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【推し活変遷を辿る】推し活理解の前提知識

はじめに

推し活総研の第2弾のテーマは「推し活の変遷」。
こちらの記事では、皆さんが今後「推し活」について理解を深めていくにあたり、前提知識となる言葉の説明とこれまでの歴史をまとめました。

  • 推し活が何なのか分からない

  • オタクと推し活の違いが分からない

  • どんな流れで推し活が一般化したのか知りたい

そんな人にオススメの記事となっています。


■推し・推し活とは

近年、よく耳にするようになった「推し」「推し活」という言葉。メディアにも頻繁に取り上げられ、日常的にも使われる言葉です。しかし、これらの言葉を漠然としか理解できていない方も多いのではないでしょうか?

「推し」とは、自分が積極的に応援している好きなモノや人のことを表現する言葉です。

アイドルやアニメ・マンガのキャラクター、スポーツ選手やチームを推している人が多いですが、時には「刀」「お寺」「サウナ」などのモノ・コトを推す場合もあります。

そして「推し活」とは、「自分の推しを応援したり、推しのために自分磨きやクリエイティブな活動をする」ことだと総研では定義します。

推しのグッズ購入やイベントに参加するだけではなく、推しのイベント前に新たに服を購入する、推しの言語を理解するために語学学習をする等、「推しをきっかけに行われた周辺行動」も、「推し活」と呼ばれています。

■「オタク」と推し活の違い

「オタク」と「推し活」の違いは何か?
簡潔にまとめると、オタクは「(オタクである)その人の性質を揶揄するニュアンス」を含んだ言葉であり、推し活はオタクがする「活動」にスポットが当たった言葉であるという違いがあります。

この違いの背景にはオタクというコトバがうまれた1980年代から今に至る長い歴史が影響していますが、今回は推し活の誕生、両者の違いに直接影響している2000年代以降の歴史中心に振り返りたいと思います。

2000年代前半、テレビドラマ『電車男』の登場により、”オタク”をテーマにしたコンテンツが広く日本国内で話題になりました。当時のオタクといわれる人々のイメージは、まさに電車男に登場する主人公のような、チェックシャツにデニム・リュックを背負った2次元・動画サービス、ネット掲示板が好きな"アキバ系"のイメージでした。

そこから「推し」という言葉が広まるようになったのは、2010年頃。アイドルグループ『AKB48』の大流行がきっかけです。AKB48のファンコミュニティでは、大勢いるメンバ―の中から選んだお気に入りのメンバーを「推しメン」と表現していました。

https://www.google.com/url?q=https://www.youtube.com/watch?app%3Ddesktop%26v%3DF1tXiUOIVZk&sa=D&source=docs&ust=1711420761724792&usg=AOvVaw1_Oj1KQDLB47L1mah6xdv-
(AKB48公式YouTubeチャンネルより引用)

その後、「推し」はアイドルファンの中で高頻度で使用されるようになり、現在ではアイドル業界に限らず応援している好きなモノ・コトに対して使われる言葉となりました。

このように"オタク"という一種の自虐的・揶揄のニュアンスが強い言葉ではなく、"推し・推し活"という言葉の誕生によって、性別・年齢問わず、自身のスキをより外に向けて表現・発信しやすくなったと考えられます。

■好きと推し活の違い

①好きと推しの違い


好きな人やモノと、「推し」との違いは、好きの気持ちを周りに表現するかどうかだと考えます。例えば野球が好きな人だったら、野球を観戦しているだけなら、「野球好き」の人ですが、ユニフォームを着たり、選手名が描かれたタオルを持って応援したり、SNSでその球団が好きなことをアピールし始めた瞬間に、「(球団名・選手)推し」の人になります。
推し、という言葉の中には間違いなく「好き」の感覚や感情が込められていますが、好きが「推し」になる瞬間は、周りに自分は「あるものが好き」だと表現するかがポイントになります。

②推し活と依存の違い


ホストや地下アイドルにお金を使いすぎることは「推し活」ではなく「依存」です。その違いは、相手に明確な「見返り」を求めるかどうかです。
行き過ぎた行為は、推し活ではなく依存と呼ぶべきものだと思います。このあたりは、芥川賞を受賞した宇佐美りん『推し、燃ゆ』(河出書房新社、2020年)に詳しく描かれています。

オタクが推し活になるまで

それでは、オタク活動=オタク(推し活の前段階)が2000年代~2010年代に広がった理由を3つのポイントから見ていきます。

①SNSの登場


1つ目のポイントは、SNSの発達です。
2ちゃんねる(現5ちゃんねる)が1999年、pixivが2007年に誕生し、オタクは“1人で楽しむものからみんなで楽しむもの”へ変容していきます。そして2010年代前半には、Twitter・Instagram・TikTokといったSNSが流行し、オタクがインターネット上でコミュニティを形成しやすい土壌が生まれました。
またさらに、TwitterやInstagram、TikTokの登場によって、気軽に自分のスキを受信・発信でき、オタクの動向がより可視化されることになりました。


学校や職場、家族といった既存コミュニティとは異なる、自分がスキなもので繋がる新しいコミュニティが提供されたのです。これが、血縁、地縁、社縁に続く、「推し縁」の登場です。(推し活総研 第1記事「推し活人口1千万人超!5つの視点で紐解く"推し活"の現状」より)
つまり、推し活を通して"イベント"を発生させ、人々とのつながりを作っているのです。

第一弾記事はこちら

②社会の多様性

2つ目は社会における多様性受容の流れがバックグラウンドにあると考えます。
①のポイントでお伝えしたSNSの発達により、性別年齢を問わず「自己表現」をしやすい世の中へと変化が見られます。
そして"自身の考えやスキを表現する・発信する"という感情は「推し活」の原点に当たるものではないかと考えています。つまり推し活は自己表現である側面が強いのです。

また、世界的な動きとして、Metoo運動の活発化があります。
2010年代に、性別を理由に抑圧されてきた感情や行動に対し疑問を持ち、社会に向けて異を唱える「Metoo運動」が盛んでした。自由に生きることのできる社会を求め、世界中の女性がSNSを通して自分の考えを発信する時代が到来しました。
さらに近年では、LGBTQについての理解を深め、男女の役割や責務から自己を解放する動きも見られます。
このように多様性を受け入れる社会の土台が築かれ始めているのも、推し活の広がりに大きな関係があると考えています。

③コンテンツの充実

3つ目はコンテンツ供給の増加です。
2010年代初頭は、AKBグループだけでなく、旧ジャニーズでは嵐、KPOP系グループである東方神起・少女時代・BIGBANG等が流行し、「アイドルビジネス」が発展を遂げた時代でもあります。

また、2次元ジャンルでも女性をターゲットにした「乙女ゲーム」コンテンツの流行がありました。こちらの流行背景については、中山淳雄さんの特集コーナー「推しもオタクもグローバル第33回」で紹介しています。

このように、ゲームを起点としたメディアミックスが発達し、アニメ作品の女性視聴者が急増。さらに2.5次元ミュージカルといった新たなコンテンツも誕生しました。

2010年代中盤になると、「あんさんぶるスターズ!」「ラブライブ」といった"2次元アイドルコンテンツ"が流行し、2次元と3次元の区切りが曖昧になっていきました。(あんスタやうた☆プリ等をはじめ、実在アイドルたちのように、登場キャラクターが多いのが特徴)

さらに、声優が顔出しをし、2次元のキャラクターと同じ衣装でステージに立つ、3次元の"アイドル声優"の存在が目立ち始めた時期でもあります。
次々と登場し続けるアイドルコンテンツは、今までの「オタク」の対象であった男性層だけでなく、女性層を一気に増やすきっかけになったといえます。

そして、コンテンツ供給の多さと、2次元と3次元のボーダーレス化により、「多くのコンテンツ・メンバーから自分の“スキ=推し“を選ぶ」という体験に価値が見出されるようになりました。このような流れと同時に、自分の推しを応援し、成長を見守る「育成型」「オーディション型」コンテンツが増加。"ファンと共に作るコンテンツ"の登場も多く見られました。

さらに火付け役になったのは、2013年にNHKで放送され一世を風靡したテレビ作品「あまちゃん」です。地元アイドルになるべく奮闘する主人公の様子を描いた本作品は大ブームに。NHK朝ドラ枠での放送というのもあり、幅広い年齢層に対しての、アイドルコンテンツに関する認知を広げたと言えるでしょう。

そして現在、「推しの子」の大ブレイクと共に、日本国内におけるアイドルコンテンツと推しという言葉の認知は、海外まで広がりを見せています。このように、アニメ等の映像作品を通して「推し」「推し活」が、日本発の文化として海外に浸透していく未来も遠くないでしょう。

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■推し活の誕生


2020年代に突入すると、「推し活」という言葉がより一般化します。2021年の段階では、まだ「推し活」は一般的な言葉ではなく、オタクを表現する言葉としては「量産型・地雷系オタク」「オタ活」という言葉が頻繁に使用されていました。推し活という言葉が主流になり始めたのは、2022年以降。この頃からメディアでも「推し活」がテーマとして取り上げられるようになりました。

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最初の章でもお話したように、推し活は「自分の推しを応援したり、推しのために自分磨きやクリエイティブな活動をする」ことです。オタクという言葉に含まれた自虐や揶揄の意味が消え、他人の目を気にせず、性別年齢問わず、"自身のスキを表現する"意味で使うことができる言葉が「推し活」でした。そして現在、推し活という言葉は、お互いのスキを認め合い、尊重する、理解するという意味まで包含する言葉になっています。

そして推し活は、数年の間に人々の生活に定着。元々行われていた"オタク・オタ活"よりも広い範囲の活動を指す言葉として使われるようになりました。
さらに、推し活は若い世代だけに限られた行為ではなく、老若男女問わず誰もが当てはまる行為へと拡がりを見せています。

■最後に

推し活総研は、第1弾で推し活に関する調査データを、第2弾で推し活の変遷とリアルな推し活事情を記事として紹介しました。
このように、推し活についての定性的な情報と定量的な情報を合わせて発信することで、皆様の、推し活についての本質的な理解を促すことができると考えています。

そして、推し活市場がサステナブルに発展していくために、推し活市場に参入している企業と推し活層をつなぐ機関となることを目指します。
このような目標を掲げながら、推し活総研では、今後も推し活全般に関する情報を、様々な角度から紹介していく予定です。




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