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漬物王国の秋をにぎる|弁慶飯と岩のりおにぎり

以前、家庭的な和食を提供するお店のプロデュースをしていた時に、若いスタッフから「このメニューをやめられないか」と度々声が上がる商品が『おにぎり』だった。

「お握り」というからにはまず握る人の手が必要なところから始まり、そのまま口に入るものだから握る手は特に清潔でなければいけない。唐揚げに粉を付けたりハンバーグを丸める合間にささっと握るのは難しく、型やラップを使うにしても、具を真ん中に置いたり海苔を巻いたりと、何かと手の出番が多い。

閉店時間が近づきラストオーダーを伺いに客席を回ると、そこから始まるのが怒涛のおにぎりラッシュ。1個かな、いや具を変えて2個3個、せっかくだから味噌汁もつけて、じゃあそれを僕も私もと、連夜おにぎり作りに追われ後片付けが進まなくて困っていると若いスタッフはさも恨めしそうに言っていた。

その言い分はわからなくもなかったけれど、私にはほろ酔い機嫌で「出来立てのおにぎりを食べて帰りたい」というお客さんの気持ちの方がよりわかる。温かいごはんと塩少々、塩気のある具材と海苔まであればもう大満足。なにより人の手から始まるおにぎりには、とても贅沢なおいしさがあると思う。


■山形名物、弁慶飯と岩のりおにぎりの作り方■

各2個(計4個分)
・温かいごはん…2合

[弁慶飯]
・青菜漬(せいさいづけ)…1パック
・味噌…30g
・みりん…5g
・ごま油…少々

[岩のりおにぎり]
・岩のり(板状)…1/2枚
・醤油…適量
・日本酒…お好みで少々

日本有数の米処として知られる山形県庄内地方の2つの名物おにぎり。味噌を塗ったおにぎりを漬物の葉で包み香ばしく焼いた『弁慶飯』と、庄内浜で採れる天然岩海苔を醤油に浸して巻く『岩のりおにぎり』。おいしい米に、味噌・漬物・海苔という伝統食品を組み合わせた、まさに土地の食文化をにぎって食べる、とてもおいしいおにぎりです。

■動画でもご覧いただけます■


①ごはんを炊きます
米を普段通りに洗い炊き始めます。ひと昔前は「秋の新米は水分が多いから、やや少なめに水加減して」と言われましたが、現在は通年で米の水分量を管理する技術が向上していて、気にしなくても特に問題なし。

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仮に少々柔らかく炊き上がっても「やっぱり新米はみずみずしい!」と違いを喜ぶ方が面白いと思うので、いずれにしても私はあまり気にしません。

②ごはんを炊いている間に具材を準備します

[弁慶飯]
いかにも気になる『弁慶飯』の名前の由来は諸説あり、やはり義経伝説と武蔵坊弁慶にちなんだものが多いそう。このおにぎりに使う漬物は、山形名産の漬物「青菜漬け」で、“あおな”ではなく“せいさいづけ”と読みます。

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原料の山形青菜(高菜の仲間)は丁度今の時期(10〜11月頃)が収穫の最盛期で、力強い緑の大きな葉っぱを醤油味で漬け込む「青菜漬け」は、漬物王国・山形を代表する漬物の一つ。近頃は東京のスーパーでも時々見かけるようになり嬉しく思っています。

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葉ができるだけ破れないように丁寧に広げ、肉厚で筋が強い茎の部分を切り離します。葉はかさばらないように畳んでおき、茎の部分は刻んでおにぎりの中に詰める用。

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続いて、おにぎりに塗る味噌を準備します。
味噌はそのまま塗っても良いのですが、漬物と味噌とでやや塩っ気が勝る味わいなので、塗りやすさも考えて私はみりんと香り付けのごま油少々を加えて軽く伸ばしています。

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[岩のりおにぎり]
こちらのおにぎりで使う「岩のり」は、日本海の岩場に生える天然海苔を厳寒期に手摘みした庄内浜の特産品。特に板状にすいたものは実はかなりの高級品ですが、一般的な板海苔とは一味違う歯ごたえと磯の香りが強く感じられて、ぜひ味わっていただきたい逸品です。

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板状の岩のりは軽く炙って、おにぎりの大きさに合わせて切っておきます。直火で炙ると風味がぐっと増す。最近は包装資材が優秀で、買う焼き海苔はいつでもパリパリ。ガスの炎で海苔を炙るなんて本当に久しぶりな気がします。

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小皿に醤油を入れ、日本酒を少し垂らして準備しておきます。

③おにぎりをにぎります
ごはんが炊けたら、蒸らしつつ手で触れる温度まで冷まして、おにぎりを握っていきます。どちらも味噌を塗ったり醤油で浸した海苔を巻いたりするので、塩は付けずに水で手を湿らせるだけで握ります。

[弁慶飯]
弁慶飯は、ごはんの中に刻んだ茎を入れて、丸型に握ります。弁慶飯の名の由来の説の一つは「弁慶の握り拳に似ているから」だそう。弁慶のげんこつをイメージしながら丸く。

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続いて、おにぎりの表面に満遍なく味噌を塗り、青菜の葉を広げて包みます。このサイズの葉がそこにあったら、おにぎりを包みたくなる気持ちがよくわかります。

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そして、焼きます。
葉で包んだままでもちろんおいしいのですが、青菜漬の葉は薄くても意外に繊維が強く食べ応えがあるので、火で炙ると歯切れがよくなって食べやすく香ばしさも加わり益々おいしくなります。焼くのは、魚焼きグリル・トースター・フライパンでも。茶色っぽくなるまで焼くと、漂う香りも最高です。

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[岩のりおにぎり]
こちらも丸く握ります。岩海苔らしい強い磯風味と米の旨さを存分に楽しむため、具は特に入れません。私はこどもの頃からおにぎりは三角が一番馴染みがありますが、庄内で見たおにぎりはどれも丸っこかったような印象。

皿の上を滑らせるようにして岩のり全体をしっかり醤油に浸し、すぐおにぎりに巻きます。味付けはこの醤油だけなので、しっかり濡らした方が冷めてもおいしく食べられます。

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繊維が強い岩のりは板状でも凹凸と透け感があり、なんだかゴージャス。

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バラの岩海苔でも、ラップの上に醤油で湿らせた岩海苔を平らに広げて、中央におにぎりを置いてラップを使って包むようにすると、上手くくっつきます。

④完成です
シブいながらも実は相当豪華なおにぎり2種。熱い味噌汁が並ぶと大満足、干物でも付けばもうご馳走。弁慶飯を一口頬張ると、炙った青菜の香ばしさの中に、味噌の旨味と中に詰めた茎のシャキシャキ感が顔を出す。どこからかじっても全部のおいしさが必ず居ます。さすがは丸。

岩のりの方は、まず歯に当たる海苔のむちっとした厚みに驚き、それでいてすっと噛み切れる歯切れの良さにまた驚き、そして口の中に広がる圧倒的な磯の香りにさらに驚いて、堪らず唸ってしまう。

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当然お弁当にも最適。
おにぎりはそれぞれやや小ぶりに握って弁当箱に入れ、あとは隙間におかずをぐいぐいと詰めます。お弁当は実際持ち運ぶとしたら蓋がやっと閉まるくらいが安定して良いので、おかずは[形がしっかりとしたもの]と、隙間を埋める[形を変えやすいもの]があると、みっしりと詰めやすい。

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小さく握ったつもりでも、詰めて包んで、いざ持ち上げてみると「重!」。この重さは「これで夜までお腹は大丈夫」という安心感。にぎりめしは偉大。お弁当箱に詰めるという行為が大好きです。

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2013年、日本独自の伝統的な食文化「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。ただ、ふと見渡すと日常的に和食を食べている人が今日どれほどいるだろうかと、少し心細くなります。

一年の恵みに感謝しながら冬に向かって蓄える季節。秋のおいしさ、まだまだもっと楽しみたい。

それでは今日はこのへんで。
最後までお読みいただきありがとうございました。

※庄内地方にある鶴岡市は、「ユネスコ創造都市ネットワーク」食文化部門加盟都市に、2014年日本で初めて認定されています。


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