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不時着と異化~上海的日本料理考

by ODC吉田

まだ見ぬ日本を目指して

Cultural Appropriation(文化の盗用)が、ここ数年、たびたび取りざたされています。誤った文化解釈により、その文化を侮辱していると見なされ、本国の関係者などを怒らせてしまうという案件です。日本関連では、海外のセレブが日本の伝統を誤読した商品プロデュースで大炎上→販売取りやめ、なんてこともありました。日本のことが好き過ぎて、少し道を誤ったんだな、と思える他愛のないものもあったように思います。

こうした「文化の不時着」事件を耳にするたび、私は上海での日本文化の受容&需要について、思いを巡らさずにはいられませんでした。

この15年ぐらい、駐在している家族を訪ねて、ちょくちょく渡航していた上海。今や、次はいつ行けるのやら状態ですが、かの地で見てきた日式=日本スタイルの一端を書いてみようと思います。

日本のカルチャーは、上海のミレニアル層やZ世代には、すでに当たり前化しています。ゲーム・アニメは言うに及ばず、書店に行けば、漫画や村上春樹以外にも「ていねいな暮らし」系のゆるっとした書籍が平積みに。ショッピングビルにはキレイめファッションの日本ブランドが必ず入っているし、和風インテリアを取り入れているカフェもあちこちに出現。日本のデザイナーが空間や設計を手掛けるショップや大規模施設も次々とオープンしています。

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旧フランス租界にあるブックカフェ。オーソドックスな和風空間です


そんな中、年代・所得を問わず、不動の人気を誇っているのが和食。ファストフード系から超高級寿司店まで、上海にはあらゆるレイヤーの和食店があります。多種多彩にあるがゆえに、その本格ぶり(日本らしさ)には濃淡があるものの、概ね「ほぼほぼ日本」志向だと言えます。中でも多くの居酒屋は、日本流を完コピして「限りなく日本」な味・空間・サービスを再現し、日系企業の駐在員に居場所を提供しています。

ところが、なんとも意外なことに、最も様相を異にしているのが、一等地にあるザ・日本料理店です。これらの店のターゲットは、現地の富裕層。その嗜好/志向に応えるため、独自の解釈による「見たこともない日本」提供にしのぎを削っているのです。

上海的日本料理(高級系)のポイントは、以下の3つかと。
・爆上げの攻め
・ジュディ・オング仕様
・トゥーマッチ戦法


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[爆上げの攻め] どこか、新しいお供えのスタイル提案のようにも見えます。キレイとかおいしそうとかよりも、びっくりが先行してしまうプレゼンテーション。ムード爆上げで圧倒するという明快な方針が、すがすがしい! お花の扱いが少し雑なのも、海外らしくて加点対象に。壁の和包丁ディスプレーは、上海でしか許されそうにありません。攻めてます。


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[ジュディ・オング仕様] ドライアイスによる演出が施された一品が、絶対に登場します。お刺身オン・ザ・クラッシュドアイスは、上海の和食店で多用される手法。


うにだけでいい

[トゥーマッチ戦法] ウニだけでいいのに、キャビア載せ。松茸の上にトリュフも載せてみた!的なトゥーマッチ戦法で、ダイレクトに高価さを謳い上げます。

「伝統・らしさ」の上海式昇華

写真のお店は日本に本店がある、正真正銘の日本料理店系列なのですが、上海でウケるためには、このようなゴージャスさがマスト(あくまで推測ですが)。本国(つまり日本)ではおよそ考えられないド派手な演出が施されてしまうのです。あ、サービスはまったく日本的なもので、お味は外国でいただくものとしては、かなりおいしいですよ。ちょっとポーションが大きいのが難ですが。

こうして改めて眺めてみると、上海的日本料理は「文化の盗用」ではなく、意図した「不時着」であり、独自進化による「異化」なのだと思えてきました。ビジネス軸、UI/UX軸に「伝統・らしさ」軸を掛け合わせたとき、本来の文化定義に寄せていくのではなく、有効な要素を抽出して、ターゲットに刺さる仕様に昇華させる方向に商機を見た、ということなのだろうと。日本的、を求めるならば、禅=ミニマリズムを意識した展開もあり得ますが、あえて絢爛一択で突き進んだ、という感じ。ま、日本の外国料理店も、多かれ少なかれ、日本人ウケにフォーカスした「異化」仕様になってますもんね。

コロナ禍で日本との行き来が限られている間に、上海的日本料理店は、ますます元気に破壊的イノベーションを進めているのかも。ああ、早く確かめに行きたい!

※トップの画像は、外灘にある広東料理店。古いビルをリノベした老上海空間です。

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