パタゴニア×オシンテック対談~いい会社から聴いた、いい話のお裾分け~イベントレポ(対話編)
みなさんこんにちは!
書き起こし担当のかずえもんです。
2月に神戸で行われたパタゴニアさんとの対談、こちらが書き起こしの最終回です。
(これまでのお話→パタゴニア編、オシンテック編)
NGOとの対話が大事、とは?
篠:小田さんのお話を聴いていてお伝えしたいのは、NGOとの対話について。NGOとは30年ほど前から対話を続けています。動物由来のウールやダウンの繊維を使っているんですが、ヨーロッパの「フォーパウズ」という団体から、批判を受けたんです。ガチョウやアヒルの羽毛は、フォアグラや北京ダックの副産物であることが多いんですね。その団体から、「パタゴニアのダウンは強制給餌された鳥のものだろう」と指摘されました。それで改めてサプライチェーンを点検する必要が出てきました。動物福祉というのは、その途中だけでなく、卵まで遡る必要があるんですね。その指摘のお陰でサステナブルなダウンのスタンダードを作りました。彼らの指摘がきっかけでつくったパタゴニアのダウンのスタンダードは、いまや世界のスタンダードになっています。こんなふうに、活動自体がルールになるんですね。私たちはビジネスをこれからも続けたい。100年後を見据えて仕事をしているんです。壊れゆく自然を見てきましたから。環境が壊れたらビジネスは続けられないんです。だから環境危機に警鐘を鳴らして「ビジネスを手段として」解決に向けて実行しています。
環境の危機と使命感、それがブランドを作っていく
小田:やはりビジネスは社会の構成要素として、影響が大きいものですよね。企業の目的をどこに置くかというのは非常に大事ですし、いままで以上に大事になってきていると思います。どうしても企業は営利を追求しますから、稼いだ額に目が行きがちですが、お金は経営資源であって、目的じゃないんですよね。パタゴニアさんは製品を通じて思いを伝えています。消費者はそれを受けて応援したいと思う。ブランドはそうやって作られていくんだなと思いますね。いまの地球環境がどれほど危機的なのか。ここを知っている人ほどこの話は腹落ちすると思います。解決することが使命だと思って働く人はやる気だって出る。この環境危機によって使命感がわき、仕事の質も高まっていきます。いまは平常時なんかじゃない、その認識を持つ人はまだ少ないですが、確実に増えていくと思っています。パタゴニアさんでは、そんな使命感に燃えている人が多いんですか?
1%の違いとクライメート・ジョブ
篠:そうですね。若い方との交流が増える中で、ミッションに賛同して入社を希望してくる人が増えていますね。でも、私たちの会社だって経費や売上の目標があるんですよ。99%はほかの会社と同じなんです。わずか1%が違うだけ。これはちょうどチンパンジーと人間のDNAの比較のようなものなんです。企業のやり方とか、コンプライアンスとか、基本的に同じ。ただ、今日も会社でディスカッションしてきたんですが、あらゆる仕事が「クライメートジョブ」だと。気候危機とか、生態系危機だとか、そういうことの解決につながっているかどうか認識を持ってもらおうとしています。ポール・ホーケンさんの立ち上げた「プロジェクト・ドローダウン」という団体が言っていますが、マーケティングだって、経理の人だってクライメートに貢献できると言っています。何らかの形ですべてつながっているということを改めて確認しようと。
小田:仰る通りで、うちの事業は気候変動に関係ないね、ということはまずあり得ないはずです。RuleWatcherの気候変動のルールトレンドを使ってくださっているお客さんでも、いろいろな大学の方、いろんな企業の方、そのなかの色んな職種の方がいて、みんなが幅広く関わっていることがそこからもよくわかります。毎年のように水害があり、じわじわとその影響を感じ取る人が増えています。生死にかかわる大きな問題であるという認識がこの後も停滞することなく広がっていくはずです。
参加者からの質問「社会課題解決とビジネスのどっちを追求するのか?」
篠:経営権の委譲の話をさせてください。
パタゴニアには議決権のある株式2%と、財務的価値はあるが議決権のない株式が98%あるんですね。それで、創業者のシュイナードは、前者をPatagonia Purpose Trustに、後者を環境NPOのHoldfast Collectiveに全て譲渡しました。このNPOは配当を受けて、気候危機対応などに資金を投下していきます。議決権付き株式を譲ったPatagonia Purpose Trustがパタゴニアの組織のミッションを握っていて、そして、それは変更できない枠組みになっています。私たちは、「正しいことをやれば利益はついてくる」という経験則があります。もちろん円安や資源高などがあり、そんなに単純ではありませんが、結局のところ、社会がどこに向かっているかを考えれば常に先回りになるわけですから。私たちは先回りしようという意図ではありませんが、結果的に先を行っています。
小田:向き合っている事象が単なる流行なのか本質的なことなのか、これを見極めることは、常に自分自身にも言い聞かせています。おそらく世間では「SDGs疲れ」だとか「ESG疲れ」だとか言われそうな気もしていますが、向き合っている問題が本質的に大事なら、世間がいったん離れていったとしても必ずそこに戻ってきます。そうやって、結局はシンプルに経営するのが最も合理的なんじゃないかと。経営はやっていればいろいろ難しいことはありますが、ありたい社会はどんな社会だったっけ?を常に問うようにしている。僕らの会社は、「ありたい社会の縮図」だと思っていますし、お付き合いしている会社や組織との関係性もまた、ありたい社会の縮図だと思っています。それが結局経営の良循環を生んでいく、つまり社会課題解決とビジネスは同じだと思いますね。
参加者からの質問「自分の仕事を家族などのステークホルダーに理解してもらうための工夫は?」
篠:私たちの会社はアウトドアの会社なので、例えば子供とは毎週アウトドアの体験を一緒にしていましたね。それが仕事を理解してもらうのに一番いい方法でしたね。
小田:うちの場合は、こういう話をしょっちゅうしていて、それが、家族の共通の話題になっています。仕事の話=子供には分からない話、というふうにせずに、みんなに関係がある話題なので。
篠:自分の場合、なんでこういう仕事をするようになったかを考えると、母親の影響なんですね。子どものころから、無添加の食材などにとても拘ってくれたんですね。東京生まれ東京育ちですが、夏などは山や海に連れて行ってもらったのは自分の原体験として大きいですね。
小田:パタゴニアさんの「社員をサーフィンに行かせよう」という本を15年ぐらい前に読みました。当時、Googleなんかもありましたが、ピカイチだなと思いましたね。オシンテックの場合は、「ティール組織」という運営をしていて、働くメンバーを信頼して使う時間を完全に任せていますが。この本に出てくる「遊びと仕事と家族を曖昧なほうがいい」というメッセージもいいですね。波が来たらサーフィンに行きたい、パウダースノーが降ったらスキーに行きたいじゃないかと。
篠:採用の時に、「ほんとうにいつでもサーフィンに行っていいんですか」と訊かれたことがあります(笑)。これはサーフィンに限らず、いつ家族が具合が悪くなるかというようなことも同じで、いい波が来たときにサーフィンに行けるように、ふだんから準備しておけよ、というのが本来の意味なんです。仕事と遊びの間を曖昧にしておく、というのは、アウトドアに行くほど製品へのフィードバックになって会社の業務に活かせるんですね。そんなふうにベネフィットは行ったり来たりするんだと思いますね。
真人:突き詰めると、ひとりひとりが自分でいいと思ったことをやったらいいじゃないかと。上司の指示を仰ぐんじゃなく、自分の可能性をはっきしていこうよと。中央集権型の組織がずっと続いていきましたが、いま分散型自律組織に注目が集まってきているなかで、社員をサーフィンに行かせよう、はシンボリックだと思いますね。その方が成果が上がって、社会的な課題の解決にもつながると思います。
参加者からの質問「いまと昔の違い、危機感を感じている部分について、もう少し詳しく聞かせてほしい」
真人:インターネット上の日本語の情報っていうのは2%ほどしかないんです。日本語のメディアだけで満足してはいけないと思っています。一昨年、イギリスでのCOP26(国連気候変動枠組条約締約国会議)に行ったときのことなんですが、現地の情報と日本語の情報では、同じものとは思えないほど中身が違っていたんです。情報って言うのは、それを発信する人が意図をもって行うので、それを分かったうえで受け取るというリテラシーが必要なんですね。さて、その中で何が大事かを問われて、仮に一つをあげるとするなら「生物多様性」ですね。ここ最近、気候変動のことに注目が集まってきていましたが、イギリスで生物多様性の経済学(通称「ダスグプタ・レビュー」)が発表されて、経済の文脈でその生物多様性の保護と再生のためのルールが固まってきています。去年の暮れにその条約会議がモントリオールで開かれたんですが、そこで決まった国際ルールは「各国が陸域と海域の30%を保護する」というものです。ここにビジネスの力を原動力にして環境を変えていく、本質を理解したうえで実行していくということが求められていくと思います。
篠:環境保護についていまは、「サイエンスベース」「エビデンスベース」になってきました。優先順位付けにも科学にもとづいてやっていこうという感じが強くなってきました。もちろん1972年にローマクラブの成長の限界が発表されて、そこからやってきた人は居るんでしょうが、全体としてはもっと取り組みが感覚的でした。海外はNGOと科学者は一緒にやってきたし、NGOのなかにも科学者がたくさんいるような組織があります。それが日本でもようやく少しずつ出てきました。私も東北大学の近藤道夫さんという環境DNAの研究をされている方に関わっていますが、そういう環境の客観評価を用いた保護をNGO側と話しながらやっています。しかしここでもデータの使い方などが難しい。そこのリテラシーも問われています。小田さんはこのあたりをどう捉えていますか?
真人:最近はエビデンスベースドの先にエビデンスインフォームドということが大事だと言われ始めてきました。なぜならエビデンスベースドを待っていられないということがあるからです。可能性を捉えて活かしていくと。ユネスコも最近、「オープンサイエンス勧告」を出してきていて、地球の環境が深刻なので、協力して解決していくことを促しています。正確性の評価はつきながらも、公開を推奨する流れを盛り上げてきているんですね。それと、いまだからできることに付け加えたいのは、インターネットの登場と翻訳技術・AI技術ですね。国境を越える力、言語を超える力を人類がついに持てたのに、我々はまだ使いこなしていないんですね。ローカルに点在している知恵も使えますし、若い人にとっては、データが武器として使える、ということが変化を生む要因になる思っています。
参加者からの質問「B Corpについて聞きたい、取得して何か影響は?」
篠:パタゴニアがB Corp認証を取得したのは2011年です。当時のCEOが、「これは、いままでの中で最も大事なムーブメントだ」と言っていました。B Corpは認証として取得することが目的であるかのように捉えられることが多いんですが、実際はそうじゃないんです。そこはあくまでプロセスで、Theory of Change(変化の理論)であって、ビジネスを力にして、社会をよりよく変えていくというツールとして、識別として使わせてもらいました。最初は100点そこそこだったんですが、再取得のときに150点ぐらいになっています。もう一つはムーブメントであるという点。コレクティブ・アクションがさらに重要になってきていますが、単独では難しい問題だったとしても、束なっていくことによって変えることができる。これも昔はできなかったことが今できるようになったことの一つじゃないでしょうか。
小田:B Corpの150点はめちゃくちゃすごいんですよ、じつは。B Corpの合格基準は80点なので、ほぼダブルスコアですから(笑)。
小田:僕たちもそうなんですが、B Corp企業は「相互依存の宣言」というものにサインをします。お互いに助け合って、このムーブメントを作っていきましょうと。この相互依存の覚悟というものは、この時代に大事なことじゃないかと思いますね。
参加者からの質問「B Corp企業のコラボは?」
篠:3月はB Corp Monthといって、各リージョンでの活動があって、私もその委員なんですが、オシンテックさんも参加される日本で初めてそのフェアがあります。海外でクライメート・コレクティブなどのテーマをもって、そのムーブメントを高めるための活動をしたりします。二年前はアジアのB Corpの活動で一緒にやったりしました。例えばB Corpのコスメ業界のコレクティブなどもあって、業界ごとの活動をしたりもしています。
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いかがでしたか?社会課題の解決とビジネス。これからのみなさんのお仕事や学び、市民活動の参考にしていただけたら幸いです!
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