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推し活翻訳9冊目。The Last Bear、勝手に邦題「白夜の島でクマくんと」

原題:The Last Bear
原作者:Hannah Gold
勝手に邦題:白夜の島でクマくんと
 
概要と感想
 
11歳のエイプリルは4歳のときにお母さんを事故で亡くし、いまは、ワーカーホリックなお父さんと二人暮らしです。お父さんの仕事の邪魔にならないよう、家では、裏庭に住みついたキツネと遊んだり、簡単な食事を作ったりして過ごします。
 
友だちはいませんが、理由はわかりません。自分がキツネくさいからか、クラスでいちばん背が低いからか、それとも、庭木バサミで髪の毛を切っているからなのかも。まあ、どれが理由でも、エイプリルは人間より動物が好きなので、それほど気にはしていません。動物のほうがずっと優しいし、動物たちと心を通わせるやり方がわかっているからです。
 
あるとき、お父さんあてにノルウェーから分厚い封筒が届きます。北極圏にあるBear Islandで半年間、気象観測をする仕事が決まったのです。Bear Islandにはホッキョクグマはもういない。それに、人も住んでいない。そう教わったエイプリルは思いました。じゃあ、ずっとお父さんと二人っきり? 一緒にいっぱい遊べるかも!
 
けれど、ノルウェーのトロムソから貨物船に乗せてもらって島に着くなり、お父さんはさっそく仕事に取りかかります。そして、家にいたときよりも仕事に時間を取られるようになり、ちっとも遊び相手にはなってくれません。貨物船の船長の息子トールは、島は危険だと言っていましたが、結局、ひとりで探検に出かけるのが日課になります。そしてなんと、白夜の続くその夏に、エイプリルは「クマくん」と名づけたホッキョクグマに出会うのです。
 
前足に漁網がからみついたクマくんは、自力で餌を取ることができず、お腹を空かせ、弱っていました。エイプリルは、食糧庫からピーナッツバターとビスケットを持ちだして優しく話しかけながら近づきます。野生の生き物と距離を縮めるには、時間をかけなければいけません。自分は安全な相手だとわかってもらい、信頼してもらわなければいけないから。
 
漁網を外してもらい、次第に元気を取り戻したクマくんと島を探検するうち、エイプリルは、クマくんのふるさとが、スヴァールバル諸島だということに気づきます。そして、ふるさとへ連れもどしてあげたい一心でお父さんに相談するのですが、お父さんは、クマくんは、エイプリルの想像が生みだしたイマジナリーフレンドだと思いこんで話を聞いてくれません。エイプリルは、自力でクマくんを救おうと、乗り捨てられた小舟を修理し、人生で最も危険で大切な旅に出るのです。
               ☆ ★ ☆
 
小学校中学年くらいから楽しめる読み物で、野生動物との友情を軸に、地球温暖化や自然保護というテーマをストレートに伝えながら、妻を事故で亡くした父親の心の回復、娘と父の関係の再生、自然環境問題に対する新しい時代の価値観なども盛り込まれた良書です。手もとのペーパーバックの装画や挿し絵はLevi Pinfoldさんによるもので、タッチがとても優しい。
 
作品の舞台となったBear Island(ビュルネイ島)は実在し、実際に気象観測も行われています。エイプリルが目指したスヴァールバル諸島の本体からは南に約150マイル離れていて、ここを小舟で渡ろうなんて、エイプリルちゃん、クマくんへの愛が深すぎる!
 
作者のハンナ・ゴールドさんは本作が処女作ですが、すでに20か国以上で翻訳出版されていて、続編にあたるFinding Bearも発表されています。そのあいだに出版された作品はThe Lost Whale、これから出る予定の作品もウミガメが主役で、野生生物保護に関心がある方にぴったりの作家さんです。

受賞歴:ウォーターストーンズ児童文学賞、ブルーピーターブック賞
 
原書巻末にホッキョクグマの保護に取り組む団体のウェブサイトが紹介されていますので、こちらに引用しておきます。


こちらの画像も上記のサイトから。

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