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魔法少女の系譜、その156~『機動戦士ガンダム』における戦う女性~


 今回も、前回に続き、『機動戦士ガンダム』を取り上げます。いわゆる「ファーストガンダム」ですね。主に、ララァ・スンというキャラクターを解読します。

 前回にも書きましたとおり、私は、『機動戦士ガンダム』という作品を、魔法少女ものだと主張したいわけではありません。そもそも、当時は、まだ、魔法少女という言葉すら、ありません。魔女っ子という言葉しか、ありませんでした。
 放映当時の分類でいえば、『機動戦士ガンダム』は、「ロボットもの」か、「戦争もの」でしょう。二〇二一年現在では、「ガンダム」自体が、ジャンル名と言えるほどになっています。

 ただ、名作と言われる作品はみなそうですが、『機動戦士ガンダム』も、多様な要素を含みます。多様な読み解き方ができるということです。単なる「ロボットもの」や「戦争もの」という言葉に、収まる作品ではありません。
 ララァ・スンというキャラクターに限って言えば、魔法少女であり、戦闘少女であると指摘することができます。

 ララァは、作品中で、傑出したニュータイプです。これが、彼女が魔法少女であり、戦闘少女である所以【ゆえん】です。
 とはいえ、『機動戦士ガンダム』には、ララァ以外にも、何人ものニュータイプが登場します。主人公のアムロ・レイがそうですし、ララァの才能を見出したシャア・アズナブルも、そうです。アムロとシャアとは、ララァに匹敵するほど、ニュータイプの能力が高いです。
 ララァ以外に、女性のニュータイプがいないわけではありません。例えば、地球連邦軍のミライ・ヤシマなどは、その例です。彼女の場合、ララァやアムロのような派手さはありませんが、未来予知の能力が発現する場面があります。

 ミライ・ヤシマは、ニュータイプであるとともに、軍人でもあります。最初は一般人だったのが、成り行きで、軍人になってしまいます。この点、アムロと同じです。
 一年戦争当時、彼女は、十八歳でした。もっと年上に見えますが、そう設定されています。つまり、彼女は、ニュータイプなので魔法少女であり、軍人なので戦闘少女でもあります。ララァと同じです。
 『機動戦士ガンダム』には、魔法少女といえる存在が、複数、登場します。

 ララァやミライが軍人である点にも、注目すべきです。『機動戦士ガンダム』の世界には、女性の軍人が、普通に何人も登場します。
 地球連邦軍には、ミライ以外にも、セイラ・マス、マチルダ・アジャンといった女性軍人がいます。ジオン公国軍にも、クラウレ・ハモン、キシリア・ザビといった、戦う女性たちがいます。ハモンは、正式な軍人ではありませんが、実際に戦闘に参加しており、しかも、けっこう強いです。

 『機動戦士ガンダム』の世界では、女性が軍人になることや、戦闘に参加することについて、特に説明はありません。それは、普通のこととして受け入れられています。
 二〇二一年現在ですと、普通過ぎて、気づかれないかも知れません。が、これは、放映当時には、画期的なことでした。

 『機動戦士ガンダム』と、ほぼ同時期にアニメが放映された『ベルサイユのばら』とを、比べてみましょう。
 『ベルばら』では、戦闘に参加する女性は、オスカルただ一人です。彼女の場合、軍人の家に生まれて、他のきょうだいも、全員、女性でした。これでは軍人の後継ぎがいなくなるということで、特別に、男性として育てられました。
 『ベルばら』の舞台は、十八世紀のフランスです。この舞台では、このような「特別な理由付け」をしなければ、「戦闘少女」を登場させることは、できませんでした。
 「特別な理由付け」は、そうそう出すことはできません。ゆえに、戦闘少女は、オスカルのみになるわけです。
 ほぼ同時期に放映されたアニメでも、この違いがあります。

 「『ベルばら』は、舞台が十八世紀フランスなので、そうなるだろう。『機動戦士ガンダム』は、未来の話なので、女性が戦闘に参加していても当然だ」と思いますか?
 では、『機動戦士ガンダム』の少し前に、戦争を扱ったアニメ作品を見てみましょう。『宇宙戦艦ヤマト』です。『ヤマト』は、昭和四十九年(一九七四年)に最初にテレビ放映されています。『機動戦士ガンダム』のわずか五年前です。

 『宇宙戦艦ヤマト』の舞台は、西暦二一九九年です。思いっきり未来ですね。
 にもかかわらず、宇宙戦艦であるヤマトの乗員のうち、女性は、森雪【もり ゆき】ただ一人です。ヤマトの乗組員数は百十四名いるのに、ですよ?

 この極端な男女比は、放映当時から、話題になったようです。批判もありました。
 それでも、『宇宙戦艦ヤマト』という作品は、爆発的にヒットしました。視聴者に受け入れられたということですよね。

 この男女比の違いをもってしても、『宇宙戦艦ヤマト』と『機動戦士ガンダム』との間に、「越えられないほどの壁」があるのを感じますね。
 といいますか、『機動戦士ガンダム』こそが、その壁を作ったと言えます。日本のテレビアニメの中で、「女性が普通に戦うこと」を描いた最初の作品は、『機動戦士ガンダム』だと思います。
 それまでは、「戦う女性」は、特別な存在でした。一つの作品に登場する「戦う女性」は、一人がほとんどで、多くても、せいぜい二人でした。
 『機動戦士ガンダム』は、そうではなく、「男性と同じように、戦う女性が普通にいる」世界を、提示しました。

 『機動戦士ガンダム』におけるララァ・スンは、あまたいる「戦う女性」の中の一人でした。女性のニュータイプも、何人もいることが示唆されているため、『ガンダム』の世界には、「魔法少女」も、おおぜいいるはずです。
 ララァは、傑出した能力を持つために、特別な存在ではあります。でも、その「特別」は、決して、唯一無二の才能ではなく、「普通」の延長線上にありました。

 例えば、アムロの同僚といえるセイラ・マスは、少女であり、軍人であり、物語の最後のほうになって、ニュータイプの片鱗を見せます。しかし、物語の大部分では、「ニュータイプではない軍人」でした。彼女は、戦闘少女で、わずかに魔法少女の要素もある、といえます。
 ミライ・ヤシマは、先述のとおり、戦闘少女で、魔法少女です。彼女のニュータイプとしての能力は、ララァと比べれば、弱いです。
 ララァ・スンは、優れたニュータイプだけが操縦できるエルメスを、事実上、独占するほど、強いニュータイプであり、戦闘少女でした。

 こうして見れば、セイラ→ミライ→ララァという具合に、他の人物の延長線上に、ララァがいることが、わかりますね。

 ララァは、主人公アムロの成長を促す重要なキャラクターでした。それを抜きにしても、強く、神秘的なニュータイプの能力を持ち、魅力的に描かれています。
 それは、ミライ・ヤシマや、セイラ・マスといった、他のキャラクターでも、同じです。みな違う性質を持ちますが、みな人間的な深みを持って表現されており、それぞれ魅力的です。
 それまでの日本のテレビアニメでは、脇役の一人一人を、ここまで深く、人間的に表現した作品は、ほとんどありませんでした。
 『宇宙戦艦ヤマト』にも、たくさんのキャラクターが登場しますが、深く描かれるのは、主役の古代進、その親友でありライバルの島大介、ヒロインの森雪、ヤマトの艦長沖田十三くらいでしょう。敵側のデスラー総統やドメル将軍まで入れても、十人に満たない数です。
 『機動戦士ガンダム』で、ちゃんと名前と台詞があって、劇中で活躍するキャラクターは、十人どころか、二十人でも、ききませんよね。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『機動戦士ガンダム』を取り上げます。



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