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イカの心を探る―知の世界に生きる海の霊長類 (NHKブックス No.1180)


イカの心を探る―知の世界に生きる海の霊長類 (NHKブックス No.1180)

 イカについて、認識を新たにさせてくれる本です(^^)

 多くの日本人にとって、イカといえば、食べ物でしょう。「イカに知性がある」なんて、考えたこともない方が、ほとんどだと思います。
 それどころか、イカに脳があることさえ、知らない方が多いでしょう。

 イカには、立派な脳があります。
 最近の研究によれば、イカには、「知性の芽生え」のようなものがある、とわかってきました。
 本書では、それについて、解説されています。

 本書には、イカのことしか書いていないわけではありません。
 イカの仲間のタコや、カササギなどの鳥類、イルカなどの哺乳類、サケなどの魚類の話も出てきます。これらの話は、イカと、直接、関係がある話ばかりではありません。

 こういった「余談」を、嫌う方もいるでしょう。
 けれども、私には、好もしく感じられました。
 普通の人には、あまり知られない、理系研究者の実情が知れるからです。

 それに、一見、関係ないように見えても、イカの研究と、どこかでつながっている話が多いです。

 例えば、「知性」という視点から、見てみましょう。
 「イカの知性とは何か?」を知るには、他の生き物の知性と比べてみるのが、わかりやすいやり方ですね。カササギ(カラスの仲間)やイルカなど、「知性がある」といわれる生き物を、引き合いに出す価値はあります。

 私が、本書の中で、たいへん興味深いと思ったのは、「イカに鏡を見せる実験」です。
 まだ、研究の途上なので、明確な結果は出ていませんが……ひょっとしたら、イカは、「鏡に映った自分の姿を、それを知ることができる」かも知れません。

 これは、驚異的なことです。非常に高度な知的能力を示すことだからです。
 「鏡に映った自分の姿を、それと知る」ことを、「鏡像自己認識」と呼びます。この能力を持つと証明されているのは、ヒト以外では、今のところ、チンパンジー、オランウータン、ハンドウイルカ、アジアゾウ、カササギだけです。哺乳類と、鳥類ばかりですね。

 もしかしたら、ここに、「アオリイカ」などの、イカの仲間が、加わるかも知れないわけです。
 イカは、脊椎動物でさえありません。軟体動物です。哺乳類や鳥類とは、まったく違う進化の道筋を歩いてきました。
 私たちの知らないところに、もう一つの「知性の山」がそびえているかも知れないと考えるだけで、わくわくします(^^)

 以下に、本書の目次を書いておきますね。

はじめに
 イカは謎が多い  イカの知性とイカの社会  本書の構成

序章 イカの素性をさぐる
 日本人と「イカ文化」  イカとは誰か  イカを分類してみると  
 イカなのか、タコなのか  イカの大繁盛記  イカの生涯  イカの寿命
 飼えないイカの飼育学  イカを飼う  初の快挙  イカの産卵行動
 イカの餌付け  スルメイカの飼育回想記

第一章 イカの脳をさぐる
 イカに脳はあるのですか?  脳の大きさ  巨大脳の持ち主  イカの眼は立派だ
 無脊椎動物らしからぬ無脊椎動物  イカの脳のかたち  なぜ巨大化したのか

第二章 イカの社会性をさぐる
 ミツバチの「社会」  美ら海【ちゅらうみ】とアオリイカ  群れをつくるイカ
 奇麗な群れ隊形をつくる  体の色を瞬時に変える  イカの恋のかけひき
 タコは社交的ではない  ヤリイカの奇麗な動き  
 など

第三章 イカの賢さをさぐる
 動物は学ぶ  トリはなぜ歌うのか  イカの見わける能力
 ターゲットを見わける能力  イカは奥行きを知覚している
 ガラスの向こうにいるアミ  短期記憶と長期記憶  イカの記憶力
 など

第四章 イカのアイデンティティーをさぐる
 自分という存在  鏡の中の自分 イルカだって、鏡に映る自分を認識している
 イカは自分を認識しているのか  イカに鏡を見せる
 一つの質問と一冊の本――ある補足  イカを選ぶ
 など

第五章 イカの赤ちゃん学をさぐる
 赤ちゃん学の試み  動物の赤ちゃんに起こること  サケの思い出
 イカにおけるインプリンティング  豊かな環境で育つイカ
 守りの術も幼き頃の手習い  腕を伸ばす捕獲術の発達
 群れも生まれてからつくられる  イカはいつから鏡に向かうのか
 発達する知性基盤  ルドビック・ディッケル教授のこと

終章 イカの素顔をさぐる
 貝殻を捨てた軟体動物  シンプルなつくりで複雑な行動  短い生涯なれど
 伝えるものはあるのか  隣の高き峰  名前をつけるということ
 知性研究の対象として  頭足類学への挑戦

参考文献
あとがき



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