ボンタ

大阪梅田で注文靴・靴修理のお店を営む靴職人です。

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大阪梅田で注文靴・靴修理のお店を営む靴職人です。

最近の記事

ない物はある物で作れ。

靴の製作には様々な素材が必要な訳ですが、仕上がりをイメージして、それに適した素材を用意します。 今日では様々な素材が加工済みで売られており、そのまま若しくは少し手を加えて使う事ができます。 しかし、どうしても理想的な素材が無い場合もあります。 この時どうするかと言うと材料があれば、そこから作りだす。 恐らく靴に限らず、大工さんや料理人さんなど職人と呼ばれる人ならやっている事だと思います。 今回は、幅、長さ、厚みの全てで理想的なウェルトがなかったので、革から切り出して

    • パリロブの靴は、久しぶりに食べる素うどんと同じ。

      ビスポーク靴メーカーだったジョンロブが、エルメスの傘下になり、既成靴を作り始めた頃の靴を久しぶりに見て、これは綺麗に出汁を引いた美味い素うどんと同じだと感じた。 どういう事かと言うと、近年の映えを意識した物作りで、華美な見た目のモノが溢れる中、素材の良さが際立つシンプルなモノを久しぶりに見たと言う事です。 この様に良い意味で肩の力が抜けた靴が、素うどん的価格で90年代には買えていたのです。

      • 好みは否定するしない。

        人や物に対する好みは人其々で、靴も然り。 この靴は過去に何度か修理させて頂いている靴で、大切に履かれている靴です。 過去に、つま先補修、ヒール交換、インソール交換、靴底剥がれで、再圧着&底縫いがなされています。 そして、今回はアッパーとソールの接着部が裂けて持ち込まれ、アッパー補修&オールソール交換のご依頼でした。 メーカーとしては、この靴は駄目になるまで履いて貰って、新しい靴と買い替えてもらうと言う意図で製造している靴だと思います。 その為、素材も作りもその駄目に

        • 靴屋の仕事着を考える。

          我々の仕事は兎に角汚れます。 外を歩いて、修理が必要になった靴が持ち込まれて、その靴を触る訳ですから汚れて当たり前ですね。 では、新品の靴を扱ったり、靴を製作する場合はどうかと言うと、これも同様に汚れます。 革を触った手で包丁を握ると革の渋と金属が反応して手が黒くなります。 また、革やゴムを切ったり削ったりで細かいクズがつきます。 そして、ノリを使うので、そのノリが手につきます。 そして、そのノリに先程の革やゴムのクズがつきます。 更に色を塗るインクが着く事は当

        ない物はある物で作れ。

          材料費ほぼ0円の修理。

          靴修理屋の仕事として先ず最初に頭に浮かぶのが、ヒールやソールの交換等、靴底周りの修理かと思います。 しかし、実際は同件数ぐらい靴底以外の修理のご相談を受けます。 アッパーに関しては、そもそも交換を前提とした作りではないので、現物を確認してどの様に修理をするかを考えます。 このオールデンのvチップは羽根の付け根の裂けでお持ち込み下さいました。 状態はと言うと、モカ縫いのステッチがほつれて、羽根の根本で裂けています。 先ず、モカ縫いは元穴を拾えば縫い直しが可能。 裂け

          材料費ほぼ0円の修理。

          初体験はお済みですか?

          好きな靴は気が付けば、ソールもヒールもライニングもアッパーも何処もかしこもくたびれて、もう限界かなと思ってしまいます。 かく言う私の仕事用の靴も、酷くくたびれて処分しようか悩んだ挙句、最後の修理かなと手を加えて復活。それから更なる愛着が湧き、本当に修理して良かったと最近思ったところです。 この靴をお持ち込み頂いたお客様にも、本当に修理して良かったと思ってもらえる様、必要と思われる修理をご提案させて頂き、実際にご依頼頂く事となりました。 こんな感じで至る所にダメージがでて

          初体験はお済みですか?

          値上げについて。

          修理に用いる部材、副資材その他諸々の値上げが続き、4月から当店でも価格改定を致します。 上記価格表は、当店オープン時の価格です。 十年以上前の価格で、かなり安いですね。 今、この価格で営業すると、一瞬でお店は傾き出します。 当時、この価格でなんとか利益を出して、ご飯を食べれていた事に驚きです。 さらに、オープン時は無名のお店故、2週間程半額で営業して、一早くお店を知ってもらうと言う無茶もやりました。 けど、今日の物価高に対して、価格の据え置きと言う無茶はできない状況

          値上げについて。

          ホワイト化する靴業界。

          この2つの画像はビブラム社のハーフソールです。 同じ様に見えますが、全く別物です。 上の画像がビブラム#7373というハーフソールです。 下の画像がビブラム#7673というハーフソールです。 違いは、vibramのロゴが六角形で囲まれているかどうかの見た目の違いだけではありません。 素材が全くの別物で、摩耗率の数値だけ見れば、#7673は#7373の8割り増しの早さですり減ると言えます。 そして、#7373は1ミリ厚の物があるのに対し#7673は8割増の1.8ミリ

          ホワイト化する靴業界。

          靴屋の参入障壁の低さ。

          靴屋になりたいので、働かせて欲しい、下積みしたい等の問い合わせがあったり、直接話をしにくる方がいます。 基本的には来る者拒まず、去る者追わずのスタンスでいます。 経験者、即戦力となれば、「どうぞ宜しく!」と言うのですが、ほぼ0から仕事をしながら教えて欲しいと言うスタンスで来られると、流石に厳しい。 けど、自分もそんな時があったから蔑ろにはする事ができず、いろんな可能性や手段を提案したりします。 しかし、その提案に対して、自分できるだろうか、そんな事は不可能だ等のネガテ

          靴屋の参入障壁の低さ。

          職人の心の中のつぶやき

          靴の修理の工程やビフォーアフターはSNSで散見されますが、実際にその靴を修理している職人が何を思い、考えながら仕事をしているかを目にする事は少ないと思います。 そこで、修理をしながら心の中のつぶやきを言語化して見ようと思います。 以下、「声:」が職人の心の中のつぶやきです。 ソール交換のご依頼でお持ち込み下さった靴です。 声:ソールに穴が開くまで履かれてるのに、アッパーの状態がいい。大切にかれてるんだなぁ。 そんな大切な靴をバラして行きます。 声:ヒドゥンチャネル

          職人の心の中のつぶやき

          カビが生えたスエード靴は燃やす!

          雨に濡れたり、長期間風通しの悪い場所で保管すると、靴がカビだらけになっている事ありませんか? 革靴はカビにとっては快適な環境なんでしょう。 白くモフモフしたボリューミーな見た目で驚かせられますが、比較的簡単に綺麗になります。 では、カビが生えたらどうするか? 答えは燃やす。 アルコールを吹きかけて、カビ菌を殺して、燃やす。 そして、ブラッシング。 こうする事で、カビは死に、屍はブラッシングで払い落とされ、靴本来の綺麗な肌を見せます。 カビと共に色も抜けてしまっ

          カビが生えたスエード靴は燃やす!

          高くて買えないオールデン。

          「値上げ」という言葉を聴かない日が無い程に、様々な物の値段が上がっておりますね。 勿論、靴の値上がりも結構なもので、今回お持ち込み頂いたオールデンのカーフを見ても、コロナ禍の期間中だけで1割程高くなっております。 そもそもこの手の靴は、履き方やメンテナンスにも左右されますが、一度購入すると限界を感じる状態になるのまでに数年、数十年という時間が経っています。 ですので、当時の購入感覚で新調しようとして見に行くと、手軽に買えない靴になっていたと言う声を最近よく耳にします。

          高くて買えないオールデン。

          水は革靴にとって敵であり、味方でもある。

          こちら今は無きタニノクリスチーの靴。 キメの細かい上品なカーフで作られていますが、雨に濡れてアボカド状態になってしまっております。 水に濡れて、革がふやけて、そのまま乾燥するとこの状態になります。 しかし、もう一度水に濡らして、革がふやけた所をシワを伸ばす様に革を均しながら乾燥させると元に戻ります。 そもそも、靴を作る時に、水を張ったバケツにアッパーを漬け込んで、革を柔らかくしてから作る方法もあるぐらいですから、水が必ずしも革靴にとっての敵という訳ではありません。 水

          水は革靴にとって敵であり、味方でもある。

          環境と余命を考えて修理する。

          以前修理させて頂いたウェストンの靴が、何年かぶりに帰って来ました。 結構なくたびれ様で、聞くところによると、現在インド在住。面倒を、見てもらえると所もなく履き続けた結果だそうです。 日本滞在中に修理にお持ち込み下さいました。 しかし、つま先はウェルトまですり減っていますし、アッパーのダメージも相当なもの。 お客様自身も、もうこれが最後と思って持って来たと仰っておりました。 この先何度かソール交換するのなら、リウェルトかなと思いますが、意外とつま先以外のウェルトはしっ

          環境と余命を考えて修理する。

          良い所は残したい。その為には一手間必要。

          こちらは、名靴ウェストンのゴルフです。カジュアルなデザインに、上質な革を奢り、実用的で丈夫なラバーソールの組み合わせ。 綺麗めカジュアルからジャケパンまで幅広く合わせる事ができる普遍的な靴の1足だと思います。 その、ゴルフのヒール交換にお持ち込み頂いたのですが、普遍的な出来上がったバランスを崩す事はしたくないので、オリジナルに限りなく近い形で、この靴の魅力を引き出す修理を目指します。 ですので、素材は同パターンのリッジウェイヒールで交換します。 しかし、同じ様に見えて

          良い所は残したい。その為には一手間必要。

          靴底をしっかり貼る事は難しい。

          お店の場所柄、出先で突然の靴のトラブルで困ったサラリーマンが検索して、ご来店頂く事が度々あります。 その日、帰社できる程度の応急処置は可能であっても、しっかりとした修理を直ぐに仕上げる事はできません。 しかし、10分程で簡単に修理できると思われている事もある様で、「その辺でコーヒーでも呑んでくるから、ペぺっとノリ塗って、パッと貼ってもらえる?」と言われる事もあります。 そして、時間も費用もそれなりにかかる旨を伝えると、結構困惑されます。 では、実際に剥がれた靴底を貼り

          靴底をしっかり貼る事は難しい。