり、不登校の子の家に家庭訪問し勉強したり遊んだり、無料で学習教室を開いたりと様々だ。

 今回は何故わたしが子どもの孤立に興味を持ったのか、PIECESを知り citizenship for children に参加した経緯、修了した今感じていることなどを書いた。


○わたしがPIECESを知った頃

 わたしがPIECESを知ったのは、おそらく3年ほど前だ。当時放課後等デイサービスという障がい児の放課後の居場所となる施設を退職し、また別の同じような新しい施設へと転職し立ち上げのメンバーとなることが決まっていたのだが、話が頓挫しまた就職先を探している最中だった。

 知人の施設でボランティアさせてもらっていた。そこは放課後等デイサービスと児童発達支援事業の施設だったが、それとは別に独自事業で受給者証を持たないお子さんの学習・居場所支援も行っていた。法にのっとったサービスを利用するには、役所への申請が必要で、その子の特性を聴取されたり、通院しているか、障がいの診断がなされているかなどのチェックが入ることがある。そこが保護者や本人にとってハードルとなり、支援へと繋がりにくいケースも多々ある。この独自事業は保護者の「ちょっと気になる。でも…」という混沌とした気持ちを受けとめるような、いわば制度の狭間に落ち支援が行き届かないお子さんや保護者の受け皿となるような事業だった。

 理事長が貧困問題に取り組んでおり、貧困の裏には女性差別や発達障がいなど、複雑な要因が絡み合っていることを学んだ。発達障がいは知的、身体的障がいに比べて新しい概念であり制度も整っておらず、予後が悪いとされている。ASD(自閉傾向)がある人の離職率はそうでない人の3倍というデータもある。すべてのお子さんと保護者を支援し、生きる力となるような経験を重ねていくことが事業の目的だったように思う。

 それまで貧困問題に興味が全く無かったわたしにとって、貧困に至るまでの様々な要因を知るたびに驚いたし、日本の社会制度というか世の中の仕組みの不条理さに疑問や憤りを感じるようになった。

 PIECESを知ったのはSNSだったように記憶している。子どもの貧困についてもっと知りたいと情報収集していて、本当にたまたま見つけたのだと思う。コミュニティーユースワーカーの育成をしていると知り、どんなお子さんにも支援(という名前でなくても安心して頼れる存在)が届くのではと感じたし、専門機関に繋がる前に自然と悩みが解決しているような理想的な構図が頭に浮かんだ。だがその時は転職活動で余裕が無かったので、コミュニティーユースワーカー育成プログラムには残念ながら参加できなかった。

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○なぜCforCに参加しようと思ったか

 結局わたしはボランティアさせてもらっていた施設で働かせてもらうことになり、そこで出会ったあるお子さんをきっかけに、より貧困問題を強く意識するようになった。

 小学校低学年から不登校であり、書字が難しい。実年齢と比べて幼い面もあるが、口頭でのやりとりは問題なく、経験が少ないことが全てにおいて影響しているように感じた。両親は働いていなかった。親に幼少期における被虐待の経験があり、他者を信頼することができずに支援を突っぱねてきた経緯がある。他者に対する基本的信頼がないため、信頼関係を築くのが難しくなってしまっていたのだ。そのお子さんは排泄が自立していなかった。発達の過程で愛着形成に課題があったのだろうと推測された。

 その親御さんと話し、壮絶な半生を聞いた時、こんなドラマみたいなことが現実にあるのだということに驚き心が震えた。それと同時に親を責めて解決する問題ではなく、環境が適切であれば適切な養育ができたはずだとも。反対に不適切な環境であれば、誰しも不適切な養育をしかねないということを感じた。お金の余裕は心の余裕に繋がり、虐待の背景には貧困という要因があるとも考えられた。

 その施設で1年働いた後、今の職場に転職した。今は生活困窮世帯のお子さんを支援する機関で働いている。この職場で働くことになったのも、前職での経験が大きく影響していると思う。そしてPIECESのコミュニティーユースワーカー育成事業が、水戸でCitizenship for Children〜市民性醸成プログラム〜という新たなものに生まれ変わり始まることを知り、少し遠かったけど今がそのタイミングだと何故だか感じて説明会に参加した。

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○CforCで感じたことや、修了した今思うこと 

 PIECESのCitizenship for Childrenを修了した今、PIECESのイメージが大きく変わったわけではない。初めに抱いていたイメージがより鮮明になったような気がする。でも変わったところもある。市民性醸成、優しい間などのキーワードから連想したのは自分以外の者、特に子どもに向けて自分がどう行動すべきかという他者の視点で物事を捉え、ある意味自分を外に置いておく必要があるというものだった。しかしこのプログラムは、実際には自分の心の底にある感情に目を向けていくことがかなりの比重を占めている。それを掘り起こしていくことは多大なエネルギーを消耗するし、自分1人でやろうとするといい方向に進まなかったりもする。このリフレクションというアクティビティは、安心できるグループでやるからこそ、その効果が淀みなく発揮されるように思う。様々な視点から物事を見たり、他者の価値観に触れることは自分の価値観をも広げて豊かにする。自分の心のうちを知ることは、自分を大切にすることは、相手を大切にすること、そして社会を大切にすることに直結していると感じた。

 とても印象に残っている言葉がある。講師から「ありのままでいてほしい」と言われたのだ。でもありのままという言葉に、わたしは正直ピンとこなかった。何故なら、いつもありのままでいられたら誰も苦労なんかしない、そんなのは綺麗事だ、みんな何かしら抱えて我慢して生きているなんて捻くれた考えがあったし、正直今もどこかに残っている。そんな言葉だけじゃ人は救えないというのもまた事実だと思う。

 しかしこのプログラムの中でありのままを受け容れられた経験がある。1つは初回のペアワークでわたしの迷いや悩みをそのまま肯定された時だ。あるお子さんの支援での迷いを話した時、その迷い感は中途半端に考えていたら生まれないものだから、ずっと持ち続けてほしいとペアの相手に言われたのだ。迷いや悩みを丸ごと受け容れられ、肯定されたことは初めてだったかもしれない。このコミュニティーが安心して居られる安全基地と感じられるきっかけにったし、迷うのはおかしくない、このままでいいんだという気持ちになれた。全てを認められると人はほっとしたり、安心したり、自分を信じることができるようになると感じた。

 もう1つは最後のゼミ後の打ち上げで、仕事に関する悩みを院生の子に話したら「そこまで考えてくれる大人が居るってだけでいいと思いますけどね」と言われた時だ。わたしには「考えて居るだけでいい」という発想が全く無かった。何かしら行動しないといけない、支援とは言えないと無意識のうちに思っていたのだ。居るだけでいいというのは最高の誉め言葉に思えてきて、子どもにも会えて嬉しい、居てくれてありがとうってたくさん伝えたくなった。

 それに過去に出会ったあの子も、あの親御さんも、いつもありのままで居られたなら、きっともっと自由に自信を持って、他者を信じて、穏やかに緩やかに生きることが当たり前に出来ていたのではないだろうか。

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○これからのわたしとPIECES 

 今年度はこのプログラムがオンラインで開催されている。全国にいる参加者と一般クラスで、お手伝いとしてご一緒させてもらっている。やはり色々な方のこれまでの経験を聞き当時の感情に触れることは、刺激的だしこちらの感情も揺さぶられる。オンラインでも、ああこれがPIECESの空気感だと感じられるからすごい。毎回このプログラムのよさをしみじみと感じるのだ。これからもっとよりよいチームになるために、このコミュニティが参加者全員にとって安全基地となるように、自分をさらけだし、いい影響を与えられればと思う。わたしも誰かのありのままを受け容れて、ほっと安心して自信を持ってもらえるような、そんな存在でありたい。

 そしてわたし自身も、ありのままで他者に受け容れられていて、心の底から安らげる経験をもっともっと重ねていけるように、CforCのプログラムを通して自分や他者との付き合い方を振り返り、学び続けていきたいと思っている。多分きっとこういうのをライフワークというのだろう。

 このコミュニティで生まれた優しい間が、メンバーひとりひとりの隣に居る人へ伝わり、またその優しい間が隣の隣の人へ伝わるような、いい循環が生まれたらいい。わたしが職場で出会う子どもたちに、保護者に、仕事仲間に、友達に、家族に、どんどん実感を持って優しい間が伝わるように。

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あとがき

 わたしはPIECESの考え方が好きだし、CforCのプログラムが好きだ。あなたも知らないうちに優しい間を生み出している1人かもしれないし、気付かぬうちに優しい間に救われている1人かもしれない。きっとこれを読んでくれたあなたは、PIECESって何か気になる…と感じてくれていたのではないだろうか。そんなあなたに是非ホームページやSNSを見てほしいし、CforCには公開講座もあるので是非参加して、もっとPIECESのことを知ってもらえたら嬉しく思う。まだ知り合っていない、たくさんの方とお話しできることを楽しみにしています。とても長くなってしまってごめんなさい。この記事を読んでくれたことに心から感謝します。ありがとう。

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