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もう会えない君へ


SNSで知り合ったひとに恋をしていた。年齢も、住んでいる場所も、どんな姿をしているのかも知らないひとに。

 *

わたしにはもう人生を共にしている人がいて、いたって平凡に、普通の生活をしていた。

出会いが欲しかったとか、そういうわけではない。なんとなく遊び始めたアプリで仲良くなった友だちのひとりだった。

そのひととは8か月ほどメッセージのやりとりをしていた。やりとりは一日に一度、いつも眠る前の布団の中でこっそりと。お互い忙しい時は10日に一度のときもあった。

休日は何してた?とか、おかしな顔文字を送りあったり、ただ名前を呼びあうだけの日もあった。たわいもない会話がほとんどだった。

おそらくわたしの方が年上なのは気づいていただろうけど、「おりちゃは、おりちゃだ」とさらりと言うひとだった。

わたしのこの名前も、そのひとが名付けてくれたものだ。


SNS上のやり取りなんて嘘ばかり、と思うだろう。

でも、いつもまっすぐで包み隠さない、おおらかで誠実なひとだった。きっと普段も、周りから慕われているのだろうな。

わたしはそのひとがくれるやさしい言葉にいつも笑顔をもらって、癒されていた。ひとり暮らしで具合がよくないと言われたときは、看病に飛んで行きたいとも思った。

大げさかもしれないけど、日々の忙しさに追われるなか、当時のわたしにとって、そのひとだけがわたしの味方であり、唯一の救いだったのだ。

それなのに、そのひとはわたしの前から消えた。


「いままでありがとう。いい子見つけた。」と、いつもと変わらず優しい言葉をのこして、さわやかな風のように。


消える理由も知っていたし(理由は書かないけれど、とても尊敬できるものだ)、納得していたはずだった。友人だから。

でも、会えなくなって一か月、わたしはずっと悲しかった。


もう二度と会えない。


ちっぽけな携帯の中で起きた出来事なのに、仕事も手につかなくて、夕飯の支度をしていてもつーっと涙が出てくる。


この気持ちはなんだ。


動揺している自分の気持ちを、すなおな気持ちを忘れないように、そのひとに宛てた手紙を書いて、ブログにのせた。


いつだったか「見てきたよ」と言ってくれたブログ。

君にいつか届きますようにと願いながら手紙を書いた。


 *

12月24日、クリスマスイブです。

聖なる夜にありがとうを伝えたい人はたくさんいるけれど、今日は、わたしの大切な友人へ手紙を書こうと思います。もしかするとラブレターかもしれません。真剣に手紙を書きます。だから、えっ?ラブレターなんて気持ち悪いよ?読む必要ないよ?と思う方は、どうかここでそっとブラウザを閉じてください。

名前を書いてしまうと恥ずかしくなるから、君って呼ぶね。

君は桜の咲くころにわたしの前に現れた。花筏が綺麗だと言った君を、文学的でロマンチストなんだなぁと思ったよ。

いつも変わらず誠実で、飾らないのが君のいいところ。

思いやりがあって、おちゃめで、賢くて、やさしくて、いつもわたしを笑顔にしてくれたね。どうしてこんなにいい子なんだろうといつも思ってた。

でもほんとは、無理して明るく振る舞っていたんじゃないかな。いつも何かを我慢してるみたいで、つらそうだったから。だから、消えてしまいそうな君をみてると、優しくしてあげたくて仕方なかったよ。

この日記も、君に会えなくなったときに書き始めた。たしか七夕だったよね。会えない時も元気でいてほしくて、わたしも元気にしていることを伝えたくて手紙を書いてたんだ。

秋、どうしようもない理由でわたしのほうが勝手に姿を消してしまって、ごめん。帰ってももう受け入れてもらえないと思ったけど、やっぱり会いたかった。わたしが戻ったとき、君が一番に飛んできてくれたんだよ。めちゃくちゃ嬉しかったな。君は理由も聞かず、以前と変わらず優しくて、どれだけ救われたことか。

楽しい時間はあっという間に過ぎて、ある日、君は好きな事をしたいといった。はっきりと。ほんとのさよならの時が来た。わたしはその考えがとてもすてきだと思い、また、君らしいなとも思った。

今でも、ときどきふっと君が心に浮かぶ。楽しい会話を思い出すたびに笑ったり、鼻の奥がつんとしたり。自分でも不思議なくらい気持ちがころころ変わる

会えなくなった今、こういう気持ちになるのもわるくない。すきだったんだ。そしていまでも。


わたしを見つけてくれてありがとう。今でも君はわたしの宝物。

誠実で、情に厚くて、いたずらっぽくて、かわいくてしかたなかった。ハスキーな声も、まっすぐな髪も、たくさんくれた優しい言葉も、お気に入りの曲もわすれない。遠くから応援しているよ。

お別れの時にきちんと伝えるべきだったけれど、何も、ほんとうに何も言えなかった。だから今日、クリスマスに、感謝の気持ちを込めてこの手紙を贈ります。

もう、この手紙が届かなくても。

 


恥ずかしいくらい真面目に書いた手紙は、あのひとに届いたかどうかはわからない。

非現実の世界で出会ったひと。でも、たしかにあの時わたしのそばにいてくれた。離れていても、心はつながっていたんだ。思い出すたびに今でも胸がきゅっと痛む。


笑っているかな。元気でいるかな。

やりたいこと思いっきりできてるかな。


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