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AIはいかに真実を突き止めるのか –AIと医療

AI(人工知能)を医療へ活用しようという動きが活発になってきている。

AIが医療分野にもたらす恩恵は大きい。
上の記事にある医療現場が抱える課題は、長時間労働や、膨大な医療データをいかに活用するかというものだ。これらの課題を解決し人間の医師を助けるためには、AIはとても効果的だと思う。

肺がん発見でAIが医師をしのぐ

また、医療におけるAIの活用で活発なものの一つは、画像診断だろう。
Googleのアルゴリズムは肺がん画像の識別で、高い成功率を出した。

Google AI(グーグル)の研究者が発表した論文によれば、高い率で深層学習により肺がん画像を識別することに成功したとのこと。その成功率はなんと94.4パーセント。
Nature Medicine誌に掲載されたこの論文、成功率が高いだけじゃなくて、一部のケースでは人間のレントゲン技師の能力をもしのぐ業績をあげているらしいのです。論文によれば、このシステムはアメリカのNational Lung Cancer Screening Trialの6716件の症例でこの成功率を叩き出し、 その他別の1139件の臨床例でも同様の成功率を導いているとのこと、頼もしい限りです。

この記事を見て気になったことがある。「AIの診断における、科学的根拠とはなんだろうか」と。

科学的根拠にもとづく医療*1

“科学的根拠にもとづく医療”とは、簡単にいうと、「患者ひとりひとりの治療方針を決めるとき、いま現在におけるもっとも優れた科学的根拠を利用すること」だ。これによって、信頼性の高い情報を提供して医師を助け、最適な治療を受けられる可能性を高めて患者に利益を与えることができる。

現代の私たちは、そんなことはあたりまえのように感じるかもしれない。
しかし、”科学的根拠にもとづく医療”という言葉自体が生まれたのは1992年であり、ごく最近だ。

瀉血(しゃけつ)というものをご存知だろうか。瀉血とは、皮膚に刃物をあて血液を外に出すという治療法だ。かつては、あらゆる病気を治す方法として広く盛んに行われていた。今日では、限定的な症状の治療を除いて、瀉血に有効性はないと示されている。
18世紀末−瀉血が信じられていた当時、ジョージ・ワシントンは治療のために体の半分の血を抜かれ、その後に亡くなった。19世紀になってからようやく”臨床試験”が発明され、瀉血を受けた患者の死亡率は瀉血を受けなかった患者のそれの十倍にのぼることが示された。瀉血はむしろ患者を殺しかねないということがようやく示され始めたのだ。

臨床試験が行われるようになる以前、医師は自分の好みで採用した方法や、仲間に教えてもらった方法、過去の少数の患者を扱った経験から正しいと思い込んだ方法にもとづいて、治療法を決めていた。
19世紀に臨床試験が登場してからは、患者に用いる治療法を、いくつかの臨床試験から得られた科学的根拠にもとづいて決めることができるようになった。
いくつもの臨床試験で成功した治療法だからといって、目の前の患者に効く保証があるわけではない。だが、このアプローチをとった医師は誰でも、回復の可能性がもっとも高い治療を患者に施すことができるようになった。

AIの診断における科学的根拠とは

長時間労働の改善や膨大な医療データをいかに活用するかという観点では、”AIの診断における科学的根拠”は考えない。ここでのAIの利用は、蓄積された膨大な知見のデータベースをいかに効率よく正確に処理するかが問題であり「医師に対する、科学的根拠にもとづく意思決定の支援」であるからだ。

私が気になるのは、AIが人間をしのぐ成果を出している画像診断などの話だ。
先ほどのgoogleのアルゴリズムは、深層学習のためにどんな画像が”がん”なのかを教え込まれたという。
「AIの診断を受けた患者の回復率はAIの診断を受けなかった患者のそれの十倍にのぼることが示された。」などと言えれば、科学的根拠として十分なのだろうか。AIの内部までみて検証し、「アルゴリズムの中身がどのようになっていて、ネットーワークがどのように構築されていて…、だから精度が高いのです。」と言えればよいのだろうか。

果たしてそれは、医療という視点から見たとき、科学的根拠になりうるのだろうか?


参考
*1 : サイモン・シン、エツァート・エルンスト、代替医療解剖(新潮文庫)

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