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人生で初めて富士山に登った日


まさか前日まで富士山に登るなんて考えていなかったが、気づいたら登山道具を借りて、バスで富士宮ルート6合目(2400m)まで到着していた。

富士山ポーズ


登山という登山も今までしてこなかったのに、急に日本一高い山に登る決断ができたのも、実際は富士山がどのくらい大変かも考えずに、登り始めていたからだった。

順調に6合目(2490m)に到着。まだ呼吸も整っているし、友人らと話しながら楽しく登っていた。友人の一人は登山が趣味のザ・ノルウェー人。彼のアドバイスで昨日エナジードリンクや、ナッツなどを買い込んでいたので、道中休憩を挟んで、栄養補給。

日本のビーフジャーキーとエナジードリンクがノルウェー人たちに好評だった


道のりが長く感じ出したのは7合目以降。旧7合目の先に本物の7合目があり、本物に辿り着くまでが精神的にキツかった。そしてその後の道は石がゴツゴツした急な崖。足を踏み外すとそのまま下まで落ちてしまいそうだった。


8合目付近から酸素を吸入することにした。それでも高い標高のため何度もやってくる頭痛。急に登りすぎると高山病になるため、登るスピードも気をつけなくてはいけない。

富士登山は人生に似ている。
ゴールは近いようで、遠いかった。
最初は一歩一歩ゴールに向かって順調に進んでいたのに、途中で急に心が折れてやめたくなる。そこで耐えて進み続けるどうかが肝心だとは知っていても、休憩を取る回数が増えて、もはや休憩している時間のほうが登っている時間よりも多くなったんじゃないかと思うくらいだ。

頂上がもう見えるくらいまで登ってきた9合目は、そのまま立っているのもままならないくらい息が苦しかった。


やっと9.5合目(3600m)までやってきた。ゴールはもう見えている。
でもそのあと170mがとてつもなく遠い。

日本一高い場所にあると呼ばれている鳥居が見えた。その向こうに頂上がある。


あたりは真っ暗になっていた。満点の星空が私たちの心を明るく照らしてくれた。頂上まで登りきるべきか、下山するか。それぞれの想いを抱えてここまで登ってきたのに、下山するのか。



私たち四人は富士山に登るかどうかは保留にして、とりあえず富士河口湖を目的地に設定し、東京からレンタカー車を走らせた。高速道路に乗って八王子を過ぎ、大月で降りたら、富士山が見えた。

元々友人達7人で富士山に登る計画だったが、何人かは登るのではなく観光することに決めて、結局私たち4人が残った。その時から富士山に登るより河口湖付近を観光したほうが楽しいんじゃないかって思い始めていたが、とりあえず、着いてから決めることにした。

登山前日、ホテルの近くのレストランで、どのルート(吉田ルートか富士宮ルート)で行くか、道具はどこでレンタルするか、何時に出発すればいいのか、話し合う。すべて考慮したところ、当たり前だがこれは何週間も前から決めることで、前日に決めるのは無理があると分かった。やっぱり登山よりも観光の方がいいのかもと話しになった後から、一人が急に静かになった。彼は表にはあまり出してはいなかったが、実はこの富士登山を心の底から楽しみにしていたのだと、私たちは気付いた。そこまでの思いで富士山に挑むつもりだったのなら、こうなったらあらゆる手を尽くしてでも富士山に登ろうと決心した。

レンタカーのおかげで遠回りではあるが、吉田ルート付近の山道具屋で必要な道具をレンタルして、富士宮ルートの入り口に向かう。マイカー規制で5合目までレンタカーで行くことはできないため、水ヶ塚公園駐車場で車を止めてシャトルバスに乗り換える。バスの時間は1時間に1本。増幅便もやっているとは聞いたが、帰りのシャトルバスは17時が最終のため、夜下山した後はタクシーで駐車場まで戻る。お金も労力もかかるが、とりあえず登って戻ってくるのが可能なやり方を見つけた。


9.5合目(3600m)からの満点の星空。


自分の限界を超えていた。
頭が痛い。呼吸が苦しい。その時の気温は5℃だった。
寒くても、前に進まなければさらに苦しくなる。

富士山に登ったことを後悔もして、半分泣きながら下山していると、登山を一番楽しみにしていた友人が、荷物をもってくれた。
気持ち軽くなった分、深呼吸をしてゆっくりと進んでいく。

やっとタクシーの待つ5合目まで到着したころには、夜中になっていた。つまり私たちは12時間も登山していたことになる。富士登山がこんなに過酷だなんて最初に知っていたら登らなかったかもしれない。
日本一の山に登った今なら、この先人生どんなことがあっても乗り越えられる気がする。


見たことなかった景色に出会った瞬間


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