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魔法少女の系譜、その26~『キューティーハニー』~


 今回は、昭和四十八年(一九七三年)十月から、昭和四十九年(一九七四年)三月まで、放映されたアニメを取り上げます。
 そのアニメとは、『キューティーハニー』です。とても有名な作品ですね。

 『キューティーハニー』が魔法少女ものだということに、違和感をおぼえる方も、いるでしょう。
 私の定義では、魔法少女ものに入ります。ヒロインが、「何か、超常的な能力を持つ少女」で、その少女が、「その超常的な力を使って、問題を解決したり、逆に騒動を起こしたりする話」だからです。
 「魔法少女の系譜、その1」を参照して下さい。

魔法少女の系譜、その1(2022年05月30日)

https://note.com/otogiri_chihaya/n/n17bab0f9e96e

 『キューティーハニー』のヒロイン、如月【きさらぎ】ハニーは、アンドロイドです。人造人間です。
 アンドロイドゆえに、普通の人間を超えた運動能力を持っています。

 ハニーの力の源は、体内にある「空中元素固定装置」です。これは、ハニーの心臓に当たる装置です。
 この装置は、二十一世紀の現在でも実現していない、超科学の産物です。ハニーは、この装置によって、さまざまな姿に変身できますし、空中から宝石を作り出す、などということもできます。

 このアンドロイド美少女という設定が、昭和四十年代(一九七〇年代前半)当時では、非常に斬新でした。
 『キューティーハニー』は、魔法少女の魔力の源に、新しいタイプを付け加えます。「人造型」ですね。生まれつきの血筋型でも、魔法道具型でも、修業型でもありません。

 これだけで、『キューティーハニー』は、画期的な作品だとわかりますね。
 しかし、この作品は、他にも、画期的な点が、いくつもあります。

 その一つが、戦う魔法少女であることです。明確な敵役がいて、ヒロインは、彼らと戦います。もちろん、その戦いに、ヒロインの超常的な力が生かされます。

 これまた、昭和四十年代(一九七〇年代前半)では、非常に珍しいことです。
 ハニーより前に、戦う魔法少女といえば、『好き!すき!!魔女先生』の月ひかるしか、いませんでした。

 ただし、「魔法少女もの」というくくりを外せば、戦う女性は、以前から、アニメに登場しています。数は少ないですが。

 例えば、『キューティーハニー』の前年、昭和四十七年(一九七二年)に放映された『科学忍者隊ガッチャマン』の白鳥のジュンは、戦う女性でした。
 さかのぼれば、『サイボーグ009』の003、フランソワーズも、戦う女性でした。この作品は、昭和四十三年(一九六八年)に、最初にアニメ化されました。

 『ガッチャマン』と『サイボーグ009』は、どちらも、チームで戦う話です。どちらのチームも、科学力を武器にしています。現代の科学レベルをはるかに凌駕した、超科学ではありますが。

 (超)科学を武器にしている点で、『キューティーハニー』は、『サイボーグ009』や『ガッチャマン』の衣鉢を継ぐ作品といえます。科学の力で、人体を模倣したり、強化したりして、超常的な力を生み出す点が、共通します。

 私の定義では、『ガッチャマン』の白鳥のジュンも、『サイボーグ009』のフランソワーズも、魔法少女ということになります。特に、フランソワーズは、サイボーグですからね。
 けれども、彼女たちは、ヒロインではあっても、主役ではありません。これら二つの作品は、チームで戦うことに主眼が置かれています。『サイボーグ009』のほうは、はっきりと、009、島村ジョーが主役です。
 ですから、これら二つの作品は、「魔法少女もの」とは、言えません。このために、これまで、『魔法少女の系譜』シリーズで、取り上げてきませんでした。

 そういえば、『キューティーハニー』も『ガッチャマン』も『サイボーグ009』も、二〇〇〇年代になってから、リメイクされていることが、同じですね。
 現在でも、基本的な枠組みが通じるということです。放映された当時は、どれほど画期的だったことでしょうか。どれも、四十年以上、前の作品ですよ?

 チームではなく、個人で戦う女性も、日本のアニメには、登場していました。
 『リボンの騎士』です。昭和四十二年(一九六七年)から昭和四十三年(一九六八年)にかけて、アニメが放映されました。

 『リボンの騎士』のヒロイン、サファイアは、本当は女の子です。シルバーランド王国の王家の一人娘、王女として生まれました。
 しかし、彼女の国には、男しか王位を継げないという掟がありました。王位を継ぐために、彼女は男の子と偽って、普段は男装しています。

 サファイアは、「王子」ですから、王子らしく、馬にも乗れば、剣も使います。
 サファイアは、魔法は使いません。知恵と剣の力とで戦います。国を荒らす獣を退治したり、王位を狙う悪者をやっつけたりします。

 魔法を抜きにすれば、サファイアこそが、日本のアニメにおいて、「戦う女性」の原点でしょう。

 このように、少ないながらも、日本のアニメには、「戦う女性」の系譜がありました。
 『キューティーハニー』は、その系譜を継ぐ存在です。

 ハニーがアンドロイドだという点に注目すれば、『キューティーハニー』は、SFといえます。
 戦う女性という点に注目すれば、バトルアクションだといえます。

 私は、『キューティーハニー』がSFだという意見や、バトルアクションだという意見に、反対しているのではありません。そういう見方もあるべきだと考えます。
 同時に、魔法少女ものとして見ることもできる、というのが、私の意見です。

 このように、多面的な見方ができることこそ、『キューティーハニー』が、名作である証拠でしょう。
 名作の多くは、多面的な要素を含んでいるものです。多面的な読みを許してくれる作品、と言い換えたほうが、よいでしょうか。

 『魔法使いサリー』以来の、魔法少女の系譜。
 『リボンの騎士』以来の、戦う女性の系譜。
 『サイボーグ009』以来の、科学力で戦うものの系譜。

 これらが合わさって、『キューティーハニー』という傑作を生みました。

 ところが、『キューティーハニー』の含む要素は、これまで、挙げたものばかりではありません。
 実際に作品を見た方なら、おわかりですね? 『キューティーハニー』には、「お色気」という重要な要素があります。

 それまで、日本のアニメで、お色気を前面に出した作品は、ありませんでした。
 アニメが、子供のものだと思われていた時代ですからね。普通に考えたら、子供向け作品で、お色気はないでしょう。
 それをやってしまったところが、すごいです。時代を超える作品とは、こういうものなのですね。

 お色気要素のおかげで、『キューティーハニー』は、男子の視聴者が多い作品でした(笑)
 魔法少女ものとしては、異例なことです。私の知る限り、昭和四十年代で、男子の視聴者が多かった魔法少女ものは、他に、『さるとびエッちゃん』くらいしか、知りません。『さるとびエッちゃん』は、ギャグだったので、見ている男子が多かったんですね。

 今でこそ、お色気要素のあるアニメや、戦う女性のアニメは、山盛りあって、それを男性が見るのは、珍しくも何ともありませんね。
 でも、『キューティーハニー』は、四十年以上前の作品ですから。ラブコメというジャンルのアニメさえ、なかった時代です。
 たいへん大きな突破口を作った作品だと、わかっていただけるでしょうか。『キューティーハニー』がなければ、現在のように、おおぜいの「大きなお友達」が現われることは、なかったかも知れません。

 日本の一定以上の年齢の男性には、ハニーの変身シーンが楽しみだった方が、多いのではないでしょうか。「ハニーフラッシュ!」で、ハニーが全裸になるシーンです。
 どう見ても、あのシーンは、女子より、男子を視聴者に狙ったとしか思えません(笑)

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『キューティーハニー』を取り上げます。この作品については、語るべきことが多いですからね。




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