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仮面?内面?──“ペルソナ”であいまいな顧客の理解を深掘っていこう

【前回(と前々回)の話】
・顧客をキメこまかく、絞りこむことがだいじ
・絞りこみは、顧客のアタマやココロのなかにあること(とらえかた)に
 よって行いたい(ざっくり雑では意味がない)
・定量データから、顧客のとらえかたを理解するための調査分析手法もある
 (因子分析/主成分分析)

【今回は…】
顧客のとらえかたにもとづいて、さらに理解を深めるところへ話をすすめていきたいと思います。

顧客の認識(とらえかた/〈パーセプション〉と呼ばれたりもする)を理解することがだいじなこと、アンケートなどの定量的なデータをとって、その分析でこの「とらえかた」の理解を深めるための方法があることを紹介してきた。

質問を顧客へ投げかけるさいに企業からの目線をできるかぎり押しつけず、あるていどの「幅」をもたせて問いかけるのが有効であるのも説明したわけだが、理解しようとしていることがひとのココロのなかにあるものだけに、具体的な質問のくみたてに〈想像力〉や〈共感力〉が必要なのはかんたんに予想できるとおもう。

くわえて、いまこの時代にわたしたちが探りだそうとしているものは、顧客がじぶんで「すでにわかっている」ことではなくて、ふだんからなんとなくそうしていはいるものの、はっきりと自覚してはいないものだというのが、はなしをいっそうむずかしくしている。
つまり、とても曖昧でフワッとしたものを探りあてなければならないので、はっきりと白黒つかないような素材(情報)をキャッチできるように、工夫しないと実際にはつかえないネタの山をうろつくことになってしまう。

そんな手探りのさいに、とても心づよい味方になってくれるのが「肌感覚」というやつだ。顧客の行動や実体験にできるだけそのままのかたちでふれることができると、わたしたちの察する力は「増し増し」になってくれる。
その意味で、観察やインタビューといった〈定性調査〉はとても役にたつ。必須だといってもいいとおもう。

顧客自身がそうであるように、観察し情報をキャッチする側のわたしたちも実体験をつうじて「みている」もののうち、おおかたを意識することがないままスルーしてしまっているものだ。
「あらかた満足」な生活を送っている顧客に価値を感じてもらうためには、企業やブランドからの〈提案〉には、なんらかの「気づき:アハ!」が必要になる。
顧客が無意識的にとっている行動や、あたりまえだと思いこんで意識はしていない考えかたをとらえて、そこから発想をすすめてあたらしい切り口からの〈提案〉にしたてていくことをめざす。
発想の転換、切り口を変えることを〈リフレーミング〉ともいう。定性的なリサーチの手法もあわせて、さまざまな工夫や進化がでてきているのだが、定性調査や分析の方法論については別のところであつかってみたい。

ペルソナ あるいは 顧客、社内、両方との共感づくり

すこし話はそれるが、ひとが行動や意見をきめるさいには必ずしも合理的な判断にもとづいているわけではなく、どちらかといえば“いきさつ”や感情によってきまることのほうがおおいということは、意識してべきだ。
(行動経済学などでは〈ヒューリスティクス〉とよばれている)

これはとくにめずらしい視点でもなく、むしろ経験的にあたりまえの部類にはいるとおもうが、ビジネスにおいて戦略や計画をかんがえるときにはついつい論理的な思考が優先されてしまいがちで、そのことが顧客視点を遠ざけ企業目線に舞いもどってしまう一因にもなっているので注意しておいて損はないことだろう。

また、顧客理解をすすめたのち、それに立脚して戦略(主にSTP)を固めるわけだが、実務ではこれらの顧客理解や戦略を社内の関連部門と共有して、同じ認識や理解にたってもろもろの「打ち手」に展開していくことになる。
ここで、社内他部門と共通認識や共通言語をしっかり形成していく努力は、実践上とても大切なポイントだ。
そのさい、認識の共通化をはかるうえでも〈ヒューリスティクス〉を前提とした情報共有が有効だ。ロジックにかたよった、まるで機器製品のスペックのような情報提供にならないようにくふうするのが賢明だ。

「都心在住、30代後半DINKS夫婦が今回のターゲットです。職業は夫が◯◯で妻は□□、世帯年収は◇◇万円、・・・この層から新商品の投入によってシェア△%を獲得し、売上は・・・」というような設定の説明などはまさにこれにあたる。
計画的に事業推進をはかるという意味では、こうした説明や発信は使い勝手がいいだろうし、ボリュームや金銭的インパクトもよみやすい(気がする)ので、こうなってしまいがちなのもよくわかる。

ただ、いざじっさいに実務ベースでことが動きだすと、ファンクションごとに手わけをして同時並行的にもろもろの「打ち手」がすすんでいく。
各部門で個別の企画やつくりこみをすすめるときに、より具体的でリアルな〈顧客理解〉がどうしても必要になる。理解を深めるという作業をおおくのひとたちがそれぞれにすすめるのだが、対象(顧客)があいまいで感覚的な行動をとるがために、客観的・俯瞰的な条件だけからだと鋭い理解や発見にたどりつくのがむずかしい。

また、各種施策がおなじ方向をむいて一貫性が実現されることもとても重要で、「ほかの誰でもないあなた(=顧客)」へのメッセージに仕立てあげることをめざしていく。このとき、各部門の共通理解が論理的/俯瞰的な情報だけにもとづいていると、打ち手が「広く浅く」を対象としたつくりになりがちで、絞りこまれたターゲットに深く刺さるものになりづらいという点がデメリットになる。

これは、さきほどすこし触れたヒューリスティックな人間の性質が関係している。顧客がいきさつや感情に根ざした行動や決定をとることもそうだし、顧客だけではなくて、企業が顧客の理解を深めていくうえでも、この性質が影響しているということだ。
企画のディテールを詰めていくさいに、情報源が客観的な視点にかたよると理詰めの取捨選択をつみあげがちで、結果として無機質で〈刺さる〉深さをめざしたつくりにならないことがおおい。日本企業によくあるパターンで、機能性が必要以上に強調されたものづくりがいまでもおおくみられるのも、こうした背景があるのだろう。

近年では、ターゲットの属性とかプロファイルといったかたちではなくて、〈ペルソナ〉を描く方法がかなり一般化してきているが、上述の事情からもこの方法は有効だとかんがえる。

〈ペルソナ(手法)
自社/ブランドの典型的な(すなわち重要な)顧客について、
(属性列挙のような客観視点からの方法ではなく、)
シナリオや小説での人物描写のように主観をとりいれたストーリー型の表現で、あたかも実在の人物のように描きだす顧客設定の手法。
文章だけではなく、写真やイラストももちいて感覚的な表現として仕上げることがおおい。

ターゲット設定とペルソナ描出は大目的としてはほぼ同等のものだが、そのやりかたがすこし異なる。相違は「すこし」だとおもうが、アウトプットにあたえる影響はけっこうおおきいとかんがえる。
ペルソナでは、典型的な顧客をできるかぎり高い解像度で具体的に、また、よりパーソナルな視点で描きだしていく。ターゲット設定のばあいだと、「範囲」を定義するような決めかたになりやすいとおもうが、ペルソナでは範囲決めよりも一点(ひとりの個人)に焦点をあわせて深さとリアリティを追求していくイメージだ。

ペルソナでは重要な顧客を、その「ひととなり」やヒストリーが理解できるようなスタイルで描いていく方法で、当人の主観によりそった、情報というよりはストーリーのようなかたちで表現していくのがよい。
これを共有しておく方法がいいのは、個別の具体的な施策などを詰めていくさいに、不足部分を各担当者が埋め合わせしていく過程がでてくるのだが、そこではたらかせるアタマが論理的な思考よりも共感的な想像になりやすいというところだ。

顧客を客観的・分析的な対象としてみる視点ではなく、ひとつの具体的人格としてとらえ、「このひとなら、どのように感じ、どう判断して、どういう行動をとるだろう」ということを想像力をはたらかせて感性で理解する。
そうした思考をとることで、顧客の〈ヒューリスティック〉な側面をとらえやすくなる。また、アウトプットされる企画も(論理性ではなく)文脈的、価値観的な一貫性、統一性がうまれやすくなるだろう。

論理的な整合性よりも人格的に、「ありえそう」かどうか「そういうひと、たしかにいそう」とおもえるかどうか、というかんじで話をひろげていけるのがおおきい。かつ、発想をひろげていって、それでも「ハチャメチャ」になりづらいのだから好都合だ。

むちゃいわないで...

企業/ビジネスでの意思決定にはかるさいには、定性調査でつかんだ発見やペルソナの方法をもちいて企画提案をおこなったときに、「とはいえ、それはひとりの(少数の)意見にすぎないだろ?」というツッコミがひじょうに出やすいことは、けっこうおおきなデメリット、というか方法論を採用するうえでの壁になってしまいがちでもある。

それはそれで軽視できないハードルなのもたしかで、そのためにも前回以前にあつかってきた定量的なアプローチ(アンケート調査とその分析など)で「顧客のとらえかた」を把握するとりくみも組みあわせ、つかいわけながら社内での情報〜理解の共有をめざしていきたい。

一見あい反するかのような知見や方法を、あっちへいったりこっちにきたりしながら「絶妙なバランスのブレンド」を発掘しなければならないというのだからビジネスはむずかしい。
やるべきことがおおくてたいへんだけれど、場面場面でうまくつかいわけ、つかいこなして、みなさんもぜひ成功を手にしてほしい。

ところで、顧客をふかく理解するためにペルソナもつかえるということは、またそのとき、顧客はざっくりではなくパーソナルでリアルにとらえていくのだということは、今回すこしわかってもらえたものとして(だといいのだけれど...)、その「たったひとりの“個”客」が誰なのかはどうやってきめるのだ??という疑問/問題もあるかとおもう。

マーケットを俯瞰的にとらえたり(戦略目線)、個の視点からひとをふかくとらえたり(顧客理解)、はたまたそれらを掛けあわせて企画の肝をつかんだりするときに、〈カテゴリ(・インサイト)〉というみかたが役にたつとおもう。
つぎはこのかんがえかたを紹介しつつ、顧客の絞りこみ(ターゲティング)についてみていきたい。


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