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ぼくはなぜ、クリエイティブでありたいのか

前回、オシロ社の社員の給与の種類が多いという話をしたが、その根底には「どうすればクリエイティブになるか」という考えがある。

今回は、クリエイティブでありたい、という思いについて伝えたい。

常々、ぼく自身も社員も組織全体でクリエイティブでありたいと思っているが、今回はぼくの考える「クリエイティブ」について、尊敬している本田宗一郎さんのマインドと、オフィス環境を通して紐解いていきたい。

尊敬する人は本田宗一郎

「クリエイティブ」とは「創造的な」「独創的な」という意味だが、ぼくは「創意工夫」とも定義する。

ぼくにとってクリエイティブだと思う人は、Honda(本田技研工業株式会社)の創業者である本田宗一郎さんだ。個人的にHondaのオートバイに乗っている。彼が通った鰻屋さんに食べに行ったりもする。そして、毎年1,2回は彼のお墓参りにも行く。

少しでも彼に近づきたい。だからこそ、お墓参りに行くと彼に会えるような気がする。そんな彼をぼくは、クリエイティブの極みだと思っている。

本田宗一郎さんは、まだ誰も成し遂げていないことを成し遂げ続けてきた人物だ。
そもそもオートバイの開発も、自転車で買い物に行く奥さんのために、自転車に小型エンジンを取り付けたのが始まりだった。そんなオートバイの代表格であるカブは、今なお世界中で愛されている。

資本金に対して、30倍の値段がする工作機械を欧米から輸入し、品質を追求した。オートバイレースで世界一になると宣言してそれを成し遂げたかとおもえば、まだ四輪に参入していない上に、高速道路もない時代の日本でF1ができる欧米レベルのサーキットをつくってしまう。さらにはレースの経験から画期的な低公害エンジンを開発してしまったり、F1でも世界一を達成したりと、本田宗一郎さんの成し遂げた偉大な業績の足跡を辿ると、仕事への情熱と愛が強く感じられる。これらのことは、独創的な発想と創意工夫なしには辿り着けない境地なわけで、紛うことなく偉業だと思う。こうしてオートバイで世界一、自動車では世界4位(日本では2位)のメーカーになる。すごいなんてもんじゃない。日本人として誇りに思う。

彼をクリエイティブだと思う理由はまだある。その一つに自宅の天井にテレビを埋め込んで寝ながら観れるようにしたというエピソードも(笑)。そのことに感化されてぼくは、車のシートにマッサージがあればいいのにと思い、マッサージシートを購入して、座席に取り付けてみたことがある。座高が高すぎて運転に支障が出そうなため、あえなく取り外した。

他にもクリエイティブだと思ったことは、「人の心に棲んでみる」と表現されたくらい、相手の気持ちになれる能力が優れていたとされる。観察という域を超えていて、まるで相手に憑依したかのように「その人のまなざし」に迫っていくことができる。ただ「目線を合わせる」という生半可なものではなく、相手の立場や心情から見えてくる情景を的確に捉える。まさに人の心に棲む能力があるからこそ、人々が喜ぶものづくりができたのだろう。

もうひとつは果敢な失敗。何事もまずは「やらまいか」(やってみよう)のマインドだ。多くの失敗の先に成功がある。その精神は大事だけど、持ち続けることは非常に難しい。失敗に怯まず、チャレンジを続けて研ぎ澄ませていく。その営みこそが、まさにクリエイティブの極致であるともいえる。

そして、本田宗一郎さんがいなくなっても、Hondaは魅力的な製品を生み出し続け、世界中の人々に愛されていることも素晴らしいことだと思っている。ご本人がいなくなった今も、文化が継承され、売上も過去最高を記録されていること、彼のDNAが残っているということに感動する。情熱は残せないものと思いきや、残せるのだと感服した。

最近クリエイティブだと感じたのは、「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムさんのオフィスを訪れたときのこと。今年2024年3月に新しく移転されたオフィスを代表の青木耕平さんに案内していただいたのだが、その美意識の高さに衝撃を受け、鳥肌が立った。

これ以上ミニマムにできないのではないかというデザインそのものもそうだし、整理整頓されているなかにも創意工夫があった。例えば、ドアノブのデザインからはじまり、細かいところで言うと巾木の高さとか。会議室にあったハーマンミラーの机にコンセントが増設されているけれど、純正のような佇まいで自然にカスタマイズされていた。会議中に電源を取る際にも使いやすく、きれいに使えるという工夫がされている、なんて美しい配慮だろうと思った。(詳しくはクラシコムさんのHPにて

後日「なぜオフィスがあんなにきれいなんだろう」とサディ(オシロ取締役でもある佐渡島庸平)に尋ねると、サディは「整理されているのは、青木さんの思考と一緒だね」と言った。なるほど、そういうことか。つまりぼくらのオフィスがあの境地まで片付いていないのは、ぼくの頭の中が整理されていないからなのかと自分を恥じた……。

クリエイティブでいることは幸せである

「クリエイティブ」を紐解いていくと「創意工夫」が見えてきたが、さらに「創意工夫」を紐解くと「ラテラルシンキング」があると思う。

よく言われているのは、「トラックが荷台にたくさんの荷物を積んで橋の下をくぐろうとしたとき、高さが引っかかって通れない。でも引き返すと何時間も遅れてしまう。あなたならどうする?」という設問。

ラテラルシンキングの人は「橋にぶつかりそうな高さを見て、その分のタイヤの空気を抜いてくぐり、遅れないように荷物を届ける」といった考え方ができるそうだ。ぼくはこうした発想はとてもクリエイティブだなと思っている。

ぼく自身もクリエイティブでありたいし、社員にもクリエイティブであってほしい。

そんな思いから、天井の高いオフィスを持ちたいとずっと思っていた。なぜなら、空間の天井が高いとクリエイティブになれるというデータ(※)があり、これを一般的に「カテドラル効果」と呼ばれている。いまの新しいオフィスは天井高が5メートルもある。このオフィスを契約後に、天井が高すぎて会議室のパーテーションをつくれないことに気づき、「どうしよう、どうしよう」と慌てふためいたことは記憶に新しい。

そこで、天井が高いことを逆手に取って「そうか!ここに小屋を建てることができれば、会議室にもできるし、見た目もよくなるだろう」と思いついた。こうして誕生したのが、今のオフィスだ。

ぼくらのオフィスは天井高5mの空間にタイニーハウスが建っている


オフィスのいたるところにアート作品が展示されている

他にもオフィスには、個人的に購入したアート作品を30点ほど展示している。鑑賞用でもあるし、身近にアート作品があることで社員が無意識にクリエイティブになれるように、という願いもある。

クリエイティブディレクターの杉山恒太郎氏のジュークボックスがオフィスにあるのも珍しいかもしれない。当時のレコードを当時の機器で聴く、タイムマシーンがオシロのオフィスにはあるのだ。クリエイティビティをかき立てるオフィスという意味でも、オシロのオフィスは「カテドラル・オフィス」といえるかもしれない。

杉山恒太郎氏のジュークボックス、定期的にイベントも開催する

※参考資料:Situative Creativity: Larger Physical Spaces Facilitate Thinking of Novel Uses for Everyday Objects

よりクリエイティブな環境とマインドを育みたい

ぼくにとってクリエイティブであることは、マイナスをゼロにするのではなく、プラスにすることだ。マイナスをゼロにするのは「改善」という感じがしていて、さらにプラスにしていくには知恵や工夫が必要だ。その過程にはその人にしかできないことや個性が表れる。だからこそぼくはクリエイティブであることに豊かさや面白みを感じている。そして幸せだという感覚もある。

ただし、クリエイティブであるために、マインドは必要条件であるが、それだけでは不足していると思う。人間がクリエイティブであるための、もうひとつの重要なファクター。それは環境だとぼくは考える。

例えば、もしも天才であれば環境などものにせず、自分一人で素晴らしいものをつくりあげるセンスを持っているかもしれない。しかし、一人の才能で生み出したり、創造できるものには限界がある。そういった壁に直面したとき、炎のようなモチベーションは下火になって、やがて創意工夫もなくなってしまうこともままあるだろう。

環境とは、ただそこにある空間だけではなく、同じ空間や環境をともにする人と人同士の営みによって紡がれる生態系ともいえる。そこには自分以外のマインドがあり、その交わりから熱量が高まっていく。そうして一人ではできない、大きなチカラが生まれていく。

ぼくはオシロという会社、そしてオシロが構えるオフィスは、クリエイティブな環境であると同時にクリエイティブな「マインドも育める場」でありたい。自分一人ではできないことを、みんなのチカラをあわせて追求していきたい。だからこそ、ぼくはみんなでクリエティブになりたいと思っている。

以前書いた「コミュニティはウェルビーイングなのかもしれない」で触れたが、幸福度が高いと創造性が3倍になるというデータがあるが、ぼくは、クリエイティブだからこそ幸せになれるのでは?と考えている。それはさながら、アランの幸福論「幸福だから笑うのではない、笑うから幸福なのだ」と同じように。

社員がよりクリエイティブになれる環境をつくり、クリエイティブでいれる感性も育み、幸福を感じてほしい。そして世の中の人々がコミュニティのチカラでさらにエンパワーメントされクリエイティブな体験を通じ、人生をより幸福に感じてほしいと願う。

次回は、人々が趣味や偏愛するものでつながる好影響について綴ってみたい。

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