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谷崎潤一郎著『瘋癲(ふうてん)老人日記』


先日、誕生日を迎え、一つ歳をとった。
何歳になったのか?
それはさておき、
残りの時間を示す針が絶え間なく動き続けていることを、
時折ひしひしと感じる年頃ではある。

そんな日々のなか
足掛け3カ月、正味2カ月の時間をかけてドストエフスキー作『カラマーゾフの兄弟』を、読んだ。
(光文社文庫版、亀山郁夫訳 本編1から4部。エピローグ付き)

足掛け3カ月の日々、時間を惜しいとは思わない。
理解出来ないところもあり、
何度か立ち止まりもしたが、
理解出来ないところは理解出来ないものとして先へ進み
読了した。

この“終わらない物語”が私に残したものは数限りなく
それは私がこの先の人生を送るなかで、時々胸を過り、現れるのではないか、と
今は思っている。



『カラマーゾフの兄弟』を読み終わり、未だ眼の疲れが残るなか、
毎日新聞の読書欄でこんな紹介記事を読んだ。

現代詩作家、荒川洋治氏の評文だ。

谷崎潤一郎著 『瘋癲(ふうてん)老人日記』
読んで楽しい。後から思うと、いっそう楽しい。
「瘋癲老人日記」は、谷崎潤一郎最晩年の長編。「不良老年」卯木督助(うのきとくすけ)の日記だ。
漢字とカタカナ。読みづらいがすぐ慣れるので大丈夫。

督助七十七歳。裕福で教養も豊か。でも体のあちこちの病と痛みに苦しむ、
ヨボヨボの老人。今日は「シヌンヂャナイカナ」と思う日々。
そこに光がさす。
(中略)
死を前にした人の目の奥には、とてもひろいもの、深いものがある。
そこで人は新しい世界と出会うことも出来るのだ。
そして真の文豪の作品は、どの人がどのようになっても、
その姿を見つめる、おおきなものなのだ、ということがわかる。
長く生きた人、長く生きたい人の心の底にひびく、
谷崎潤一郎の最高傑作である。

毎日新聞2月11日付「今週の本棚」現代詩作家 荒川洋治氏評


「読んで楽しい。後から思うといっそう楽しい」
この一文に惹かれた。
「谷崎潤一郎の最高傑作である」と断言し、褒めちぎっているところも良い。
これは読まずにいられない。

中公文庫『瘋癲老人日記』
早速読んだ。

中公文庫版「瘋癲老人日記」版画は棟方志功



漢字とカタカナだけの文章は、とても「大丈夫、すぐ慣れる」とは言い難く、
最後まで慣れず、読みづらかった。
しかし、読みづらいのに、必死になって文字を追ってしまう。
それゆえに深く心に入ってくるのだろうか。

「不良老人」督助の、“残された時間”を必死に生きる姿が愛おしく
独特の世界に引き込まれる。
文庫版約250ページ。
ほぼ2日で読了した。



「カラマーゾフの兄弟」への長い旅を終えたばかりの私には、
温かく、味わい深く感じられる日記帳だった。



最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ヘッダーの写真は、自宅近くの公園に咲く桜です。