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京都移住(2) 2016,心の旅

先の記事では、京都移住のきっかけとなった2016年の京都旅行について書きました。
そこで出会った、とある「宿」が移住をさらに後押しすることとなります。
本稿では、その宿について書きたいと思います。
なぜ一介の宿にフォーカスして書くのか?

それはその宿がもう存在していないからです。

私が出会った運命の宿、間違いなく人生の1ページにはっきりと刻まれている。
それがこの京都の地に存在していた証を残したい。純粋に自分のための記録。
感謝と敬意と憧憬を込めて。
(これを読んで、もし泊まりたくなったらすみません)

はじめてのホステル

京都旅は3泊4日・完全に一人だったのですが、京都まで来てビジネスホテルに泊まるのも面白くないな、と思い宿泊予約サイトで探していたところ、ゲストハウスやホステルもたくさんヒットしました。それまでは「家やビルを改装した、ただ寝るだけのところ」というイメージで全く選択肢にありませんでした。しかしサイトを見てみると、結構おしゃれな宿が多くて良さそうじゃありませんか。そしてその中で連泊できる宿を見つけて泊まることとなるのですが、その宿との出会いがその後の人生の分岐点になるとは、その時は思ってもいませんでした。

お世話になった宿の名前は「Hostel North+Key Kyoto(ノースキー)」。
残念ながら2021年に閉業され、現在は泊まることができません。

京都市は下京区、五条烏丸から路地を1本入ったところにある好立地。京都駅からでも歩いて15分ほどです。「鍵屋町通北入ル」から名付けられたのかなあと想像します。
4階建ての小さなビルを改装したホステルでした。

入口の外観 大きな看板でわかりやすい


旅行1日目の行程を終え、冬の嵐山を歩き回り冷えて疲れた体でドアをくぐります。
入ったらすぐ階段。スリッパがラックに整然と置かれており、それを一足取り履いていると
「こんばんは、どうぞ上がってください」と管理人さんが階上から顔をのぞかせます。
この管理人さんが岩本さん
本当に岩本さんの存在なくしてホステル/ゲストハウスの良さを知ることはなかったと思います。そしてきっと、ノースキーに宿泊した方の誰もがそう思えるくらいの心地よさを受け取ってきたのではないでしょうか。

まずは施設についてご紹介。
2階に上がったところに受付があり、宿泊手続きと支払いを済ませます。
受付のすぐ隣に共用ラウンジがあり、そこで利用方法や設備の案内を受けました。まずこのラウンジの温かみと、落ち着ける空間づくりに衝撃を受けました。家具や家電の統一感、センス良く散りばめられたグリーンやスワッグのボタニカル感。岩本さんの奥さんは以前花屋に勤められていたとのことで、その経験がいかんなく発揮されていました。
ラウンジの壁は一面が黒板になっており、京都市内のざっくりした地図がありました。そこに利用客がおすすめのスポットやお店の情報、メッセージなどを思い思いに書き込む。まさに「みんなで作る京都観光マップ」。みんな眺めているだけでワクワクが止まらなかったでしょうね。勿論私も例外ではありません。

巨大黒板マップ 先人たちから受け継がれるもの
みんなが集まれるリビング ここでたくさん話しました
木目調をベースに落ち着いたインテリア、グリーンのバランスも素晴らしい

2階は他に、シャワーや洗面スペースなどの共用部分が集約されていましたが、明るく清潔感にあふれた水回りに感動を覚えました。将来もし自分がマイホームを持つならこんな感じにしたい、と。


シャワー室と洗面台(※公式FBから拝借) 逆側がMEN

また一つ、特別な場所が「図書室」。他の部屋とは違うブルーの内壁、本棚には多彩なジャンルの本が並び、アートにも囲まれ、通常の時の流れとは少し違えた位置にあるような、そんな感覚になる素敵な空間。本は国内旅行・海外旅行関連のほか、京都ゆかりの森見登美彦の小説あり、旅人の聖書・沢木耕太郎「深夜特急」シリーズありと充実。ラウンジとは用途を別にし、静かに読書に耽るも良し、仕事や作業をするも良し。何時間でもいられそうな秘密基地でした。ごっそりそのまま家に欲しい。

ジャンルレスに豊富な本が並ぶ
壁や床に散りばめられたアート
窓際にはデスクワークスペース

3階・4階が客室になっており、個室のファミリールームが一つと、メインは男女で分けられたドミトリー(6人相部屋)。私が宿泊したのもこのドミトリーでした。
ドミトリーは解放感をテーマに作られており、ゲストハウスにありがちな2段ベッドではなく、一人一つのベッド。宿泊人数を抑えた分、ベッドはスペースを活かして少し大きめ、旅の疲れを癒すには十分すぎる嬉しい仕様。また、壁やカーテンがなく、頭元だけを棚で仕切ることにより広々とした部屋づくりがなされていました。さらにこのことは、宿泊者同士の心理的な壁をなくすことにも繋がっており、それぞれの距離感を縮める工夫にもなっていたのです。後に知ることになりますが、他の多くのゲストハウスではベッドのカーテンを閉めて籠る場合がほとんどです。なので、ノースキーのドミトリーはある意味大胆な部屋作りと思えますが、それがフルに活かされるのは管理人岩本さんの「つなぐ力」あってのものだったと思います。

開放感と清潔感溢れるドミトリー
私が実際に泊まったベッド 角は落ち着きます

4階には屋上スペースもあり、建物が低い京都市内では十分にあたりを一望できました。夜には京都タワーが煌々と輝き、朝には周囲の民家の瓦屋根や東本願寺を望む爽やかな静寂に包まれます。


屋上ベランダから見る夜景

近隣は閑静な住宅街ではありますが、老舗のお蕎麦屋さんや銭湯もあり、少し歩けば京都のローカルな魅力をさらに付加できるというのも非常に良かったです。僕も旅の疲れを癒すべく、教えていただいた銭湯・白山湯六条店へ行きました(ちなみにこれが初の銭湯体験であり、後に京都へ移住してから銭湯めぐりが趣味になります)。

白山湯六条店 多彩な湯船が揃うワンダーランド

つなぐ力


さて、施設のことはここまでとしても素敵なことが十分伝わったと思うのですが(自画自賛)、ノースキーのもう一つの魅力、管理人の岩本さんについて書いていきます。

岩本さんは元々関東のご出身で、以前はバックパッカーとして世界中を旅して回られていたそうです。その旅の道中で同様にバックパッカーをされていた現在の奥様と出会い、帰国後は2人で日本全国を旅されていたとのこと。様々な場所を巡る中で、宿を開くなら京都が良い、と京都の地に居を構えられたそうです。
人物像は、物腰柔らかく耳に染み入るトーンで話されるのがノースキーの雰囲気にベストマッチ、というよりその人柄が形になって宿になっていると言っても過言ではありません。
見た目はくせっ毛にメガネ、髪を伸ばされていたときは後ろでくくられておりお客さんに「アジカンのゴッチ意識されてますか?」と言われ、一方髪をほどくとモサモサの髪が広がって「森見小説の主人公意識されてますか?!」と言われていました(僕もちょっと思いました)。

岩本さんの何がすごいかというと、とにかくその「話しやすさ」だと思います。そこまで口数が多くおしゃべり、というわけでは全然ないのですが、初対面なのになんでこんなに話しやすいんだろう?と不思議に思うくらい自然と話せました。こちらに興味をもっていろいろ尋ねてくれるから、というのもありますが、話の展開の仕方も上手かったんだな、と思います。カフェなどのお店兼用になっている宿は別として、そもそも管理人さんがラウンジにほぼ常駐しているゲストハウスというのは珍しいです。なのでみんな岩本さんがいるラウンジが好きで、宿にいると部屋に籠らず自然とラウンジに集まる傾向にありました。もちろん他のお客さんも1人で来ている方が多く、お互いに完全に初対面ですが岩本さんが会話を中継ぎしてくれるおかげで、宿泊客同士も自然と話すようになります。
どこから来たのか、今日どこで何を見てきたのか、ご飯は何にするか、おすすめのスポットはあったか、明日どこへ行こうか… 見ず知らずの間柄でゼロからの関係だからこそ、というのもあると思いますが、本当に話題が尽きませんでした。
京都だからと言って旅行に来た方ばかりではなく、就職活動に来た方、お寺に修行に来た僧侶、マラソン応援に来た方(初回が2月だったので京都マラソンの時でした)など、宿泊客の身の上も様々であり、そこで会わなかったら、話さなかったら知らないままだった世界を垣間見られた、というのも良い経験になったと思います。
同じ空間を共有し、話すことで短い時間で「おやすみなさい」「おはようございます」を言い合える関係になる。
そしてそれを可能にするのも、間に岩本さんが入って会話を取り持ち、膨らませてくれるからに他なりませんでした。それが「つなぐ力」。ノースキーのもう一つの柱。「人とのふれ合いを大切にするホステル」というモットーを真に体現していたと思います。

一人旅に来ているのに仲間ができる。

旅行に来てそんな嬉しい経験があるのかと感動したことは、今でも私の中で色褪せずに残っています。


私が泊まった日の一コマ


手前でカメラを構えているのが岩本さん。奥でスケッチブックを持っているのは台湾から来ていたEくん。なんとほぼ日本語がわからないまま新潟からヒッチハイクで日本を回っていました。すごい。

旅を終えて


岩本さんや、ご一緒した宿泊客の皆さんのおかげで、私の有給消化京都旅は予想の倍は良いものになったと思います。
岩本さんは自ら京都のあちこちへ出かけられることも多く、観光スポットやグルメ、季節のイベントなどSNSでの情報発信もこまめに行われていました。そのことも私の京都への興味を深めてくれました。旅行者ではない、京都に住んでいるからこその目線で綴られる文章や写真の数々。まだSNSアカウントやホームページを残されておられるので、今でも時々見返して参考にさせてもらっています。

https://www.facebook.com/hostel.northkey.kyoto

ホームページに時折執筆されていたブログも岩本さんの人柄が良く表れており、読むとじんわり温かい気持ちになるものが多いです。ノースキーの魅力に触れ、岩本さんが歩んできた道と京都と世界のことを知れば知るほど、それらへの憧れが積み重なっていきました。


そしてその数年後、

そうだ京都行こう

の境地へ至り、京都へ移住することを決めたのです。

移住直前、京都での部屋探しの際にもノースキーにお世話になり、その時も最高の時間を過ごさせていただきました。
京都に住み始めてからは、住んでいる以上宿泊することはありませんでしたが、SNSは大いに参考にさせていただき私も数多のスポットを巡ることになりました。また、時に岩本さんにメールで相談にのっていただき、後に初の海外一人旅へと繋がるのです。
そんなノースキーですが、惜しまれながら2021年5月に閉店されました。
理由は様々あるようですが、とても素敵な岩本さんファミリーはどこでも何をしてもきっと輝けると思っています。そしてノースキーと岩本さんから頂いた時間・体験・ホスピタリティを受け継ぎ、未だ見ぬ誰かへ伝えられるようにもなりたい、そんな風にも思います。

京都でのかけがえのない数日があって、私はいま京都で自分らしい暮らしを構築できつつあります。
この出会いがなければ、今の私はいません。
京都で巡り合い、京都の良さを教えてくれたみなさんに感謝しています。
そしてこのnoteをお読みいただいた方々、移住を考えている方々、京都は住むのにもいいところですよ。

いつかまたどこかで、岩本さんファミリーとも宿泊客の方々ともご縁があることを願って本稿を締めくくらせていただきます。


泊まった後で知ったのですが、なんと当時の何かのサイトで国内ゲストハウスランキングで大賞。知らずに1位を選ぶ幸運。でも泊まれば分かる、そりゃあ1位だと。

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