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つるが伸びる豆 紫花豆

 豆には、「つるあり」タイプと「つるなし」タイプがあり、その栽培方法にはかなりの違いがあります。
「つるあり」の豆は、つる状の茎を伸ばしながらどんどん大きくなっていきます。そのつるは何かに巻きつかないとだらりと下に這ってしまい、きれいな豆がなりません。
 そのため、つる性の豆には株のすぐ近くに長さ3mほどの細い竹を挿します。挿したあと豆のつるは竹に巻き付きながら、上へ上へと伸びていきます。
 この、竹を挿す作業がなかなかに大変です。深く挿さないと栽培中に茂った葉の重さや強い風で倒れたり、バランスを崩して抜けてしまうのですが、土が硬く締まっていると竹を深く挿すのにかなりの力が要ります。普段はしない作業に、手には水ぶくれができ、腕もお腹も筋肉痛になります。

 つるありの豆には、有名なところでは紫花豆や白花豆、虎豆、大福豆などがあります。また、くり豆、貝豆などもつるありです。これらの生産量は年々減っていると聞きました。農業の大規模化・効率化が進んでいることを考えると頷けます。つるなしの豆に比べると、つるありの豆に必要な作業はたくさんあります。

 株の横に竹を挿し、4本で結わえ、豆のつるを竹に誘導(つる上げ)します。竹を挿しているので、機械での除草作業はできません。成熟の進み具合と霜に当たる前の、わずかなタイミングを見計らって一株ずつ株を根元から切り、そのまま乾燥させます。収穫は手で竹を抜き、巻き付いた豆のつるを外し、山積みにしてさらに乾燥させ…これらの作業は、現代でもほとんど機械化が進んでいません。ほぼすべて、人の手で行われます。

竹挿し

 逆に言えば、開拓時代から変わらない作業ということです。
つる豆を栽培しているとき、私は北海道を開拓した人たちに思いを馳せます。紫花豆の試験栽培が始まったのは、文献によると1914年頃。当時の人も、こうやって竹を挿したのかな。大変だったろうな…それは、単なる懐古趣味ではありません。オリベの豆やは、開拓時代の手法や技術をなぞるのではなく、豆を作り続けた人の思いを大切にしたいのです。
 ある人は、ただただ生活のために、手間のかかる紫花豆を作らなければならなかったのかもしれません。ある人は、厳しい自然に嫌気がさし、北海道なんて来るんじゃなかったと思いながら種子をまいたのかもしれません。 いいえ、きっと当時から手間がかかるこの豆を、心底楽しみながら作り続けた人もいたでしょう。その味に魅了され、たくさんの人に食べてもらうために作付けを増やそうと働きかけた人もいたかもしれません。
 だから100年間、この豆は途絶えていません。誰かが作り続けたから、今年もこうして紫花豆の種子をまくことができます。私はそのことに感動します。
 つるありの豆の栽培には、確かに手間も時間もかかります。けれど、「手間がかかる」、それだけの理由で先人たちが紡いできた時間を途切れさせたくないのです。「昔はこんな豆が作られていました」というような、単なる思い出話にしたくないのです。
 人は豆を来年に繋げようと種子をまく。豆はそれに応えるように、畑で生命力を発揮する。それが何年も、何十年も続いている。いま私はその先端にいる。そう思うと、やめられない、やめたくない、と思うのです。

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 種子をまいて2カ月ほど経つと、豆の花が咲きます。紫花豆の花は次から次に咲き、何週間も目を楽しませてくれます。この花を見ると、つらかった竹挿し、やってもやっても終わらない草取り…それらの記憶はどこかに飛んでいきます。それほど見事な花を咲かせます。この花の全部にさやがついて実をならせたら…そんなことを考えると、いつの間にか秋の収穫が楽しみになってきます。きっと開拓時代の人たちも同じ気持ちだったはず。
そう思います。
そして、また来年も種子をまくのです。

花豆の花

 オリベの豆やは、豆と一緒に100年の時間を超えて受け継がれた思いを、お届けしたいと思っています。

肝心なことを忘れていました。その豆、美味しいの?
はい。とっても美味しいんです。

煮豆



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