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カレの思い出 #32

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朝から短大に到着。

「あんたねぇ、バイクでスーツとかやめなさいね。せめてスーツを持ってきて着替えるとか、何かあるでしょ!」

早速、怒られた。
なら、そう言ってよ。
と内心思うが、先生の言うことも一理ある。

「えへっ! ごめんなさーい」
と軽く受け流した。


教授の車で、その学校まで行った。
実は教授は、
わたしが中学の時の音楽の先生の、お父さんだった。
(わかりにくいが、とりあえず、大好きだった憧れの先生の父だったのだ)

「〇〇先生のお父さんなんですか!?」
「当時、赤ちゃんの話聞いて、めっちゃ楽しかったんですよ!!」

そこからは、
孫談義で話がすすむ。
たくさん話してくれる人は好きだ。気が楽である。


学校に到着。
校長室に入ると、たくさんの顔写真があった。
「あっ、叔父さんじゃん」
知った顔がずらずら並ぶ。
なーんだ、叔父さんたちの担当したことある学校なんだなぁ。少し気が楽になった。

「あれ?
 叔父さんって、知り合いでもいたかな?」

面接の前に
ニコニコした、食えない感じの校長先生に声をかけられた。
席にさえ座る前だ。

「あっ、はい。
 この〇〇と●●は、うちの叔父さんで、
 祖母の方の親戚なんです。
 よくお酒飲んで、冗談いっぱい言ってくれるので、面白いんですよー」

くすくす笑いながら答えたのだ。

当時のわたしは、
怖いもの知らずというか、
世間知らずというか、
「聞かれたから答えただけだもーん」くらいにしか思ってなかったのだ。

「そうかそうか。まぁ、座りなさい」
「あっ、失礼致します」

今更、仕事モード。
本当、今更である。

質問に全て答えたときには、出勤が確定していた。

4月末、初出勤日が決まった。

わたしには常識がない、と当時の校長は判断したのだろう。
とても丁寧に教えてくれた。

出勤時間は8:00からだけど、
一番下なのだから7:15にはくること

調理員さんたちと仲良くすること

わからないことがあれば、すぐに聞くこと

帰りは16:45。絶対延長は不可能
残業させたら、市から怒られるとのこと

きちんと笑顔で全員に挨拶をすること

身だしなみは、スーツでいること

白衣でうろうろしてはいけないこと

全部、事細かにおしえてくれて、
本当に助かった。


急転直下の人生変革の4月である。

4/4はまだ入院してて、
4/6ころ退院、
4/8ころ彼氏に報告だけして喧嘩別れ
4/14ころまで引きこもり
4/15ハローワーク
4/17に面接が決まり
4/20ころ初出勤、特養。
4/22には、すでにここにいて面接を受け
4/25から次の出勤である。


濃い。
濃すぎる。


次の日、特養の先輩に事情を説明すると
快く送り出してくれた。

「そんなチャンス2度とないから、絶対そっちに行きなさい」って。



こういうとき、
わたしは恵まれてるなぁと思うのだ。
本当にありがたいなぁと感じるのだ。
必要なときに、必要な助けが必ずある。

運命があると言うのなら、
これこそ、天の采配と呼ぶのだろう。


何ひとつ揉めることなく、転職したのだった。


本当は、カレに言いたかった。

こんな奇跡的なスケジュールで、
人生、転がり始めたよ! って報告したかった。

「そういうときさ、
 本当、おまえ持ってるよなぁ。
 マジで! ちょっと、ずるいよな」

って、
笑いながら言って欲しかった。


とはいえ、
新しい土地で、
新しい人生をスタートしたカレを
また、わたしの人生に巻き込むなんて
考えられなかった。

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