黒い聖母と悪魔の謎 (講談社学術文庫 1844)
ヨーロッパ美術について、解説した本です。中でも、主に、キリスト教の教会に見られるモチーフについて、解説しています。
日本人にとって、キリスト教美術は、馴染みがありませんよね。普通にイエス・キリストやら、聖母マリアやらのモチーフを見ても、「意味がよくわからない」ことが多いでしょう。
まして、キリスト教の教会には、もっと訳のわからないモチーフが、ひしめいています。
聖なる場所のはずなのに、悪魔がいたり、目隠しをした女性の像があったり、黒い肌の― ヨーロッパ人らしくない―聖母像が立っていたりします。
他にも、「顔が葉っぱでできた人間」や、一角獣など、不思議なモチーフが、ヨーロッパ美術には見られます。
これらのモチーフは、決して近代の産物ではありません。中世の前半、具体的には、千年ほども前から、伝えられてきたものです。
なぜ、よりによって教会に、そんなものがあるのか?
この本は、それを教えてくれます。
こういった美術のモチーフを読み解く学問は、図像学(イコノグラフィ)と呼ばれます。
本書は、ヨーロッパ図像学入門書、といえるでしょう。本書を手がかりに、図像学の迷宮に踏み込んでみるのは、楽しいことです(^^)
ヨーロッパの中世や、ロマネスク美術に興味がある方には、お勧めです。
悪魔や、葉人間(グリーンマン)や、一角獣、ガルグイユ(ガーゴイル)などの幻想生物に興味がある方も、ぜひ。
以下に、本書の目次を書いておきますね。
序――図像学(イコノグラフィ)とは
第一章 悪魔の出現とその形態
「神」と「悪」の問題/ロマネスク聖堂に表現された「悪徳」に付き添う悪魔/
悪魔の登場する場面とその役割/悪魔表現の出現/
など
第二章 ロマネスク美術と『黙示録』
ポワティエ市サンティレール聖堂の謎の柱頭彫刻/
サン・スヴェールのベアトゥス本/
《ベアトゥス本》写本とは/《サン・スヴェールのベアトゥス本》の特徴/
など
第三章 右と左の序列――左は悪い方向
コンク、サント・フォワ聖堂への道/《最後の審判》図像の出現/
右と左の位階の問題/中世における視点(内なる視点)と逆遠近法の問題/
神の視点の存在
第四章 謎の黒い聖母像
ロカマドールの謎の聖母像/黒い聖母の存在する場所/
巨石信仰に結びついた土地(ル・ピュイ)/シャルトル大聖堂の場合(聖水崇拝)/
など
第五章 『旧約聖書』伝壁画のなかの横顔像
サン・サヴァン聖堂壁画(『旧約聖書』伝)/東側祭室や西側玄関口壁画との関係/
サン・サヴァン身廊天井壁画の特殊性/主要場面における横顔像とその意味/
など
第六章 目隠しされた女性像――シナゴーガ表現
ストラスブール大聖堂の目隠しされた女性像/
サン・ドニ修道院長シュジェールの創意/
予型論(タイポロジー)的解釈とその表現/シナゴーガ(ユダヤ教会)の表現/
《シナゴーガ》表現の背後にあるもの
第七章 「葉人間」の正体
サン・ブノワ・シュル・ロワール修道院/謎の柱頭彫刻/
グリーン・マン(葉人間)の存在/「葉人間」の正体(樹木信仰)/
など
第八章 怪物ガルグイユの象徴的意味
パリ大聖堂の怪物群とガルグイユ/ガルグイユの起源/
雨樋【あまどい】の歴史とガルグイユの登場/ガルグイユの歴史とその類型/
ガルグイユの象徴的意味
第九章 一角獣のタピスリーの意味
パリ、クリュニー美術館《一角獣を伴う貴婦人》タピスリー/
表現されている主題(五感覚)/一角獣とライオンの象徴性とその意味/
新しい解釈/
など
学術文庫版あとがき
注
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?