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一期一会と言えなかった「ありがとう」

マラッカ

かつて東西貿易の中継地として栄えたマラッカ王国があった場所だ。

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クアラルンプールからバスで2時間半。その日はとにかく暑かった。

宿でチェックインを済ませ、荷物を整理してからクアラルンプール国際空港までのバスを予約しにマコタメディカルセンターへ向かった。往復約40分。太陽が私の肌をさす。ひからびそうだ。

バスの予約をし、宿に帰るつもりだった。しかし、喉がカラッカラだ。宿の近くで水を買おうと思い、散策した。宿から徒歩数10秒のところにある小さな個人経営の雑貨屋を見つけた。私はそこで水を買った。

店主のおじさんとおばさんにお礼を言うと、彼らが訛りのきいた英語で「どこからきたの? どれくらいいるの?」と話しかけてくれた。お互いに母語は英語ではないため満足な会話はできない。しかし、私が笑いかけると、彼らも笑いかけてくれた。1人旅で冷め切っていた心があたたかくなった。

なんとなくその雑貨屋が気に入ったので次の日も朝と昼、二度も水を購入しに……というよりも彼らに会いたくて雑貨屋へ立ち寄った。その度にあたたかい笑顔を向けてくれた。

その翌日、私はバリ島に向うために空港へ行かなくてはならなかった。マラッカを去る前にお礼を言いたくて、手持ちのノートを丁寧に切ってメッセージを書いた。それをハート型に折って五円玉を入れた。

次の日の朝、雑貨屋へ行くと開店前で誰もいなかった。開店時間よりもバスの出発時間の方が早かったのだ。私は一言「ありがとう」と呟いて、扉に紙のハートを挟んでバス停へ向かった。目からこぼれ落ちそうな水を我慢しながら。

明日会えると思って言わなかった「ありがとう」直接伝えることができなかった「ありがとう」なんだか切なくなった。

空港に向かうバスの中で思いを巡らせた。「今度マラッカに行ったら会えるだろうか」と。

旅は出会いと別れの繰り返しだ。連絡先を交換していなければもう一生会えないかもしれない。

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そういえば、マラッカで泊まった宿の壁に大きく「一期一会」と書いてあった。

この先の人生でどれだけの人と出会うだろう。私にとっていい出会いも悪い出会いも、きっと何が意味を持っている。そう信じている。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。とっても嬉しいです。また読みに来てください!