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透明な病と生きる 自律神経失調症 第3章 ”ゆらめく影は、甦る悪夢” 前編

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第3章 ゆらめく影は、甦る悪夢

前章で私と自律神経失調症の戦いの始まりを書きましたが、それはまだ氷山の一角でした。自律神経は全身の様々な部分をコントロールしている以上、それに異常をきたすということはそれだけ様々な症状が出現し得るということです。それは私も例外ではありませんでした。
本章では、私が味わうこととなった症状を羅列していきたいと思います。時系列ははっきり覚えておりませんし、複数の症状が同時期に重なることも当然ありました。というより寧ろ、次々と上に積み重なって、じわじわと生活が制限されていきました。ロールプレイングゲームでいうと次々に状態異常になっていくような感じですね。某シリーズであればアクセサリに「リボン」を装備したいくらいでした。
本章では、症状別に、日常生活でどのような影響があったかも含めて主要なものを取り上げていきます。前編では、まず身体的な症状から書いていくことにします。

1) 吐き気

私の症状で最も頻度が多かったのが吐き気です。第2章で書いた神経性食道狭窄症、いわゆる「喉のつかえ感」も伴うことが多かったです。自宅にいるときや一人でいるときにはあまり症状は現れませんでした。仕事の時を除いて、症状が出やすかったのは「他人といる時」でした。私は極度の人見知りというわけではないと思っているのですが、どうやら親しい友人や家族などの“ある程度心許せる存在”を除き、誰かと過ごすときに無意識の心理的緊張があり、それがストレスとなって症状が出ていたのだと思います。
具体的なエピソードとして、飲み会や合コンなどの食事会の時がかなり困りました。会が始まると、程なくして吐き気を生じて食が進まなくなるのです。大人数で、適当に大皿をつついて各自が食べたいものを食べたいだけ食べる方式なら、食べているような素振りをしておけば意外とバレませんでした。しかしコース料理で一人分ずつ分けて出てきたり、あるいは取り分けて配ってくれたりする場合は「食べてない」のが分かってしまうので、「いやー、今日ちょっと昼ご飯が夕方くらいになっちゃってまだお腹すいてなくて…」などと誤魔化すしかなかったです。それでも私にとって友人が声をかけてくれる機会は貴重なものでしたので、なんとか頑張って出席していました。
 さらに困るのは一対一の食事です。これはもう緊張の逃げ場もなければ上記のように誤魔化すことも難しいので地獄の時間でした。面と向かって、食事場面を全て見られるのです。上述のような言い訳でもしようものなら、当然ですが「会う時間決まってるんだからそれに合わせて食事時間調整しろよ…」と思われるはずです。私はお付き合いしている人がいない時期の方が多かったので、紹介やアプリを出会いの場に選ぶこともありました。しかし、そのような「もともと知り合いではない」人との関係の進め方というのは、メッセージなどのやり取りに始まり、初めて会うときはなんとかお茶だけくらいで済ませることができますが、多くのケースで2回目くらいには「ご飯に行きましょう」という話にならざるを得ないのです。その方の時間的都合によっては、初回からランチまたは飲みになることもありました。しかし私は親密でない方との食事はできないのです。なんとか大丈夫、大丈夫…と言い聞かせて会いに行っても、食べ始めると途端に強い吐き気に襲われ食べられなくなります。注文したものに少し手を付けただけで箸が止まり、症状を落ち着けるためにトイレに籠る。お相手からすると、「ご飯も食べないトイレも長いこの人はなんだ?何をしに来たんだ?」と憤ったことでしょう。健全な女性は美味しい食事を一緒に楽しめることを恋人に求めることが多いようですから、それができない相手に好意を持つのは難しいと推測できます。もしも病気のことを打ち明けたとしても、健康でない状態がデフォルトだなんてマイナスイメージでしかないでしょうから、言うわけにもいきません。食の楽しみを共有できない人間に需要などなく、それより先の段階に進んだお相手は皆無でした。
同年代の方が恋愛の階段を上っていく中、私はただただ第1ステージ敗退を繰り返すことになったのです。

その他にも“首の周りに物がある”状態のときにも同じような症状が出るようになりました。これはおそらく、当時の仕事で来ていた制服の襟が詰まっていたことに起因するのではと分析しています。それに着替えて、“仕事モード”になることでストレスを受ける。首に何かが触れることでそれと似た環境が生まれ、症状が出るようになったのだと思います。その症状が特に出たのは、髪を切りに行ったときに体が濡れないように首に巻かれるタオルでした。きつく巻いてあるわけではないのに、終わるまでずっと首を内側から絞められているような感覚になり、何とも耐え難い時間でした。それでも服が濡れてもいいとか髪の毛だらけになってもいいとは言えないので、耐えるしかありませんでした。冬の寒い時期を除き、襟のある服が苦手になったので、今でもシャツは襟の短いバンドカラーを愛用しています。そしておそらく、今後もスーツを着てネクタイを締めるような仕事は選ぶことができないのではないかと思います。

2) 嚥下障害

「嚥下」というのは物を飲み込む動作を指します。食事の際、ある程度咀嚼をして食塊が形成されると、あまり意識しなくても反射的に飲み込む動作が起こるのが普通です。
しかし私の場合、飲み込むべきタイミングで喉に蓋をされたように、食道に送り込まれず戻ってくることが時折ありました。その場合は意識してゆっくり少しずつ飲み込めば通りましたが、上記の吐き気と併せて「食べることへの不安」は大きくなりました。また、飲み込めても食道を通過するスピードが遅いということもありました。経験上、イモ類や蒸しパンなどモソモソした食塊になる物でそのような現象が起きやすかったです。フライドポテトが食道で止まりかけたときはかなり焦りました、私はイモが詰まって死ぬのか、と。

3) 機能性ディスペプシア

これは多くの人があまり耳にしたことのない言葉だと思います。機能性障害というのは、医学では「その部位に器質的な問題はないが、なんらかの要因で機能が損なわれた状態」を指します。ディスペプシアは「胃弱」「消化不良」を指す用語です。つまり、例えば胃潰瘍などの胃腸そのものに異常をきたす病変はないのに、胃の機能が弱化するのです。私の場合、一番ひどい時には文字通り「胃が働いていない」レベルにまで悪化しました。胃というのは、通常食物を取り込むとそれに合わせて拡張し、一時的に食物を貯め込むスペースを増やします。そして胃酸で食物を消化し、それを蠕動運動で腸へ送ります。大食いの方はこれらの機能が優れているわけで、特に胃の拡張能力が高いと言われています。その機能が停止すると、食物を食べても胃が拡がらないので、少ししか貯め込むことができません。そして消化も進まず、腸にも送られない。つまり、“食べたものがずっと胃の中に留まり続ける”のです。
例えば、朝ごはんとしておにぎりを1個食べたとします。すると、飲み込んだものが胃の中に入ると、そのまま「重さ」として“わかる”。明らかにさっきまで手に持っていた重さがそのまま自分の中に“ある”。そしてその感覚が夜になっても残っているのです。当然、胃はおにぎりの分だけ内部のスペースが占拠されるので、それが居続ける限り空きスペースがない、つまり“満腹でお腹が空かない”状態が続くので、それ以上の食事は摂れなくなります。食べたくても食べられない、そして胃の中に長時間物が留まって“動かない”感覚。これは非常に不快なものでした。
一応はちびちびと消化が進むので、朝食べたものを丸一日かけてなんとか胃から追い出す、くらいのリズムで過ごすことになっていました。当然、脂っこい食べ物などはさらに消化に悪いため、胃にへばりつくようで余計に重く感じました。当時はとにかく消化によさそうな、胃にとって“軽い”食べ物を、という基準で食べるものを選ばざるを得なかったのですが、それまで買ったことのなかった、コンビニの「塩むすび」が実はおいしいということを知ることができたのは怪我の功名だったかもしれません。食べたことがない人は食べてみてください。安くておいしいです。
私はそのような症状が出てから内科のクリニックを受診し、胃カメラで胃の内面に何の異常もないことを確認されて初めてその診断を聞くこととなりました。これに関しては内服薬である程度緩和できました。しかし、食べられない症状のほかに「寝転がると吐き気がする」症状があったのですが、この時の胃カメラにて「胆汁が逆流している」ことが明らかとなり、それが原因であるとわかったのです。症状としては胃から胃酸が逆流する逆流性食道炎と似たメカニズムですが、「胃→食道」ではなく「胆道→胃」と一段下の逆流症状だったのです。これに対しては、食後一定時間は横にならないことで対応できました。

4) 副腎疲労

副腎とは、腎臓に付属して様々なホルモンを分泌している器官です。副腎はホルモンを出して体調を調節することで多様なストレスに対処する機能を持っているのですが、ストレスが過剰になると対処しきれなくなり、その機能が低下するのです。するとホルモンの分泌量が減り、体調のコントロールが難しくなります。ホルモンバランスの崩れにより、様々な“不調”が現れます。その例として以下のようなものがあります。

「朝起きるのがつらい」
「寝ても疲れが取れない」
「だるい、何かをするのが億劫に感じる」
「今まで何ともなかった活動で疲れる」
「ストレスに対処できない 些細なことでイライラする、音などの刺激に過敏になる、他」
「病気やケガがなかなか治らない」
「めまい、浮遊感、立ちくらみ」
「軽度のうつ、空虚感」
「日中の眠気(夜は元気になる)」
「思考緩慢、集中力の低下」

ジェームズ・L・ウィルソン著「医者も知らない アドレナル・ファティーグ」より

いずれも“なんとなく調子が悪い”、“前はこんなことなかったのに”というような感覚であることが多いと思います。当然自律神経失調症自体の他の症状と混在するので、どこまでが副腎疲労の影響かは明瞭化できませんが、もしも原因のわからない不調が続くという場合はこれが考慮できると思います。私の場合、副腎疲労の影響を最も感じたのは低血糖症状です。副腎ホルモンの中には、血糖値を上げる作用を持つものがあるのですが、これの働きが低下することで食事摂取後の血糖値上昇が抑えられ、朝食で摂取したエネルギーを使い切る午前11時~12時頃に強烈な眠気、というより朦朧とする感じに襲われることがしばしばありました。なので、隠れて糖分補給ができるよう小さな飴やチョコレートを忍ばせて凌いでいました。

5) めまい

これは副腎疲労の症状とも重複するのかもしれませんが、時折めまいを生じることがありました。立ち上がると視界がゆらゆら揺れ、身体も揺れて真っすぐ立てなくなるのです。例えるならば、フェリーのような大型船の下の方に乗っているときのような感覚です。メニエール病などを疑い、一度耳鼻科を受診してみましたが特に問題はないようでした。

6) 味覚障害

これはもしかしたら新型コロナの症状で体験した方もおられるかもしれません。私の場合は、味がしないのではなく“食べたものの味がマイルドになる”という感じでした。例えば、水を飲んだ場合はそれがまるで牛乳になっているように、モタッとしたというか、角が取れたような味・舌触りに変わるのです。他の食べ物も含めて、まあ美味しくないわけではないので、そこまで嫌悪する症状ではなかったと思います。
また、辛みに対しても鈍くなっていたようでした。当時よく行く担々麺のお店があり、辛さを選ぶことができたのですが、ノーマルでもまあまあ辛く、いつもはノーマルか辛さ半分で注文していました。しかし味覚障害を生じているときは、「もしかしてさらに辛いのもいけるのでは…?」と思い、一度辛さ2倍にしてみました。
まあ余裕でしたね。全然辛くない。激辛好きの方とかは常にこんな感じなんでしょうか…?

7) 不眠症

体力的にきつかったのはこの症状かもしれません。自律神経が交感神経と副交感神経から成っていて、相反しながらコンディションを制御しているのは序言で書いた通りですが、日中活動するときに活発になっていた交感神経の働きが少しずつ弱まり、夜にかけて副交感神経優位になっていき心身を鎮静化させることで睡眠へとつながるのが通常の睡眠リズムです。
ストレスを感じている状態では、交感神経が過剰に興奮し、それが持続してしまうため副交感神経へイニシアチブが移らなくなります。すると身体が「眠るモード」にならないので、布団に入っても目が冴えてしまい、寝ようと思ってもなかなか眠りにつけないのです。入眠が数時間遅れる程度ならまだしも、ひどい時には朝まで一睡もできずそのまま仕事へ行く、という日も珍しくありませんでした。
通常、人間は睡眠によって自律神経のバランスを整えることで翌日の体調のコントロールをするのですが、そのプロセスが阻害されるので翌日の体調も悪くなります。皆さんも夜更かしをして寝不足、という経験はあると思いますが、そもそも自律神経を失調している人間がさらに自律神経を整えられないとなると、他の症状も余計に悪化してしまう負のスパイラルに突入します。
不眠症の対処には、副交感神経を優位にさせる様々なリラクゼーション法が有効ではありますが、自律神経失調の場合はその程度では不十分ですし、原因となるストレスが消えるわけではないので、おそらく眠剤を使って眠りを誘うのが最も即効性があり、楽な方法ではないかと思います。眠剤はいわゆる精神安定剤でもあるので、日中でも他の症状が強まりそうなときは半量で屯用、など適宜使用していました。私はできるだけ常用にならないように様子を見ながら使っていましたが、使いすぎると依存性を生じるようなので注意が必要です。

ここまでが、私の身に起きた「身体的な症状」の例です。
「自分も似ているかも・・・?」と思われた方がいれば、自力で何とかしようとせずにまずは病院へ行ってみてください。仕事や人間関係のストレスなどが原因か?と思われる方なら、心療内科・メンタルクリニックや、適切な漢方の処方ができる医師がおられる内科をお勧めします。

第3章後編では、心理的な症状と、そこから脱する気になったきっかけについてを書きます。

後編へつづく

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