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どうすればVO2maxが向上するのか

前回で自転車、ロードバイクの強さについて定義し、強化すべきパラメータを明確にしました。

その中のひとつ「VO2max(最大酸素摂取量)」をいかにして高めるか、について今後数回に区切って解説していきます。

VO2maxの重要性についてはこちら


どうすればVO2maxが向上するのか

スポーツ経験がなく、現時点でトレーニングしていない方は、いわゆるLSD未満の強度で適当にペダルを回すだけでも、恐らくVO2maxは僅かに向上するでしょう。
運動習慣のない方であれば割と何をやっても、ある程度までは向上してくれます。

しかし、このnoteを読んでくれるような方は自転車への尽きぬ情熱を胸に、日々練習に励み、既にそれなりのトレーニング歴・ステータスを有しているもの、と思っております。

そのため、今回を含め今後のVO2max向上を目的とした記事はあくまで既にトレーニングをされている方に向けたもの、とあらかじめお断りしておきます。
自転車を始めたばかりの方は真似しない方が良いです。下手すれば怪我したりするのでマジでやめてください。

結論:インターバルトレーニング


先に現時点での結論から言ってしまいますと、VO2max向上には高強度インターバルトレーニング(HIIT)が効果的と思われます。
(なお、今回は2-5分程度の比較的努力時間の長いHIITについて取り上げますが、30-30秒等のShort ITが有効でない訳では全然ありません。今後の記事で解説していきますので、気長にお待ちいただければ幸いです)

まず、VO2max向上に重要なのは
「Time spent at VO2max
  (T at VO2max)」

である、と近年いわれています。(1)

これは「身体の酸素摂取量がVO2max付近、つまり個人の最大値に到達した状態で過ごした時間」を指し、私は"VO2max滞在時間"と勝手に呼称しています。

言い換えれば
「VO2max向上を狙うならVO2max付近の強度を維持した時間が重要」
ということです。
シンプルな理論ですが、実際にメニュー作成に適応してみても効果的ですし、特異性の法則にも適っています。
よって、私もこのT at VO2maxがHIITの最優先考慮事項である、と今のところは考えています。
(もちろん、速筋繊維の動員割合の増加、心臓血管系の適応等、他の要素もありますがキリがないので、この投稿ではこれを主たる要因として取り上げます)

VO2max滞在時間はどの程度必要か


諸説ありますが、
VO2max向上を目的とした場合、良く鍛錬された競技者では一回のトレーニングセッションあたり"T at VO2max 8-14分が必要"
とされています。(2)

ですが、これは相当ハイレベルな競技者に対する基準です。
私見に過ぎませんが、プロ選手やトップアマチュアでない限り、より少なめの5-10分程度でも効果が見込めるのでは?と考えています。

必要なT at VO2maxは個人差の大きな部分であると考えられ、全ての人が先述の時間内に収まるとも限りません。
HIITを開始して日の浅い選手では4分でも効果があるかもしれませんし、トッププロは15分まで延長しなければ望んだ効果が得られないこともあるでしょう。

また、後述の通りHIITは高強度運動であるため、神経筋や心肺機能へ多大な負担をかけます。
ひたすらに量を消化してT at VO2maxを稼ぐようなアプローチをしてしまうと、傷害やオーバートレーニングのリスクを高め、結果的にVO2maxが低下してしまう恐れがあります。
最大酸素摂取量で過ごした時間がただ長ければ良い、というわけでもありません。

8-14分というガイドラインを元に試行錯誤し、自身に最適なT at VO2maxを発見する事が、効果的なメニュー作成への一つの鍵となるでしょう。

T at VO2max = 練習の合計努力時間ではない

さあ、必要時間が見えてきたところで、どのようにしてそれを確保するのでしょう。

話を一層ややこしくしてしまいますが、
T at VO2max = 練習1回の総努力時間ではありません。

目が眩むほど高強度の運動をしたとしても、最初の1秒目から酸素摂取量がVO2maxに到達するわけではないためです。
高強度運動の開始とともに、身体の酸素摂取量は安静時レベルから急激に上昇していきますが、実際の強度と同等のレベルに至るまで少しラグがあります。

David.Wら(3)が行った非鍛錬者を対象とした研究では、運動強度が上昇するほど時間は短縮されるものの、酸素摂取量がVO2maxへ到達するには最短でも2分程度を要する、との報告があります。(135%Pmaxで124±19秒)

これが鍛錬者の場合では結果が少々変わる可能性もあることから、1分20秒-2分20秒という見方もあります。(2)

いずれにせよ
"運動開始からVO2max到達までにはそれなりの時間がかかる"
というのは疑う余地がないでしょう。

この「VO2max到達までの時間」も考慮しなければなりません。

これを念頭におくと、仮にT at VO2maxを8分確保したければ"十分な強度で"最低でも10分前後はペダルを踏み続けなければならないのです。

この"十分な強度で"という点が、さらにトレーニングメニュー作りの複雑さを増す要因となります。

VO2max付近=必然的に高強度


一般的にVO2max到達のためには最低でも90-95%VO2maxの強度が必要とされ、85%程度では十分でないようです。(4)

想像が難しいと思いますが、これは"かなり高い強度"です。
あのFTP(Functional Threshold power)でさえ、おおよそ50-90%VO2max(個人差あり)とされています。(5)
"VO2maxを引き出すのに必要なのはFTPを軽く超える強度"と言えば苛烈さがご理解いただけるでしょう。

故に>90-95%VO2maxのパワーを長時間維持することは基本的に出来ません。
FTPを30分キープすら辛いのですから、これを数十分に渡って出力するのはほとんど不可能です。

よって、先程申し上げた「最低でも10分間に渡って十分な強度でペダルを踏み続ける」というのは難しい課題といえます。
実際、可能な方もいるでしょうし、コンディション次第で達成出来るかもしれませんが、練習の度にこれに挑むのは不確実で現実的ではありません。

VO2max刺激のために強度は下げられない。
そんな長く続けられない運動を十分量実施して、数分間のT at VO2maxを確保しなければならない...。
この相反する要求をちょうどよく解決してくれるのがHIITなのです。

分割してT at VO2maxを確保する


ここでようやく「VO2max向上にはインターバルトレーニングが効果的」という結論に至ります。

T at VO2maxは、
「 最大酸素摂取量=VO2maxに到達した状態で過ごした"合計時間"」
と定義されています。

つまり"1セットで十分なT at VO2maxの確保が難しければ、何セットかに分割してしまえば良い"のです。

例)
※各セット毎のVO2max到達までの時間を2分と仮定(あくまで仮定)

3分100%VO2max→2分パッシブレスト×8
→総努力時間3×8=24分
→そのうちT at VO2max=8分間


という形に、8分間も最大酸素摂取量を刺激出来るHIITが簡単に完成しました。
強度が高く、セット数も多いものの、達成不可能なレベルではないでしょう。

加えて、インターバルのセットを追うごとに各セットでのVO2max到達までの時間が短縮されるという嬉しい報告もあります。(6)

ざっくり言えば
"1セット目はVO2maxに至るまで2分かかる
が、2セット目は1分少々で済む。
→VO2maxを刺激可能な時間がより増える"

可能性があるのです。

これも考慮すると、上記例HIITではT at VO2maxは10分前後と見積もれますし、8分間確保するだけで良いのなら8→7セットと量を減らすことも出来るでしょう。
わずかな差ではありますが、苦しむ時間が短く済むのは有難い事です。

結論:インターバル(2度目)


VO2max向上に対するHIITの有効性の概要を示したところでまとめに入ります。

①VO2max滞在時間=T at VO2maxが重要
②これをおよそ8-14分確保する必要がある
  分割して確保しても有効
③VO2max到達までにはラグがあることから
  長めの総努力時間でメニューを組む
③強度は90-95%VO2max以上
   85%では不十分
  よって、継続的運動での達成は困難
→インターバルトレーニングが有効!!


このようにHIITを用いることで、
T at VO2maxを必要なだけ確保する無駄のないメニューを作ることが可能、というのはご理解いただけたと思います。

さて、ここで強度に関する大きな問題が立ちはだかります。

これまで90-95%VO2maxなど
"VO2maxを指標とした強度設定"を繰り返し述べて参りました。

しかし残念ながら、VO2maxの正確な測定は設備・機材の整った研究室でしか行えません。
費用も高価で、HIITに勤しむ全ての競技者が利用できるとは到底言えません。

VO2maxがわからないというのに、どのようにして強度を決定したら良いのでしょう?
幸い、我々サイクリストにはパワーメーターという武器があります。

おかげで、"100%VO2maxに相当するパワーを特定する"事さえ出来れば、かなり正確にHIITの強度設定を行えます。

次回はVO2maxパワーを推定するPPOテストをご紹介し、より具体的なHIITメニュー作成についてお話し出来ればと思います。

大変な長文にも関わらず、最後までご覧いただきありがとうございました!


参考文献

(1)Interval training program optimization in highly trained endurance cyclists
Paul B Laursen, Cecilia M Shing, Jonathan M Peake, Jeff S Coombes, David G Jenkins
Medicine & Science in Sports & Exercise 34 (11), 1801-1807, 2002

(2) Science and Application of High-Intensity Interval Training: Solutions to the Programming Puzzle (English Edition)
Paul Laursen,Martin Buchheit

Human Kinetics 2018

(3)The relationship between power and the time to achieve VO2max
David W Hill, David C Poole, Jimmy C Smith
Medicine & Science in Sports & Exercise 34 (4), 709-714, 2002
HILL, DW, DC POOLE, and JC SMITH. The relationship between power and the time to achieve VO2max. Med. Sci. Sports Exerc., Vol. 34, No. 4, pp. 709–714, 2002.

(4)High-intensity interval training, solutions to the programming puzzle
Part Ⅱ:Anaerobic Energy,Neuromuscular Load and Practical Applications

Martin Buchheit, Paul B Laursen
Sports medicine 43 (5), 313-338, 2013

(5)Lactate threshold concepts

Oliver Faude, Wilfried Kindermann, Tim Meyer
Sports medicine 39 (6), 469-490, 2009

(6) Effects of prior heavy exercise onV˙o 2 kinetics during heavy exercise are related to changes in muscle activity

Mark Burnley, Jonathan H Doust, Derek Ball, Andrew M Jones
Journal of Applied Physiology 93 (1), 167-174, 2002

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