二人のためのレシピ|4.パスタ・エ・ファジョーリ(パスタと豆の煮込み)
かつて都市を基本に小さな国家を形成していた都市国家の歴史を持つイタリアでは、今も郷土意識が大変強く、日本でイタリア料理として知られているメニューの数々もその一つ一つはあくまで郷土料理であり、「イタリアにイタリア料理はない」と言われることがあります。
そんなイタリアにあって広く全土で親しまれているお料理の一つが、豆とパスタの煮込み「パスタ・エ・ファジョーリ(パスタと豆)」です。
イタリアの料理と聞くとトマト味を連想する方が多いかもしれませんが、今回ご紹介するのは、塩こしょうのシンプルな味付けに豆とパスタ自体のおいしさが際立つ素朴な味わいが特徴。豆の水煮缶詰と乾物のパスタ、日持ちのするストック野菜で、思い立ったらすぐに作れる手軽さもお気に入りの一皿。
豆は非常に歴史の古い食品で、世界中に様々な種類の豆を使う郷土料理がありますし、いつもの料理に豆を取り入れるだけでも異国情緒が加わって日々のレシピが充実しますよ。
「パスタ・エ・ファジョーリ」
今、心にいるその人とご一緒に、ぜひどうぞ。
今日のレシピのポイントは、スープに昆布出汁を使うこと。素材の味を生かしながら、出汁文化に慣れた私たちの味覚に馴染む自然なおいしさが出来上がります。豆とパスタを組み合わせること以外は、豆の種類や一緒に煮込む具材も土地によって様々。もちろんトマトを使うレシピもあります。ぜひ自分好みのおいしさを見つけてくださいね。
1・昆布出汁を準備します。だし昆布を入れたボウルに600ccの熱湯を注ぎそのまま15分ほど置いておくだけで、昆布出汁の出来上がりです。
昆布というといかにも和食のイメージが強いかもしれませんが、私は洋風料理にも昆布の旨味を利用します。レシピに「スープ」「ブイヨン」などが登場すると、家では市販のスープの素を溶いて使うことが多いと思いますが、完成された調味料はそれ一つで味が決まり重宝する一方で、便利だからとあれもこれもと使っているといつも同じような味付けになりがちなのが悩みどころ。そこで、昆布出汁の出番です。
代表的な旨味成分の一つ「グルタミン酸」を豊富に含む昆布ですが、その出汁の味わいは鰹ほどのインパクトは無く、じんわり沁みるような淡く優しい味わい。その静かな旨味を和洋を問わずベースとして使ってみると、素材の味わいが生きる新しいおいしさに仕上がるのです。
2・玉ねぎとセロリは7mm角(1cmよりやや小さめ) 、ニンジンは5mm角に刻み、にんにくはみじん切りにします。
ニンジンは硬さも色合いも強いので、他の野菜よりも分量を控えめにしてやや小さめに切るとバランスが良くなります。野菜を刻むのは、フードプロセッサーを使っていただいても構いません。
鍋にオリーブオイル(大さじ2)を中火で温め、刻んだ野菜を全て入れ、塩ひとつまみを振って炒めます。香味野菜のオイル炒めをイタリア料理で「ソフリット」といい、ボロネーゼ(ミートソース)などの煮込み料理の旨味の素としてよく登場するものです。
オイルがやや多く感じるかもしれませんが、イタリア語でソフリットは「揚げた」という意味。やや多めの油で揚げるように野菜に香ばしさを与え旨味を引き出すことが大事ですので、まずは分量通りに試してみてください。
特にイタリア料理におけるオリーブオイルは、単なる油ではなく「らしさ」を作る大切な食材の一つ。「オリーブの実の果汁」と捉えて、しっかり量を使う方がイタリア的な雰囲気が出てぐんとおいしさが増しますよ。
3・白インゲン豆の水煮はザルで缶汁を切り、さらに水でさっと洗って水気を切ります。缶汁を流してしまうのはもったいないと思うものの、製品によって塩分が強い場合などがあり、私はいつもさっと水で洗ってから使っています。
普段料理に使うのはもっぱら便利な水煮缶。イタリアのレシピでは「うずら豆」がよく登場しますが、日本の一般的なスーパーで見かけることは少ないため、今日は比較的手に入りやすい「白いんげん豆」を使っています。他にレッドキドニービーンズ(赤いんげん豆)も、食感が柔らかくこのお料理に向いています。
炒めていた香味野菜が香ばしく色づいて甘い香りが出てきたら、白インゲン豆の半量と、昆布出汁(昆布は除いて)を鍋に加えて軽く混ぜ、蓋をして煮始めます。
なぜ豆の半量だけを鍋に加えたか。それは残りの半量の豆を「潰して加える」からです。豆料理はゆったりとコトコト時間をかけて煮込めばおいしくなることは間違いないのですが、忙しい現代ではそれも中々難しい。そこで豆の一部を潰して煮汁に溶かし込むと、まるで時間をかけて煮込んだような優しい雰囲気が出せるのです。水煮缶詰の豆はすでに柔らかいので、簡単にフォークで潰すことができます。
4・豆が大体潰れたら鍋に足して、パスタと塩こしょうを加えて混ぜ合わせ、蓋をしてさらに20分ほど煮込みます。パスタを茹でずにそのまま煮込んでしまうのも、このお料理の特徴の一つ。パスタの種類も決まりはなく、と言うよりも、半端に余っているものを適当に混ぜて使うのが本場風だそう。
そうは言っても何種類ものパスタが半端に残って困っている方は日本ではそれほど多くないと思うので、小ぶりな「マカロニ」を選ぶと豆と一緒に食べやすくておすすめです。
5・煮込み時間が経ったら鍋をのぞき、パスタがすっかり柔らかく煮えてスープに馴染んでいたら、オリーブオイル(大さじ2)を加えます。仕上げに加えるオイルには、風味を増しスープ全体に乳化による自然なとろみを付ける効果があります。
味見をして、お好みで塩こしょうで味を整え、一煮立ちすれば出来上がりです。豆ソースのパスタとして水分を少なめに仕上げても、汁気を多めにスープ寄りに仕上げてもどちらもおいしいので、好きな加減で完成としてください。
パスタ・エ・ファジョーリの愉しみ方
お皿に盛り付けたら、お好みで粉チーズを振って熱々のうちにどうぞ。
どうでしょう、トマトや特別なハーブがなくても不思議としっかりイタリアの雰囲気がお皿の中にあるのは、シンプルな味付けが豆とパスタ、香味野菜とオリーブオイルの味わいをきちんと感じさせてくれるからこそ。煮込みの材料はすべて植物由来ですが、旨味も満足感も十分に感じていただけると思います。
この一皿でバランスもボリュームも良好ですが、さらに生ハムやパンを並べてワインと共に楽しめば、たちまち豪華な食卓に。お手持ちのハーブがあればそれを一振り加えたり、ベーコンやソーセージを刻んで一緒に煮込んだり、ベースがシンプルなので少しのアレンジでがらっと印象が変わります。
煮込み料理は2日目がおいしいという説は、このお料理も例外ではありません。温め直してもおいしく食べられますので、ぜひ翌日まで愉しんでください。
それでは今日はこのへんで。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
お読み頂きありがとうございます。 これからもおいしいお料理とおいしいお酒をたくさんお届けします。