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職人の心の中のつぶやき

靴の修理の工程やビフォーアフターはSNSで散見されますが、実際にその靴を修理している職人が何を思い、考えながら仕事をしているかを目にする事は少ないと思います。

そこで、修理をしながら心の中のつぶやきを言語化して見ようと思います。

以下、「声:」が職人の心の中のつぶやきです。

ソール交換のご依頼でお持ち込み下さった靴です。

声:ソールに穴が開くまで履かれてるのに、アッパーの状態がいい。大切にかれてるんだなぁ。

そんな大切な靴をバラして行きます。

声:ヒドゥンチャネルの靴なのに、積み上げは合成革(ナンポウ)なんだぁ。この靴は見た目と価格のバランスを取って作られたのかな。修理では本革の積み上げを使うからランクアップだ!

ヒールが取れたらソールをはがすのですが、剥がし方には大きく2通りあります。

一つは、ウェルトとソールの間に包丁を入れて、出し糸をカット。

もう一つは、グラインダーでソールを削って出し糸をカットです。

縫い糸の素材や縫い方により、ソールの剥がし方を選択します。その選択次第で、その後の仕事の効率が違ってきます。

メーカーによって傾向がありますが、初見のメーカーでは糸の種類、糸の深さ、縫い方などを注視して、適切な方法を検討する必要があります。

声:この靴は初見だけど、縫い糸は麻糸、チャン(麻糸の強度を高める松脂)は効いてない、けどすり減って顔を見せた出し糸を見ると、わかりにくいけど上糸と下糸の縒りはウェルトに近い所で縒りがかかってる様に見えるから、グラインダーで下糸(白い糸)を削り取る事はできない。ここは包丁を使うべき!少し不安はあるけど...。

説明の為、今回は左右でそれ2通りの方法で剥がしてみました。

写真左は、包丁でカット。右はグラインダーです。

糸の残り方が異なります。包丁でカットした方は、下糸(白糸)が殆どありません。

対してグラインダーで削った方は下糸が残ります。

声:読み通り、ガッツポーズ‼︎

包丁で切って下糸が残って無ければウェルト側から引けば簡単に抜けます。

対して、グラインダーで削った下糸が残った状態だと、ウェルト上面から引いても下糸が邪魔して抜けません。

ここで仕事の効率が違ってきます。

声:包丁使って3分は稼げたかな。しめしめ。

バラした靴を見てると、気になる部分が見えて来ます。

出し縫いと掬い縫いが重なっている所です。

声:出し縫いと掬い縫いが重なってるけど、掬い縫いは切れてないし、ウェルトが外れる事はなさそうでよかった。けど、ウェルトの出幅が無いし、ウェルトは寝てるからしっかり起こしておかいないと、後で縫いにくいな。テンションをかけるのは心配だけど、兎に角ウェルトを起こそう。ウェルトが外れる事があれば縫い直せばいいか。

結果、無事につま先のウェルトを起こし終えたのでコルクの詰め直しです。

声:最後は半カラス仕上げなので、フマズを少し盛り気味にしとこう、その方が映えるし。けど、そうなるとヒールの積み上げに影響出るかも。まっ、積み上げで加工すればいいか。

コルク詰めたので、ソールを貼り合わせる為ノリ入れです。ノリは一度乾燥させる必要があります。

声:ノリ塗ったし、乾くまで他の仕事しよう。
乾燥時間に丁度いい仕事は、材料の発注だな。

乾燥したノリは、熱活性させる事でしっかりとした接着力がでます。

声:熱活性するまでの時間も無駄にしたくないから、メール返信しよ。けど、メール返信に夢中になってたらソール焦げるから気をつけないと。

熱活性できたから貼り合わせです。

声:水を塗って柔らかくして、フマズ周りはコルクに合わせて、丸みを持たせて、起こしたつま先のウェルトは更に起こし気味に貼ったら縫い易くなるはず。

貼り合わせたソールを切り回します。

声:レンデンバッハは水に濡らすとぬめっとした切り味になるのが好き。ぬめっと切り易いけど、密に中が詰まった感じがいいな。

次は、ヒドゥンチャネルの為のドブ起こしです。

声:包丁の切れ味いいから失敗しないだろうけど、すっぱ抜け無い様に注意して、つま先は後からラバー補強するから少し厚めに。出し縫いが収まる溝の深さは、出し糸の太さぐらいだけど、つま先はラバー補強の加工の為に気持ち深めにしとこう。

出し縫い縫い終えました。

声:気持ちいい感じに溝に収まって良かった。

起こした革を今度は伏せ直し。

声:水つけて、伏せ直して平滑にすると黒光るのが気持ちいい。フマズのコルク盛りもいい感じに丸みが出て仕上がりが楽しみになってきたぞ。

次はヒールの積み上げですが、その前にコバを削り整えます。

声:コバ削ったらバリが出て分厚く見える様になったから後でバリ取りしよ。バリとったらウィールも必要かな。

ヒールの積み上げです。今回は積み革3枚とトップリフトです。

声:やっぱりフマズの丸みをひろってかなり隙間できたな。多分積み上げ1枚でこの傾斜を取りきる事はできないけど、とりあえず1枚目で傾斜つけて見よう。

1枚目に傾斜をつけて様子見。

声:思いのほか隙間が無くなって来た。このまま貼り合わせて、余分な革を切り回して、最後の1枚で微調整すれば、ヒールは接地するはず。

積み上げを貼って、微調整。トップリフトも貼って切り回しました。

声:想定通り。靴の姿になったけど、つま先ラバー補強が残ってるんだった。少し休憩しよう。



休憩は、趣味の物を弄ってます。

声:革製品ならなんとか修復できると思ってヤフオクでこんなボロに手を出したけど、なとかなるもんやね。今度はシフトブーツ作ろ。

つま先ラバー補強の前にヒールに化粧釘を。
ヒールと釘の面を合わせる為に釘を切って、
やすりで面合わせです。

声:やすりが寝てしまって、トップリフトの角を傷つけない様にしないと。

つま先にラバー補強の為の加工です。傾斜のついたラバーにあわせる様に加工します。

声:厚めに起こした革と気持ち深めに掘った溝のおかげで、出し縫いは無事。思い通りになって良かった。

ラバーを貼って削り整えました。

声:傾斜が合わさって厚みが揃った。気持ちいい!

コバのバリが出ていたのを落として、色を入れました。

声:やっぱりバリを落としたらスッキリ
したけど、エッジがぼやけてシマリが無いな。最後にウィールで引き締めよう。

半カラス。境界線に書き出して、そのラインをコテでなぞります。こうするとインクが滲み出し難くなります。

声:このコテがけ何回やっても緊張するわ。ずれない様に慎重に落ち着いてやろう。

半カラスの色入れです。

声:兎に角はみ出さない様にしないとな。マスキング使えば安心だけど、時間かかるし、多少はみ出てもリカバリーする方法あるからリラックスして色入れよう。

ソールのエッジを縁取って見た目を引き締めます。

声:レンデンバッハは、ロウが入るとハッキリとした褐色になるのが好き!

底の仕上げ。バフィングして汚れを落として、毛羽立った底をフノリと言う海藻を煮詰めた物で目止めします。

声:ソールステイン使えば手っ取り早いけど、風合いはこれに勝る物は無し。しかし、臭いなー。そろそろフノリ作り直そう。

半カラスの境界線にウィールがけ。

声:半カラスのインクがはみ出てたらこれでリカバリーするけど、今回はその必要も無いし、素直にウィールがけできるな。

カラス部分にワックス塗っておきます。

声:綺麗にウィールの模様が入って気持ちいい!ワックスもしっかりと塗ったし、ピカピカになるのが楽しみー。

ヒール、コバをバフがけ。

声:熱ゴテ使ってロウを浸透させればより良い仕上げになるけど、短時間でここまで綺麗になるバフって便利。


バリを取ったままだったウェルトにウィールをかけました。

声:はい!引き締まった。ウィール優秀。

最後は磨いて完成。

声:やっとできたー。疲れた。楽しかった。写真撮りながらだと時間かかるな。その割に、写真撮り忘れたところ多々ある。どんなブログにしようかな。

以上、お付き合いありがとうございました。

職人と言えば、無口で頑固と言うイメージが有りますが、心の中では結構おしゃべりで、頻繁にガッツポーズを決めたり、ニヤニヤしたりしております。


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