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魔法少女の系譜、その39~『それ行け!カッチン』と『5年3組魔法組』~


 今回も、前回に続いて、『5年3組魔法組』を取り上げます。この作品と、伝統的な口承文芸とを、比較してみます。

 が、その前に、『それ行け!カッチン』について、もう一度、取り上げます。『カッチン』については、口承文芸との比較分析が、足りませんでした。

 以前に書いたとおり、『それ行け!カッチン』は、直接的に、『アラジンと魔法のランプ』の影響を受けています。『アラジンと魔法のランプ』は、有名な口承文芸ですね。
 とはいえ、『カッチン』は、『アラジン』を、そのまま現代日本(一九七〇年代の日本)に置き換えた話では、ありません。『アラジン』以外に、もう一つ、直接的な影響を受けた作品があるからです。

 その作品とは、『長靴下のピッピ』です。こちらは、口承文芸ではなく、現代になってから作られた、創作物語ですね。有名な児童文学です。

 『アラジン』と、『ピッピ』とを、足して二で割らなかったことにより、『カッチン』は、独創的な作品となりました。
 何よりも独創的なのは、ヒロインが魔法少女ではないことです。女児向けの、魔法が出てくるファンタジーなのに、ヒロインが魔法を使わないのですよ。それどころか、ヒロインは、魔法の存在さえ、知りません。

 こんな「魔法もの」作品は、少なくとも日本のテレビの世界では、後にも先にも、『カッチン』だけではないでしょうか。
 ヒロイン役の斎藤こず恵さんが、人気絶頂の子役だったから、できた技でしょうね。普通は、ヒロインに魔法を使わせて、「特別な子」にするものでしょう。ヒロイン以外に魔法を使わせてしまったら、そちらに「特別」感を取られてしまいます。

 『カッチン』では、ヒロインの見守り役の英子先生が、魔法(の壺)を使います。大人の見守り役に魔法を使わせるのは、新しい発想ですね(^^)
 ヒロインと、魔法を使う人物とに年齢差があることで、直接、比較対象にならないようにしています。そもそも年齢差があることで、魅力がかぶらないわけです。

 『カッチン』では、ヒロインを、魔法を使わないけれども、ピッピのような風変わりな性格にすることで、「特別な子」感を出しています。

 『カッチン』は、伝統的な口承文芸から、直接、影響を受けながらも、その枠をはみ出した作品でした。
 商業的に成功した作品だったかどうかは、知りません。けれども、独創的な試みをした作品として、記憶され、かつ、記録されていい作品だと思います。


 さて、『カッチン』については、これで終わりにします。
 次は、『5年3組魔法組』です。

 『魔法組』には、ヨーロッパ風の魔女が出てきます。しかし、この作品は、『カッチン』と違って、直接、影響を受けた口承文芸は、ありません。

 前回に書いたとおり、魔女をトリックスターとして扱ったのは、日本のテレビ番組では、新しいことでした(^^)

 例えば、米国のテレビドラマ『奥さまは魔女』には、トリックスター的な魔女が登場します。ヒロインの母親などが、そうです。
 ヒロインの母エンドラは、ヒロインと夫―普通の人間です―との結婚に反対しているため、隙あらば、別れさせようと画策します。けれども、娘はかわいいと思っているので、娘のために良いこともします。
 『魔法少女の系譜』シリーズで、以前書いたように、『奥さまは魔女』は、日本の「魔法もの」に、多大な影響を与えた作品でした。

 にもかかわらず、日本製のテレビ番組には、そういう魔女は、いなかったのですね。
 「魔女」が題名に付く番組を挙げてみると、善い「魔女」ばかりです。『魔女はホットなお年頃』も、『好き!すき!!魔女先生』も、そうですね。
 そのうえ、「魔女」と言いながらも、この二作品のヒロインは、伝統的なヨーロッパ風の魔女ではありません。『魔女はホットな』では、ヒロインが狐ですし、『魔女先生』では、ヒロインが宇宙人です。

 伝統的なヨーロッパ風の魔女を、そのまま出すと、普通は、悪役になります。
 例えば、ヨーロッパの魔女伝承を取り入れた『魔女っ子メグちゃん』では、悪役の魔女が登場しました。
 ヨーロッパの民話で、魔女といえば、悪役の定番です。

 では、ヨーロッパには、良いことをする魔女の伝承がまったくないかといえば、そうではありません。
 完全な善役の魔女は、確かに、極めて珍しいです。しかし、トリックスター的な魔女であれば、時たま、登場します。

 例えば、ロシアの妖婆として知られる、バーバ・ヤガーの場合です。
 バーバ・ヤガーは、ロシアの昔話では、お約束の悪役です。怪しい魔術を使う老婆です。人を食べるといわれます。
 しかし、物語のヒロインが、けなげにバーバ・ヤガーに仕えると、そのお礼として、良い魔法を授けてくれたりすることがあります。

 『魔法組』の魔女ベルバラは、バーバ・ヤガーをもっと若返らせて、凶悪さを弱めた感じですね。
 ベルバラは、いたずらはしても、人を食べるほどの悪さはしません。外見も、老婆ではなく、中年のおばさんです。

 ベルバラ役の曽我町子さんの演技が、トリックスターとしてのベルバラに、抜群の存在感と魅力とを与えていました。
 いつも騒動を起こすけれども、見ていて憎めないのですよね、ベルバラは。『魔法組』の子供たちを、本当は大好きなことが、よく伝わってきます。

 『魔法組』の魔法少女/少年たちは、魔法道具で魔法を使います。その魔法道具は、ベルバラから預けられたものです。

 「物語の主人公(たち)が、トリックスターとしての魔女から、魔法道具を預けられて、魔法を使う」という枠組みで見れば、先述の「良い魔法を授ける」バーバ・ヤガーの話と、『魔法組』とは、同じです。
 ヨーロッパの口承文芸には、時おり、見られる形です。

 とはいえ、一九七〇年代の日本では、それは、馴染みのない形でした。ヨーロッパ風の魔女が登場する話でさえ、まだ珍しかったほどですからね。
 製作者が、ヨーロッパの口承文芸を意識して、このような形にしたかどうかは、私には、わかりません。
 意識していないのに、この形に落ち着いたとしたら、興味深いですね。普遍的に、人間が面白いと感じる形に、ちゃんと収束したわけです。

 でも、『魔法組』は、伝統的な口承文芸より、進歩しています。
 口承文芸では、トリックスターから良い魔法を授けられたら、その後は、もう、そのトリックスターが、話に登場しないのが、普通です。魔法を授けられて、使って、終わり、です。シンプルな物語ですね。
 『魔法組』では、魔法道具を預けた後も、ずっと、ベルバラが、子供たちに干渉し続けます。まさにそれによってこそ、毎回、話が展開します。

 毎週、一話完結の物語を放送しなければならないテレビドラマでは、そういう形にせざるを得なかったのでしょう。
 おかげで、この楽しい物語を、四十一話も、見ることができました(^^)

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『5年3組魔法組』を取り上げる予定です。




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